第4話 すみませんでしたぁー!
いったんダンジョンから出て、FDECに戻った。
なんか、FDECにいた人たち全員から拍手されたんだけど……。
「無事戻ったか! こっちにこい!」
と、最初の受付をしてくれたおっさんが声をかけてくれた。
「一階しか行ってないんで、大丈夫でしたよ」
と、俺が言ったら呆れられた。
「いや、確かに一階はゴブリンしか出ないけどな? そもそも、素人が魔物と普通に戦えるってのがおかしいだろ」
って言われた。確かにそうか……。
「武道を習ってたんで……。もっと忌避感があるかなって思ったんですけど、意外となかったです」
「あたしもついてるからダイジョーブだぞ!」
と、モモが付け足していた。
受付のおっさんは、「それだけ追い詰められているのか……」と、俺たちを不憫そうに見た。
追い詰められてはいない……と、思うけど、これで稼げなかったら困るかな。
ゲームの舞台からは退場したけど、人生までは退場したくない。特にモモは退場させない。
と、いうわけで、稼がないといけないのだ。
「あのー……。それで、具体的にはどうやって稼ぐんですかね? 魔物の死体を持ってくるのかなって思ったら、消えちゃって」
とたんに、全員から注目された。
その後、突き刺さるような視線がおっさんに集まる。
おっさんが青くなった。
と、思ったら拝むように謝られた。
「すまん! 説明不足だ!」
えぇー……。
本来は、その辺の初心者への説明を受付からされるのだが、モモの叫びでおっさんが号泣し、うっかり忘れたらしい。
「いや、弁解になるけどな。俺は本来、受付じゃねーんだよ。今日は二人休みで、人手不足だったから入ってんだ。だいたいがかわいい女の子のほうに行くだろ? よっぽど忙しいとかじゃなけりゃ俺ンとこにはこねーし、間違っても『登録したい』なんて奴がいるとは思わなかったから油断してたわ、ハハハ」
ハハハじゃないよ。
ダンジョンに入るのは自己責任、そこで命を落としてもFDECでは責任を問わない……が、説明らしい説明をされずに登録した場合は、故意にダンジョンの危険さを隠したこととなり、非常にまずいことになるらしい。
と、説明され、平謝りに謝られた。
「もしお前たちが死んでたら、俺は犯罪者だったな」
「死んでなくても犯罪者ですね」
おっさんがつぶやいたら即、女性にツッコまれていた。
おっさんがギクリ、として振り返ると、妙齢の女性が仁王立ちしている。
「連絡を受けて、休みなのに飛んできましたよ。まさか、支部長が率先して重大な過失を犯すとは……」
おっさんは生唾を呑み込み、そして……
「すみませんでしたぁーーーー!」
と、大げさに謝った。
応接室に通された。
お菓子を出されたのでモモにやると、はしゃいで食べていた。
「兄ちゃん! めっちゃうまいぞ!」
「よかったな。俺の分も食べな」
だから、兄ちゃんの代わりに、この怖そうなねーちゃんと会話してくれないかな?
「俺は、
おっさん改め支部長が語るところによると、現在神亜宿FDECではスタッフが産休で人手不足になり、支部長や副支部長も受付をしないといけないほどになったそうだ。
「バイトには新規登録なんて任せられないので私たちが入っているんですが……まさか支部長がバイト以下の働きしか出来ないとは思わなかったもので、申し訳ありませんでした」
副支部長が深々~と謝ってくる。
モモを肘でつつくと、「ん」と、俺に向かってうなずき、お菓子を飲み込んで口を開く。
「気にしなくてもダイジョーブだぞ! あたしも兄ちゃんも強いからな!」
と、答えてくれた。
副支部長は、首をかしげて俺を見ているようだが、俺はうつむいたままだから。見ないでくれ。
「……いや、本当にすまなかった。無事に帰ってきてくれて何よりだ」
と、おっさん改め支部長も頭を下げてきたので、俺は軽く首を横に振る。
「いえ、本当に大丈夫ですから。……支部長が入ってくれていて助かりましたし」
受付が全員女性だったら、俺、登録できなかったかもしれない。
副支部長は俺をじーっと見つめている。
俺は、決して顔を上げない。
そうしたら、副支部長は何かを察したようにポン、と手を打ち、
「では、彼らは支部長の担当ということにしましょう」
と、言ってくれた。
「はァ!? なんでだよ!?」
「責任をとってもらいましょう。本来なら懲戒免職処分モノですもの。彼らの担当になり、後見人になってもらえばいいわ。……というわけで、受付は支部長自らがやってくれるから、安心してね」
副支部長が笑顔で言う。
モモはキョトキョトしているが、俺はホッとした。
「……それなら、よろしくお願いします」
と、支部長に挨拶した。
「えぇえ~……」
支部長は嫌そうな顔をしていたが、急に顔を引き締めて、
「いや、確かにそうだな。俺のやらかしで死んじまったかもしれねーんだ。最後まで面倒みてやるよ!」
と、言ってくれた。
でもって、そのまま支部長からダンジョンのレクチャーを受けた。
――ダンジョン。
それは魔力というエネルギーで出来た迷宮。地上にいる生物とは異なるモンスターが棲まい、入り口から遠ざかれば遠ざかるほどに凶悪になる。
出てくるモンスターは、すべて魔力で産み出されたダンジョンの眷属――〝魔物〟だという。
魔物を倒すと、死体はダンジョンに吸い込まれる。
そしてなぜか〝ドロップアイテム〟といわれる遺留品を落とす。
「これが、探索者の主な稼ぎとなる。他にも、ここのダンジョンだと宝箱があるな。よそのダンジョンは変わった草や鉱物が採れるってトコもあるぞ」
「「へー!」」
神亜宿ダンジョンの宝箱はポーション類。
深層に潜るにつれてさまざまなポーションが見つかるそうだ。
宝箱は、部屋に入ると必ずある場合や、先着一名、誰かが開けると消えるタイプがある。また、中身が入っていない場合もある。
宝箱に見せかけた罠もあるので、開けるか開けないかは自由。初期の頃はかなり死人が出たそうだ。そして、今は必ず中身のある安全な宝箱以外は開けないのが主流だそうだ。
「たいしたモンは入ってないからな。つーか、先着一名はもう取り尽くされてる」
ダンジョンが現れてからもうかなりの年月が経っているから、そう考えるのが普通だろうね。
当時は、新規ダンジョンが発見されたらお宝探しでランク関係なく探索者が押しかけ、死人をバンバン出しながらバンバン攻略されていった。
今はそんなことがなく、〝いのちだいじに〟をモットーにFDECが探索者講習を行ったり等級をつけ行き先に制限をつけたりして、探索者ができるかぎり死なせないように配慮しているそうだ。
そして、新規ダンジョンはもう長い間発見されていない。
「次は、ダンジョンのタイプだ。神亜宿ダンジョンとぜんぜん違うタイプのダンジョンもあるから、覚えておけよ」
と、言って、支部長が説明しだした。
ダンジョンのタイプはさまざまで、神亜宿ダンジョンは〝洞窟型地下迷宮〟に分類されるそうだ。
他には、『
神亜宿ダンジョンの最深部は五十階。ボスがある部屋までの区切りで、どの階層にいるか呼ぶらしい。つまり最初は十階層。十階のボス部屋までを一括りにそう呼ぶとのこと。ちなみに初心者用の渋虫矢ダンジョンは、エリアは分かれているが階段を下りるとかいうアクションはなくて、そのまま最奥へ進むとボス部屋がある、一階層のみのダンジョンだそう。
神亜宿ダンジョンは、すでに全階層攻略されているダンジョンだ。
階層も深い。ここを全攻略出来たら一流の探索者といって過言ではないらしい。
「そして、お待ちかねの魔物の解説だ。……いや、本当に悪かったな。最初に説明するトコだったのによ」
支部長が頭をかいた。
「今から説明するのは新人向けだから、全部の魔物がそうだって勘違いすんなよ? 聞いた情報を鵜呑みにすんな。お前ら自身が実際経験したことを信じろ。わかったな?」
と、真剣に前置きしてから、教えてくれた。
魔物は、生き物と変わらず呼吸をするし、成長もする。食事をするかはわからない。食事風景を見たことがないからだ。
急所は魔物によって違うが、生き物タイプなら普通に生き物と同じ部分が急所になる。
「例外がアンデッドだな。ここのダンジョンでは出ないが、それ系ばっかり出るダンジョンもあるぞ。肉体のあるアンデッドは頭を潰せ。実体のないアンデッドは……物理じゃ無理だ。逃げろ」
ということだった。
ドロップアイテムは、魔物によって違う。
「とはいっても、低級魔物は全部『魔石』っていう石を落とすだけだ。何を倒そうとも、魔石だな。ただ、これはいろいろ加工できるんで、安定した価格がついている。お前らのような新人探索者の、最初の稼ぎになる」
ふむふむ、と俺はうなずいた。
アレだ、前世で観たアニメ的に言う、『薬草集め』みたいなクエストだな。
「で、もうちょい経験を積んでくると、中級魔物を倒すことになる。最初の中級魔物は、十階から十一階に移る前の部屋に陣取る『ゴブリンキング』だ。低級魔物を使役して襲いかかってくる。これが倒せたら……ヒヨコにくっついてる殻が取れた、くらいにはなるかな。だが、まだまだ新人だ。ここで油断したら十一階以下はクリア出来ない」
と、真剣に語る。
が、次には支部長は明るく言った。
「だが、ゴブリンキングを倒したら、ヒヨコの殻が取れた、ってことを認められる。お前らに渡したドッグタグは鉄を加工したものだが、ゴブリンキングが倒せたら、この支部では銅のドッグタグに変えてやるんだ」
ドッグタグは、鉄、銅、銀、金という順でランクが上がっていく。
鉄級は初心者、銅級は低級探索者、銀級は中級探索者、金級は上級探索者。
「さらにだ。本部で一流の探索者と認められたら、階級を〝マスター〟とし、幻の金属でドッグタグが作られる。現在は五人しかいないし、そもそも金級自体が日本にいないんだよな。……お前らも、もしかしたらそこまでいけるかもしれんから、期待しているぞ!」
とか言われた。その、日本人初の一流冒険者、ゲームの主人公である池端エイユウだったんだよなぁ……。
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