第5話 称号、魔王

「あとは……。禁止事項か」

 と、つぶやいた支部長から、ざっくりと禁止事項を語られた。


 基本は、法律に基づく。

 ……が、国ではアウトでもFDECではオッケーな場合もあるし、その逆もあるそうだ。


「一番の違いは、魔物と戦っている連中に手出しをする行為だな。もし外で魔物に襲われている一般人がいたら助けに入るだろうが、ダンジョン内では御法度だ。とはいえ、雑魚敵は果たして誰が狙っていたかなんてわかんねぇから、ボスのみになる。つまり、ボスと戦闘中の場合はおとなしく扉の外で待ってろ。戦闘が終わって三十分もすれば、また復活するからよ」

 なるほどね。ボス部屋の扉って、戦闘中の場合でも他のパーティが開けられるらしいよ。


「あとは、当たり前だが窃盗傷害殺人は普通に罪になるからな。ただし、証拠がないとどうしようもねぇ。そして、証拠はなかなか集まらねぇ。特に殺人はな。ダンジョンが死体を喰っちまうから」

 俺は眉をひそめた。

 支部長も暗い顔をする。


「……正直、ダンジョン内は人が少なく犯罪が見つけにくい。探索者の良心に期待するしかないところもある。……が、犯罪行為を行っているとダンジョンが告発してくるので、わりとバレる」

「マジか」

 ダンジョンが告発!? ダンジョンって監視してるの!?


 支部長はニヤリと笑った。

「おっと、どう告発してくるかは教えられねぇ。でも、探索者にほぼ犯罪者がいないのは、ダンジョンに告発された犯罪者をFDECが取り締まっているからだ。んでもって、FDECと警察組織とのつながりはねぇ。FDECの犯罪取締部門が独自の裁定と刑罰を下す。これは、国が口出しできねぇようになってんだよ」


 それを聞いた俺はホッとした。

 警察は信用ならない。

 ……親父が汚職で捕まるとか、ゲームのストーリーになけりゃ絶対に信じられない事態だ。いややってるかもしれないけど、親父は警察に踏み込まれるような汚職をしないはずだから。


 それに、あの刑事。

 絶対に変だった。

 通帳どころか財布まで持ってったんだ。


 下着やら服やらを持ってかれなかったのは、俺が男で妹が四歳だからだ。美美久アヤメさんの荷物があったら、絶対に理由をつけて持っていっただろう。「チッ! ヤロウとガキのしかねぇのかよ」って吐き捨てていたから。


 あんな刑事のいる警察がマトモなわけがない!


 俺がFDECで働いていることがバレたら、犯罪をなすりつけてくる。……が、どうやら証拠がないとどうしようもなく、逆に、連中が犯罪行為をすればダンジョン経由でバレて連中が警察だろうとFDECに捕まる。

 むしろ捕まえてほしいよな! ざまぁ展開だ!


 ……って俺が考えていたら、支部長は手をパン、と叩いた。

「新人に話すのはここまでだ。あとは、十階層をクリアしてからだな! ……あぁそうだ、大事なアドバイスだ」


 ぐっと身を乗り出して、俺を見据えた。

「いいか、死ぬなよ。生きてりゃ勝ちだ。あと、調子に乗るな。もっと戦える、って思ったときが一番危ない。そこで殺られる奴が多いんだ。……ダンジョンから戻ってきたら、必ず俺に報告に来い。どんなに疲れていてもだ。わかったな?」

「……はい」

 報告がない、イコール、死、ってことか。


 餓鬼から手に入れた魔石を換金してもらった。

 ゴロゴロと取り出したら、支部長と副支部長に呆れられる。

「……お前ら……。いきなり飛ばしすぎだろ! 死んだらどーすんだ!」

 って怒られたんだけど。

「……いや、だって、めちゃくちゃ弱かったですよ? 蹴ったら死んじゃうんですから」

 壁に叩きつけるように蹴ると、すぐ死んでしまう。

 普通に蹴っても、しばらくすると死んでしまう。

 どっちみち死んでしまうんだよね。


 支部長があごに手を当てて考え込んだ。

「……そういや、そうだっけかな?」

「確かに、筋肉バカだとそういう結果にもなりますけど……」

 と副支部長が毒舌を吐いてきた。

 いや、筋肉バカってほど筋肉ないよ?

「武道をやってるらしいから、それでかもしれんなぁ。ただ、ゴブリンはそれで倒せるかもしれんが、他のはそんなにうまくいかないからな。覚えておけよ」

「はい」

 ……アレ、ゴブリンだったんだ。餓鬼だと思ってた……。


「こんだけ戦ったなら、スキルが生えてるかもしれねーな。ちょっと来い」

 と、謎の言葉を言われ、支部長に手招きされた。

 ハテナマークを頭に浮かべつつ支部長についていくと、登録したときのパッドがあった。


「手をかざしてみろ」

 そう言われたので手をかざす。

 すると、パッドに文字が浮かび上がった。


『スキル……蹴術=レベル10』


「「は?」」

 俺と支部長が声を上げた。

 他にも短刀術がレベル5だ。何故に?


 支部長がちょっと呆然としながら解説してくれた。

 ダンジョンで戦っていると、『スキル』と呼ばれるアシスト魔術を会得することがあるという。魔術とは言っても、魔力はほとんど使わない。そして、アシストするだけなので、本人が攻撃なり何なりのアクションを起こさないといけない。

 だが、スキルがあると通常よりも威力が高くなるそうだ。


「……うーん? 餓鬼……じゃなくて、ゴブリンが弱すぎて、スキルにアシストされていたかどうかわかんないなぁ。初っぱなから蹴ったら死んでそうだったけど」

 トドメは念のためにしたけど、たぶん死んでた。


「やべぇな、ワケありかと思いきや、大型新人だった、ってか」

 支部長が感心したように俺を見た。


 すると、モモがぴょんぴょん跳ねる。

「あたしもやりたいやりたい!」

 支部長はモモを見て、

「……なくてもガッカリすんなよ? お前の兄ちゃんが特殊なだけなんだからな?」

 と、言いつつパッドに手を当てさせた。


『スキル……空間魔術=レベル5 爆炎魔術=レベル1 短縮詠唱

 称号……魔王』


「「はァ!?」」

 妹のスキルがとんでもなかった件について。

 つーか、称号ってなんだよ!?


 支部長も驚いたみたいだ。

「こんなチビッコが称号持ちかよ……」

 と、つぶやいている。


 俺は挙手して尋ねた。

「あの……称号ってなんですか?」

 支部長は顎を撫でた。

「うーん、なんて言えばいいんだか……。意味はそのまんまだ。何かやらかしたり、達成したりするとごく稀につく。ダンジョンがつけるあだ名みたいなモンだな」


 あだ名……。

 なんか、ダンジョン自体が生き物みたいな雰囲気で言ってるよな。


「で、チビちゃんにダンジョンがあだ名をつけたわけだが……何やったらこんな称号がつくんだ? つーか、魔術使えるのかよ……。いや、使える奴は年齢関係ないらしいけど、それにしても驚きだよな……」

 支部長がまじまじとモモを見たら、モモは得意げに胸を反らせた。

「だから言ったんだ! あたしが兄ちゃんを守る、って!」

「いや、兄ちゃんもそうとうだぞ。あと、攻撃魔術はすごいが、守備がないだろ。それがなけりゃ、いまだ兄ちゃんのお荷物だよ。チビちゃんに襲いかかる魔物は兄ちゃんが倒さねーとなんだかんな」

 と、ソッコー支部長が説教をかまし、モモの天狗になった鼻を折った。

 モモ、うぐ、とたじろいでいる。


「……【魔王】は、モモが魔王魔王言ってたから、言葉を拾われたのかなぁ」

 と、俺は考えた。

 前世が魔王だったから、とは考えにくい。なら俺にも称号がつくはずだ。【一般人】っていうね!


 支部長が大笑いしていた。

「確かに、魔王っぽい魔術だよなぁ。それでかもしれんな」

「ムキー! おっちゃん、信じてないな! あたしは魔王なんだかんな!」

 支部長が俺を見た。俺はうなずく。

 ……と、また支部長が笑う。

「確かに、道中これを連呼してたら称号がつくかもな!」

 実際、こんな会話をずっとしていたからね。ダンジョンがモモを【魔王】って認識したのかもね。素直だな、ダンジョン。

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