第8話 その魔術は思い出さなくていい

 二階からは剣を使う。

 俺は基本、武器を何でも使える。護身術なので、敵の武器を奪って使いこなすのもやるのだ。

 なんなら銃も使える。護身術として。


 もらった剣をモモに出してもらい、眺めた。

 包丁くらいの切れ味かな。

 ……まぁ、鈍器だと思って使おう。

 ただ、下手に刃が食い込むと、もってかれそうだよなー。

 その辺を慎重に測りながら使わないと……。


 ……って考えていたらやってきましたゴブリンズ。

 二匹がノコノコ、って擬音をつけたくなる感じで歩いてきたよ。

 俺を見つけると、とたんに敵意剥き出しで走ってきた。

「――ふっ!」

 タイミングを合わせて右足で踏み込み、喉を切り裂く。

 そのあとサイドステップで回避した。

「うおー! 兄ちゃんカッコいい、カッコいいぞ!!」

 モモが大はしゃぎだ。

 ……ちょっと剣を頑張っちゃおうかな!


 と、いうわけでしばらく剣を使います。

 ゴブリンがくると、剣で切り裂いた。

 慣れてきたら、けっこう格好よく振れるようになってきた。

 モモがおだてるので調子に乗ってしまう。


 我に返り、モモをジト目で見た。

「……モモ。もしかして、おだててるだろ」

「? なんでだ? 兄ちゃんはカッコいいぞ!」


 よし! 剣を極めるぞ!


 特に何事もなく二階は突破、三階、四階も数が増えただけだった。

 五階。ここで武器を持ったゴブリンが出てきた。

「モモ! ゴブリンがちょっとずつ進化してきているぞ! 防御魔術は思い出したか!?」

「兄ちゃん! 当たらなければどうということはないぞ?」

「モモーーーーッ!」

 思い出す気、ないだろ!


 モモにゴブリンを近寄らせてなるものかと、見つけ次第即駆除! 害虫的対応をした。

 しかし……ヤバいぞ。

 ここにきて、支部長が言っていたことが、じわりじわりと理解できてきた。

 俺一人ならなんとかなりそうだが、モモを守りながら戦うのは思った以上に大変だ。

 SPさんってすごいんだなぁ……。


 気を張りつめながら六階、七階をクリア。

 モモも参戦し、俺の背後を守るように魔術を撃ち出している。

 というか、魔術を使うゴブリンが出てきたぞ!

 さらには、弓を使うゴブリンまで出てきた!

「モモーッ! 飛び道具はヤバいって! お願いだから防御魔術を思い出してくれーッ!」

 俺が悲愴な声で叫ぶと、モモが呆れている。

「……兄ちゃん。こんなの、当たったって怪我なんかしないぞ?」

「何言ってんだよ!? モモ、現実を見ろ! 今のお前は魔王じゃない、普通の女の子なんだよ! 他の幼児と変わらないんだ! 転んだだけでひざ小僧を擦りむいちゃう、幼気な幼女なんだからな!」

 モモは目をぱちくりさせた。

「兄ちゃん? もしかして、わかってなかったのか? 兄ちゃんもあたしも、フツーじゃないぞ?」

「は!?」

 モモは呆れたような顔でさらに言った。

「兄ちゃんもあたしも、オーラが違うんだぞ。だからあたしは『どんな奴だったんだ?』って兄ちゃんに聞いたんだ! 兄ちゃんふうに言えば、ぼーぎょまじゅちゅがずっとかかってる感じだぞ!」

「嘘だろマジかよ!?」

 ぶったまげた。

「んでもって、兄ちゃんにかけたアレで、もっと強くなってるぞ! 矢なんか当たってもへっちゃらだぞ!」

 ってモモが言い切ったけど。

 ……本当かなぁ……。


 不安なので、何度も「兄ちゃんの心の平穏のためにも、お願いだから防御魔術を思い出してくれ!」と繰り返しつつ先に進んだ。

 ――確かに、ゴブリンの放つ魔術も、矢も、へなちょこなんだけど。

 思わず手刀でたたき落としてしまうほど、速度は遅いし、ヘロヘロしながら飛んでくるし。

 そんなんでよく飛ぶよな? 重力仕事しろし、とツッコみたくなるくらいの鈍足さで飛んでくる。


「兄ちゃんはすごいな! 手でまじゅちゅや弓を弾き飛ばせるなんて、魔王みたいだぞ! 兄ちゃんも実は魔王だったりしないか?」

 目をキラキラさせてモモが問いかけてくる。

 やめて。期待値上げないで……。

「…………兄ちゃんは、普通の人だったよ。ただ、今のこの身体は『悪役令息』って奴だから、それでかもしれない」

 主人公はもっとゲーム補正がかかるんだろうが、悪役令息ごときでもゲームの登場人物ということで補正がかかるのかもしれない。

「悪役ろーそく! なんか悪そうでカッコいいな!」

 と、モモが言う。そうかな……?

 モモは魔王だから感性が独特なんだろうな。

「ヒーローとかのほうがカッコよくないか?」

「よくない! そういうこと言う奴はあたしに迷惑をかけてくるんだ!」

「おぉ、発言が魔王っぽい」

 しかも、わりと苦労人タイプのね。


 とかなんとか会話をしつつ、たどり着きました地下十階。

「さて。ここで一発、隠し部屋を見つけようと思う。そうすれば、モモの防御を上げられる可能性がある」

 モモが前半の言葉を聞いて目を輝かせ、後半の言葉を聞いてめっちゃ顔をしかめた。

 俺はモモのほっぺを引っぱる。

「モ〜モ~。兄ちゃんはモモがすごーくだいじで、モモの安全のためならなんでもするんだぞ? なのに、なんて顔をするんだよ」

「ひいひゃんわひんはいほうふひる」

 何を言ってるのかわからないね。

 今度はほっぺをむにっと押して、アヒル口にしてやった。

「ちゃんと防御魔術を思い出してくれない限り、モモの安全を第一優先にするからな?」

「ぶぶぶ」

 もっとわからなくなった。


 モモがぽかぽか叩いてくるのでやめた。

「兄ちゃん、変顔させるな!」

「ハハハ」

 かわいかったから、ついやってしまった。

 モモは俺をジト目で見た後、「あ」とつぶやいた。

「兄ちゃん、思い出したぞ」

「お!? とうとうか!」

 ホッペむにむに攻撃で思い出したのか! やってよかった。


「自爆」

「モモーーーーッ!」

 それは思い出さなくていい魔術だろ!

 モモはケタケタ笑った。どうやらほっぺ攻撃の仕返しだったようだ。

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