第7話 使ったことあったかな?

 翌日からダンジョン攻略を進める。

 当座の目標は、隠し部屋の宝箱を回収し、銀級を目指す、だ。

 恐らく、銀級へのランクアップは中級ボスを倒したらだろう。金級は、このダンジョン全攻略。

 さすがに全攻略となると、泊まりがけになりそうだ。

 本来は非常に苦しくつらいのだろう。ただし、俺にはかわいい妹モモの、素晴らしすぎる魔術がある!

 ゲームのアイテムボックスのような魔術があるのだ!

 自分やモモの体力管理、怪我のリスクはあるけれど、それでも他の探索者よりだいぶ有利だし、イージーモードだよな。


 神亜宿支部にやってくると、受付に……いないんですけど支部長!

 俺がまごついていると、モモがトコトコと受付に向かい、

「オッチャンを呼んでくれ!」

 と叫んでくれた。

 受付の女性がニッコリとモモに笑いかけ、

「ちょっと待っててね」

 と言うと、内線電話をかけて支部長を呼び出している。


「おー! 来たか!」

「来ました」

 支部長がやってきたのでホッとした。


 モモが受付嬢とごにょごにょ話しているのが気になったが、俺は手招きしている支部長のほうへ向かった。


          *


《受付嬢とモモの会話》

 受付嬢は、身を乗り出し、片手を口元に添えてモモに耳打ちした。

「……ねぇ。もしかしてお兄ちゃん、女性が苦手なの?」

 モモはうなずいた。

「兄ちゃん、こないだまでうちに下宿してた痴女に襲われそうになってて、そんでもってその痴女が兄ちゃんに襲われたとか嘘言ったんだ。それで、ジョゼーフジンなんだ」


 受付嬢はしばし考える。

「ジョゼ夫人……んー、女性不信かな? なるほどね……。お兄ちゃん、見た目はカッコいいもんね。大変ね……」


 長めの前髪で目を隠しているが、それでも顎のラインや整った鼻筋などを見るからに、なかなかのイケメンだろう。

 常に俯きがちなのも、陰のある雰囲気を醸し出している。


 が、副支部長から、

「彼、女性が苦手みたいよ。支部長が相手するから、彼が来たら支部長を呼び出しなさい。あるいは、妹さんのほうに話しなさい。妹さんを通してなら会話できそうだから」

 という通達があった。


 若い、カッコいい、不幸系、だが将来有望株、という好きな人は好きそうな属性持ちなので『自分が担当に!』と狙っていた受付嬢もいたが、ガッカリして肩を落とした。

 あと、四歳の妹を通して、というヘタレさで人気が下がったのだった。


          *


 支部長はダンジョンに入る手配をササッと行い、

「稼がねぇといけねーからって無茶すんなよ。FDECのスローガンは〝いのちだいじに〟、だ」

 と、念押ししてきた。

「大丈夫ですよ。モモもいるので気をつけます」

 俺のかわいい妹には、いっさい傷を負わせない!

 心配そうな支部長に苦笑し、俺はモモを呼んでダンジョンに入った。


 周りに人がいないことを確認し、モモに尋ねた。

「モモ、魔術は他に思い出したか?」

「んー……。あ、そうだ! 兄ちゃんに倍加魔術をかけてやる!」

「ナニソレ」

「動けるようになる!」

 と、モモがきっぱり言ったんだけど、どういうこと?

「とりあえずかけてみて」

「うん! むむむ……よーし、いくぞー。【倍加】」


 とたんに、薄暗かったダンジョン内がパァッと明るくなり、さまざまな音が聴こえるようになった。

「感覚が鋭くなるのか」

「それだけじゃないぞ! 強くなるぞ!」

 モモが付け加えた。

「なるほどな……。じゃ、しばらくこのままでいくよ。この感覚に慣れたい。あとこれ、いつ切れるんだ?」

「魔王がかけたんだから、解かない限りは切れないぞ!」

 うーわー。魔王すごい。

「じゃあ、ダンジョン内はこのままで。出るとき解いて」

「わーった!」

 モモが挙手しながら返事した。


 倍加すごい。

 超感覚になるなら最初は慣れないんじゃないかと思ったけど、そんなことはなかった。

 元気溌剌絶好調! 今ならなんでも出来るぜ! みたいな無敵感になるだけだった。

「特に、白が眩しいほどに白く見えるな……」

 音は、ノイズキャンセリングだったのが解除された、みたいな感覚だ。雑踏がよく聞こえる。

 微細な空気の流れなんかも感じられる。マジで無敵感!


 でもな。


「モモ〜。防御魔術を思い出してくれよ〜。今日、ボスまで挑もうと思ってるんだぞ?」

「兄ちゃん。ゴブリンキングごとき一瞬でチリだぞ?」

 ……なんでモモはそんなに自信満々なんだ?

 はぁ、とため息をつき、歩き出した。


 蹴術のスキルがカンストしてたので、今日は短刀術のスキルのカンストと、他の武器のスキルを生やそうと思う。

「一階は素手とダガーで、それ以降は剣でも使うかな」

「いいな! 兄ちゃん頑張れ!」

 モモがかわいく応援してくれた。


 階段に向かって歩いていくと……はい、ヨタヨタとやってきました餓鬼ならぬゴブリン。

 どう見ても餓鬼なんだけどね……。

「オラァッ!」

 顔面を殴りつけたら吹っ飛んで壁に当たった。

 たぶん死んでるけどナイフで刺しとく。

「買ってもらってよかった」

 グローブがいい仕事をしている。全然手が痛くならない。というか衝撃すらこない。


 モモが飛び跳ねて喜んでいる。

「兄ちゃんカッコいい!」

「そ、そうか? ……ほら、コイツらは弱いから」

 いやマジで弱いんだよ。でも、モモにはエエカッコしたいのでちょっとしか謙遜しない!


 一階は、下り階段までに出てくるゴブリンを数匹倒しただけだ。

「この階段を下りたら地下一階……なんだけど、階層で数えるから二階になるか。ここより魔物が強くなってるぞ。……たぶん」


 いや、あんまり変わんないんだけどね。

 ちょっと増える、くらいだった気がする。

 モモは、「あたしが兄ちゃんを守る!」とかはりきっているけど。


「二階は、単体だったのが二匹とか三匹とか、数匹単位で徒党を組んでくる。十階までいくと、もっと群れてくるから、それまでに防御魔術を思い出してくれよな?」

 俺が念押しすると、モモが渋い顔をして腕を組んだ。

「……ボーギョのまじゅちゅ、使ったことあったかな?」

「モモーーーーッ!」

 今は魔王じゃないんだから、振り絞って思い出せ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る