第3話 レッツトライ、ダンジョン!

 おっさんに登録してもらった。

 パッドに手をかざすと、魔力に反応してパッドが光り、ドッグタグが発行される。


 魔力紋は一人一人違うので、世界異変前の指紋みたいな役割をするのだ。

 少なくても反応するらしいけど……魔力のぜんぜんない奴はどうするんだろうね。

「コレ、魔力無しってどうなるんですか?」

「探索者になれねーな。登録ができねぇ、っつーのはそういうこった」

 なるほどね。


 モモも手をかざし、ドッグタグを発行してもらって喜んでいる。

「別になくしてもかまわないが、再発行には金がかかるぞ」

 と、おっさんに言われた。

 探索者という仕事柄、こういうID系はなくす前提らしい。


 自分の魔力紋を登録したら、FDEC内ではそれに反応するようになるので、ドッグタグはどちらかというと死んだときの遺品、という役割のようだった。

「あと、知ってると思うが、FDEC内でもダンジョン内でも、探索者同士の揉め事は厳禁な。襲われたら報告しろ。魔術痕跡ですぐ判明するから」

「わ、わかりました!」

 すげぇ。警察いらないじゃん!

 ……あ、逮捕するってトコだけはいるのか。捜査が必要ないってダケで。


 その後、ダンジョンに向かおうとしたらいろんな探索者に声をかけられた。


「生きて帰れよ! よかったら、コレやる。ポーションだ。ダンジョン内とFDEC内でしか効き目がないから、覚えとけよ!」


「頑張ってね! コレ、携帯食料。食べたら一週間ほどは食べなくてもなんとかなるから」


「お前ら、武器はなんだ? ダガー? ……一応、剣も持っとけ。使い古しの安物だが、ないよりマシだ。武器は予備も持っていたほうがいいから、ちゃんと用意しておけよ。あと、使っているとスキルが生えることがあるからな。極めてもいいが、最初はいろいろ使え」


 涙ぐまれながら励まされ、めっちゃアドバイスと物をもらう。

 モモが放った言葉に、みんな同情したらしい……。

 モモもめっちゃ声をかけられていて、モモは胸を張って「兄ちゃんはあたしが守るから大丈夫だ!」と言っている。


「ついていってやろうか?」という人もいたけど、断った。

「俺たちは、二人で生きていかなきゃいけないから。二人で経験を積んで、強くなります」

 と、答え、ダンジョンに入った。


 ――正確には、ゲームの知識と照らし合わせたかったのがあるんだけどね。


          *


 ダンジョン。

 それは、明らかに【異変】と呼ばれるだけある、かつて人の手で解明された事象とはかけ離れたことわりでできたものだ。

 だいたいの入り口は深淵の洞窟のようになっていて、入ると唐突に雰囲気が変わる。

 入ったとたんに海だったり森林だったりすることもあるらしい。


 俺が選んだ神亜宿ダンジョンは、整然とした洞窟タイプだ。

 まるで人の手で作られたようなきっちりした床と壁があり、通路は迷路のようだった。

 光源もないのに、洞窟内は薄暗いながらもはっきりと見渡せる。

 特に変な臭気もないし、清潔な雰囲気だった。


「ゲームはやってたけど、実際来てみると感動するよなぁ」

 俺は、洞窟内の壁を触りながらつぶやいた。

 壁はつるっとしながらもデコボコしている。そして、意外なことにほの温かったりする。なんでだろう。


 モモもキョロキョロしながらあちこちを見て、

「すごいな! 魔力の塊みたいなトコだぞ!」

 と、叫んだ。

「え、そうなの?」

 俺が振り向いてモモを見ると、モモがうなずいた。

「魔力回路がいたるところに走ってるぞ!」

「それはすごい」

 ダンジョンが一つの魔力生物みたいな感じなんだろうか。どちらかといえば魔道具?


 二人でキョロキョロしながら歩いていると……前方から何かがやってくる気配がした。

「……何かくるな」

「さすが兄ちゃん! まじゅちゅなしでもわかるんだな!」

 魔術って言えない妹、かわいい。


 俺は、ダガーを抜き、息を整える。

 ……実戦は初めてだから、ちゃんと殺せるか心配だ。

 息をひそめ、感覚を研ぎ澄ます。


 じっと前方を見つめていると、ノコノコ、といった感じで何かが現れた。

 モモより小さい子ども……ではない。腹が異様に膨れ上がっている。

 表現するなら、餓鬼だな。

 俺を認めると、「グギャッ」という、かわいくない声で鳴く。


 息を吸って吐くと、俺は走った。

 向こうも、おぼつかない足取りで走り出す。

 向こうが襲いかかってくるタイミングで蹴りを放つと吹っ飛んで壁に激突していた。

「……意外と弱いな?」

 あまりの呆気なさにちょっと自失してしまった。


 おっと、トドメを刺さないとだな。俺は吹っ飛んだ餓鬼に近寄り、首にナイフを突き立てた。

 餓鬼が短く痙攣し、弛緩した……と思ったら。

「溶けた!?」

 ダンジョンに吸い込まれるように消えていった。

「えぇえ〜……。これ、どうやって稼ぐんだよ……」

 もしかして殺しちゃダメだった? 生け捕り?


 って思ったら。

「……ん? なんか落ちてる」

 拾い上げた。

「……そういや、ゲームでもドロップアイテムだったっけ……」

 ゲームの中だけかと思ってた。


 ……と、モモが駆け寄ってきて、ピョンピョン跳ねた。

「兄ちゃん、やっぱり強いな! カッコよかったぞ!」

「そ、そうか? ま、まぁ、これくらいはな……」

 照れてしまう。

 たぶん、あの魔物は最弱だろうし、群れてもいなかったから余裕だったんだけど……モモの尊敬のマナコを曇らせたくないので言わないでおこうっと。


「親父に習った護身術が役に立ったよな」

 これでも御令息様だったので、よからぬことを企む連中からある程度は身を守れるように、防犯グッズで身を固める以外にも、護身術を習わされていたのだ。

 親父に幼少からボッコボコにされていたので、いつか仕返しをしてやろうとずっと真剣に習ってきた。

 なので、対人ならそこそこはやるんだよね。

 魔物に通じるかは知らないけど。


 拾った石をモモに見せる。

「ダンジョンだと、殺したら死体が消えて、代わりに何らかのアイテムが落ちるらしいな」

 モモは関心なさそうに石を見る。

「ふーん……。死体だらけにならなくていいな」

 確かに。

 死体は腐るし、そうなると臭いからね。


 最初は慣らしとして、一階だけをウロウロした。

 餓鬼一匹なら俺でも難なく殺せる。

 前世はものすごく平和な時代に生まれて、動物なんて殺したことなかったから忌避感があるかなって勝手に思ってたけど、まったくなかったな。

 というか、モモの安否のために積極的に殺すよ。かわいい妹を守るためなら、なんだってするね!


 ……と、考えていたら、モモが俺の裾を引っぱった。

「兄ちゃん。そろそろあたしも戦う。腕ならしする」

「……そうか、わかった」

 確かに、戦えるのならモモにも戦わせないとな。

 ただし! 危なかったらすぐに俺が助けに入ろう!

 と、決意してモモを見た。


「むむむ……。よし、いくぞー」

 緊張感のないかけ声をかけると、モモが手をかざした。

「【爆炎弾】」

 モモの手から何かが飛びだし、現れた餓鬼が一瞬にして炭化し消滅し、俺は目が点になった。


 ……妹の魔術がまさに魔王級だった件について。


 モモは腰に手を当て、むふーと鼻から息を吐いた。

「よし! だいじょうぶだぞ! 魔王時代とおんなじくらいで出せそうだ!」

「マジか。向かうところ敵無しじゃん」

 俺の存在意義は?


 一階をくまなく回り餓鬼を倒しまくったら、とうとう何も出なくなったのでいったん引き返した。

 モモが思い出したのは、先ほどの餓鬼を消し炭にした魔術と収納だけらしい。

「防御魔術を思い出してくれよ〜」

 モモが怪我をしたら嫌なんだけど。

「……兄ちゃん。魔王にボーギョなんか必要ないんだぞ?」

 モモが魔王っぽいセリフを吐いた。

「何その戦闘狂バーサーカー仕様。あと、ソレってフラグってヤツだから、防御魔術を覚えような?」

 俺はモモを諭した。

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