第6話 それは土木作業員のような

 だいたいの概要は聞けたし、地図ももらった。

 本来は買うのだそうだけど、お詫びとして支部長がくれたのだ。

「地図ばかり見てると敵に気付けねぇから、事前に確認して頭に叩き込んどけ。あと、下層は参考程度にしとけよ。たまに変わることがあるからな。自分の目で見て確認しろ」

 と、アドバイスをもらった。


 さらに、お詫びに防具も買ってやる、と言われたが……。

「いや、動きが阻害されると戦えないので」

 お断りした。


「チビちゃんはどうだ?」

 支部長がモモに振ったら、

「カッコ悪いからヤダ!」

 という理由で拒否ってた。


 ……そうなんだよ。この防具、デザイン性がない。頭部の防具なんか、まんまフルフェイスヘルメットだもんなぁ。頭を守るのが大事なのはわかるが、これを二人でかぶって金属バットを持っていたら、まるで強盗じゃないか。


 だけど、支部長にまぁまぁとなだめられて俺は防刃のインナー、妹はゴーグル付きの赤いハーフヘルメットを買ってもらった。

 俺は視界と音を犠牲にするのが嫌だったので、ヘルメットをパスした。俺、受け身取れるし。


 ヘルメットをかぶったモモを見て、俺は褒める。

「お、かわいいぞ~」

「そうか? ……うん、じゃあ買ってもらう!」

 事故はヘルメットで半減するからね。交通安全的な感じだが、転んで頭を打った程度ならヘルメットで防げるからじゅうぶん。

 魔物の攻撃?

 そんなん、大事な妹に近寄らせるわけないだろう!?


 さらに、俺は攻撃用のブーツとグローブを、モモは杖とそれを吊すベルトを買ってもらった。

 杖の先端が尖っているので、刺すことが可能ってことだ。使わせる気はないが。


 モモは杖を持ち、ポージングする。

「兄ちゃん! 魔王っぽいか!?」

 うん、ヘルメットで魔王感は台無しだからね。

 どっちかというと、ピッケルを持った土木工事、もしくは登山の人かな……。


「ありがとうございます。とりあえず体裁は整いました」

「いや、こちらこそだな。訴えられたらヤバかった」

 俺が礼を言ったら、支部長がしみじみと返してきた。

 そんなにヤバいのか。

 モモが俺の手を掴んで引っぱる。

「兄ちゃん! じゃあ帰るぞ! 今日は、ハンバーグ食べるんだ!」

「了解。じゃあ帰ろうか」

 ホント、俺の妹はかわいいなぁ!


 低級魔物の魔石の買い取り価格は、一個三百円だ。

 これを、高いと思うか安いと思うか……。

 命を懸けて倒した、とかなら安いけど、蹴ったら死んで三百円儲けた、くらいの感覚だと高いかもしれない。

 ちなみに一階では二十匹ほど狩ったので、六千円稼いだ。

 そして、モモが空間魔術で収納してくれたので二十個の魔石を集めても負担はゼロだ。


 ……俺たちは、わりとチートなのかもしれない。

 もし、モモの空間魔術がなければ、下層に行き狩りまくっても『邪魔になるから』という理由で捨てていかないといけない事態が起きるかもなぁ……。


 それはともかく、今日の夕飯はハンバーグを作ることになった。

 俺は御令息だが、前世の記憶があるので料理が作れる。

 なんなら上手い。ずっと料理をしていた記憶があるからだ。


「さて。作るか」

 まずは付け合わせだな。

 粉ふき芋と、ほうれん草とコーンのバター炒め。これが俺的定番。

 追加で、モモの好きな人参グラッセを作る。

 モモはソワソワして、狭い部屋と台所(キッチンとは呼べない)を往復している。かわいい!


「よし、付け合わせ完了。いよいよハンバーグだ」

 玉ねぎをみじん切りにして炒め、皿に移す。

「モモー。玉ねぎを冷ましてくれー」

「わーった!」

 モモが団扇でパタパタと扇ぐ。


 冷めたらパン粉、卵、牛乳、塩少々を入れて混ぜておくように伝え、俺はひき肉に塩を入れて捏ねる。

「まとまってきた。こんなもんかなー。……モモー。それ、こん中に入れてくれー」

 モモが飛んできた。

「いくぞ兄ちゃん!」

「来い!」

 ドバッと入れられたのを、さらにこねる。

 ついでにナツメグと胡椒も振ってさらにこね、白っぽくなったところでやめる。


 等分に分けて、成形し――。

「焼くぞ!」

「やったー!」

 強火で熱したフライパンにハンバーグを置き、焦げ目を両面に付ける。

 焦げ目がついたら熱湯を注いで蒸し焼きにする。

 表面が盛り上がったら完成。

 皿に盛り、今度はソースと目玉焼き。


 フライパンを洗わずに、酒、ケチャップ、ウスターソース、しょうゆ、みりんを入れて沸騰させて煮詰める。

 フライパンを使っているので卵焼き器で目玉焼きを焼く。

 ソースが煮詰まったらハンバーグにかけて、目玉焼きを乗っけて、副菜を盛りつけて……。

「出来上がりだー!」

「やったー!」

 肉汁ジュワーハンバーグの出来上がりだ!


 御令息御令嬢だが、ハンバーグにはご飯派だ。

 炊いたごはんをよそって、食べる。

「「いただきます」」

 御令息御令嬢なので、ハンバーグはナイフとフォークで食べる。

 テーブルマナーは習わされたのでそこそこできるのだ。


 モモは、ハンバーグの真ん中を切り開き、黄身と肉汁をあふれさせてから、肉をほおばる。

 目をキラキラさせて俺を見て、

「兄ちゃん! すっごくうまいぞ!」

 と言ってくれた。

 俺の妹は、ホンットかわいい!


 モモには好き嫌いがほぼない。

 なんてったって四歳なので激辛系は食べさせないが、お子ちゃまの嫌いな代表ピーマンも、料理によっては食べる。

「モモは好き嫌いがなくていい子だな~」

 俺が撫でるとくすぐったそうな顔で照れている。

「子ども扱いするなよ、兄ちゃん!」

 とか言うけど、四歳は子どもだよね。なんなら幼女だよね。


「――で、兄ちゃん。どうだった?」

 と、モモが尋ねてきた。

「うん、ゲーム通りだな。明日見つけるよ」


 ――俺が最初に神亜宿ダンジョンを選んだ理由。

 いまだ暴かれていない宝箱を見つけるためだ。


 あとは、可能な限りランクを上げておきたい。

 半年後の新ダンジョンまでに、最低でも銀級はほしい。欲を言えば金級。

 新ダンジョンは、主人公たちじゃない、俺とモモで攻略する!

 ゲームでは最初のダンジョンだから、正直たいしたものは出ないはずんだけど……。

 あのダンジョンでは、主人公が覚醒するきっかけが起きる。


 つまり、取り巻きの誰かが、死ぬ。


「……アレ、最悪らしいんだよな……」

 見事ハーレムを築いていたら、必ず誰かを見捨てないといけない選択肢なんだ。

 能力的に、うちで下宿していた美美久アヤメさんが見捨てられるのが定番だそうで……。

 俺としてはざまぁ展開だが後味が悪いから、俺とモモで、とっとと攻略してしまおう。


 だがしかし!

 連中をおとなしく追い返すためには銀級は必要だ。金級ともなれば、緊急時の避難強権が発動できる。

 金級の誘導に従わない場合、下手をすると刑罰モノだ。というか、新ダンジョンに他の金級が入ってきた場合、俺たちも追い出される可能性がある。

 現在六月。新ダンジョン発生は十一月にある。


「半年足らずで金級か……。いけるかな」

 俺のつぶやきをモモが拾い、笑顔でサムズアップした。

「兄ちゃんならよゆーだぞ! あたしもついてるんだから!」

 うぅ、俺の妹が優しかわいすぎる。

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