第12話 学園編(8)クラス編成試験
あれから1週間、俺達は通常通りに学園生活を過ごしていた。
ちょっと変わった事があったとすると、火曜日の昼にシリア教官に呼び出された事くらいか。
特に問題では無かったのだが、やはり衣装について色々訊かれたんだよな。
せっかくの機会なので、俺がピグマリオン効果について力説したところ、シリア教官は「実証実験をしてほしい」と言ってきた。
なので、俺は「次の定期試験でその結果をお見せします」と公言し、もう一つ「試験結果がご期待に沿えた時には、その衣装をこの学校の制服にしてもらえないでしょうか?」と打診してみた。
シリア教官は興味津々な様子だったが、「自分の一存では決められない」と、学園長に掛け合う事を約束してくれた。
そして週末の今日、授業の終わりに、学園長からの返事を持ってきてくれた。
「学園長は、次の定期試験の成績でAクラスのメンバー4人以上が400点以上を取れたなら、この衣装の制服化を正式に検討するとおっしゃっている」との回答を得られた。
なるほど、それなら大丈夫そうだ。
俺とティアとシーナ、あとはライドが少し頑張れば4人は堅い。
が、どうせならもっと分かりやすい成果を上げてやった方が「学園ラブコメ化プロジェクト」の足掛かりにしやすいだろう。
幸いクレア星の法は、プレデス星みたいに一つの価値観に縛られてはいない。
より良い可能性があるなら、それを
俺の地球での記憶を活用したアイデアもそうだ。
地球なんてクレア星から見れば劣った星だろうけど、その「文化」は劣っている訳じゃないって事だ。
なら充分に戦えるはずだ。
それにどうだ?
俺達が着ている衣装の効果は絶大だ。
他の生徒たちは俺達を羨望の眼差しで見ている。
これは皆が「
それに、イクスとミリカは最近どこに行くにも手を繋いで歩いている。
これは、本能的にスキンシップを求めているという証拠だ。
更にティアとシーナも俺とベタベタしようと何かと身体を近づけてくる。
まだ性的な感情には至っていないようだが、これもスキンシップを求めている証拠だ。
学園中でラブコメが蔓延し、定期試験の後にやって来る2週間の長期休暇が終われば、学園の雰囲気はガラっと変わっているに違いない。
俺が前世の高校生の時もそうだった。
夏休みが終わった途端に「高校デビュー」みたいな連中が沢山いた。
それくらい、夏休みってのは重要なイベントって事だ。
学園があるこの街に四季は無いが、試験の後の長期休暇が夏休みと同じ効果を生むだろう。
(大丈夫、いけるはずだ。)
俺はそんな事を考えながら、自室でお茶の準備をしていた。
今日はイクスが新しい調味料を持ってくる予定だ。
大豆と麹を塩漬けにして発酵させたものだと言っていたから、たぶん味噌だとは思うが、ここの研究所では加速機が使えるので、うまく活用すれば醤油が完成しているって事もあり得るぞ。
あぁ、醤油だったらいいのになぁ。
とは思うが、まぁ贅沢は言うまい。
おっと、そうだった。
今日からは試験勉強もやらなきゃならないんだった。
今までの授業内容はデバイスで整理してあるのでいいとして、過去の問題とかの傾向が分かればと思い、情報津波を使ってオリジナルの過去問題集を作っておいたんだよな。
なので、今日からみんなにその問題集を答えさせる訓練をしなくちゃならない。
そして、あの衣装を着て試験に望み、もしも俺達全員が400点以上を叩きだしたりしたら、これはもう学園側もピグマリオン効果を信じるしか無くなるだろう。
事実、俺が成績を心配していたイクスとミリカも、衣装を変えてから、授業中に行う小テストでは学力の向上が伺えた。
衣装を変えて、たったの1週間でそんな傾向が現れたんだから、残り2週間集中的に特訓すれば、学力が一気にジャンプアップしても不思議じゃない訳だ。
うんうん。
学園の生徒が全員この服を着て学校に通うようになるのが楽しみだな!
この建物にも階段とかはあるし、ラブコメではお約束の「階段でパンチラハプニング」なんてのも出てくるかも知れない。
男にとってはチラリズムはロマンだしな。
これは全男子生徒共の本能にも突き刺さるはずだ。
男子用の服にもこだわりはある。
まるで中世ヨーロッパの貴族か王子様を連想させる制服デザインだからな。
どこの世界でも白馬の王子様ってのは女子の憧れのはずだ。
自分の
それがいけ好かないローブの男などではなく、パリっと正装を着こなした王子様だったら胸キュン間違い無しだろう。
そんな事を考えているうちにみんなが来る時間になっていた。
最初に来たのはライドとメルスだった。
「よお、いらっしゃい」
と俺はいつもの様に声をかけると
「今日も宜しくお願いします!」
と二人揃ってなんだか礼儀正しい感じだ。
なんだ? これもピグマリオン効果の成せる業か?
次いでイクスとミリカがやって来て、二人は手をつないでいる。
「本日も宜しくお願いします!」
と、これまた二人の息はピッタリだ。
少し遅れてティアとシーナもやって来た。
「お疲れ様です!」
と、いつものフランクさが消えて、何だか運動部の先輩への挨拶みたいな感じだ。
イクスはいつも通りに食材をカウンターに並べている。
今日の食材は、小麦粉、キャベツ、豚肉、卵、そして調味料は、やはり味噌だった。
うーん・・・
この食材での料理って何だろうな。
ちょっとソースが味噌味になっちまうが、ここはあれだな。
お好み焼きっぽいのがいいかもな。
俺はお好み焼き風料理のレシピをイクスのデバイスに送り、料理の準備を任せた。
「よーし、今日も全員揃ったな。今日はいつもとは違って、試験勉強をやるぞ」
と俺は皆が席に着くのを確認して言った。
「試験勉強ですか。それは私たちも個別でやっている事だと思いますが・・・」
とメルスが口を出したが、シーナがそれを制し、
「ショーエンの試験勉強はきっと特別なのです」
と言って俺を見て「お願いするのです」
と言った。
俺はそれを見て頷き、モニターに試験の攻略法を表記した。
「いいか、今回の試験で成績が向上する事が証明できれば、ミリカが作った衣装が、この学園の制服として普及できる事になった」
一同は「おーっ」と声を上げいる。
「そして、試験の成績の向上についての準備も整えたぞ。今回目指すのは、俺達全員が400点以上のスコアを出す事だ」
「400点以上!?」
と、メルスが一番驚いていた。
「入学時の成績からこれまでの小テストの成績を見たところだと、普通にやっても400点を超えられるのは、俺とシーナとティアとライドの4人だけだ。しかし、俺が考えたカリキュラムだと、全員に400点超えの可能性があるぞ」
俺はモニターの画面を切り替え、「そこで俺が、オリジナルの問題集を作成したので、今日はこれをみんなに解いてもらう。しかもチーム制でだ」
と言うと、メルスが不思議そうに訊いてきた。
「チーム制といいますと?」
「二人一組のチームを作り、同じ問題集を二人で協力しながら解答していくんだ」
と俺は答え、モニターにチーム割りを表示した。
Aチーム:ミリカ・イクス
Bチーム:メルス・ライド
Cチーム:ティア・シーナ
「これがチームだ。この数週間で、お前たちは特別な絆を結んでいるはずだ。問題集は決して簡単ではないが、二人一組で協力し合えば、どんな問題も必ず解ける」
続いて俺のデバイスに登録していた問題集を、全員のデバイスに送った。
「これが問題集だ。4教科でそれぞれ150問ずつ用意した。全部クリアすれば600点だ。どうだ?楽しみだろう?」
俺はどこぞのブートキャンプの隊長のような気分になっていた。
そうしているうちにイクスが
「料理の準備が出来ましたよ」
と料理をテーブルに並べ始めていた。
「よし、じゃぁ夕食にしよう!そして食べ終わったら、早速模擬試験の開始だ!」
そう言って俺はテーブルの席に着いた。
お好み焼き風の料理は、豚肉への味噌の味付けを濃いめにしたおかげで、「ホイコーローのナン包み」みたいな風味でそこそこ旨かった。
こんな炭水化物比率の高い食事の後だと、頭の回転が鈍りそうな気もするが、それでも構わない。むしろ鈍った頭でも協力プレイで乗り切れれば実験は成功だ。
俺はティアとシーナの方を見た。
二人ともお好み焼きが気に入ったようで、モグモグと頬張っている。
俺はそのほっぺを眺めながら「ほっぺがカワイイっていいよなぁ」と心の中で思っていたのだった。
△△△△△△△△△△△△
食後の片付けを済ませ、二人一組になる様に座らせた。
問題集を作った本人である俺は試験には参加しないが、実は既に何度も問題集を解いていて、制限時間内で551点を採れる様になっていた。
「よーし、じゃぁ始めるぞ。第一教科、算術。始め!」
俺が号令をかけると、全員が一斉に試験に取り掛かる。
チーム同士の相談はデバイスで行う事にした。
どのチームも順調に問題をクリアしてゆき、全チームが100点を超えていた。
「よし、そこまで!」
Aチーム:104点
Bチーム:118点
Cチーム:124点
なかなかの成績だ。
「よし、次は語学だ。よーい、始め!」
掛け声と共に、皆が一斉に問題に取り掛かる。
その間、俺はじっとみんなの姿を眺めていた。
ライドとメルスのコンビもいい感じだ。
元々成績が良かったライドはもちろんの事、メルスの成長は目覚ましい。
ミリカとイクスの成績が危うかったチームも、これまでも二人で試験勉強をしてきたであろう事が見て取れる。特にこの二人は相思相愛なだけあって、息がピッタリ合っている。
ティアとシーナはどちらも優秀だったが、今は団結力がハンパじゃない。
俺への忠誠心みたいなものも向上しているように思えるし、俺が作る問題を解く事で成績が上がるという事にみじんも疑いを持っていない。
「よし、それまで!」
Aチーム:98点
Bチーム:106点
Cチーム:117点
うむ、悪くない。
この世界では、語学は90点取れれば優秀だとされているから、こいつらは全員優秀以上の優秀さだ。
「よし、次は物理学だ。いくぞ、よーい、始め!」
号令と共に全員が問題を解いていく。
ミリカとイクスは頬同士がくっつくほどに顔を近づけて同じ問題を解いている。
ライドとメルスにとってはこのあたりは得意分野だから、問題は無いだろう。
ティアとシーナもお互いが肩をくっつけ合って問題を解いている。
特にこの二人、目の動きが二人同時に同じものを見ている事がよく分かる。
息も合っているし、そもそも能力値も近いので、何かの共鳴効果でもあるのかも知れない。
「よし、そこまで!」
Aチーム:102点
Bチーム:134点
Cチーム:113点
おお、ミリカとイクスのチームも、この3教科で平均100点を超えているじゃねーか。これは次の教科も行けるかも知れないな。
「よし、最後は化学だ! よーい、始め!」
最後の教科も皆は順調に問題を解いていく。
この教科はティアとシーナの得意分野だ。
料理や染料の研究をしていたイクスやミリカにも期待できるだろう。
「時間だ!そこまで!」
Aチーム:112点
Bチーム:115点
Cチーム:126点
「よし、総合成績を発表するぞ」
俺はモニターに総合成績を表示した。
Aチーム:416点
Bチーム:473点
Cチーム:480点
その結果を見て、俺以外の全員が唖然としていた。
「どうだ? これが命を預けられる仲間と協力した成果ってやつだ」
俺はモニターの前を右へ左へと歩きながらそう言った。「ちなみに、俺はこの試験で551点のスコアを出している」
「ご・・・500点を超えたって・・・」
ティアは目を見張ってそう言った。
「ショーエンなら当然なのです」
とシーナはご満悦の様子だ。
「わ、私たちの成績が400点を超えているなんて、何かの間違いではありませんか?」
と、イクスとミリカは自分の成績がまだ信じられない様子だ。
「いいや、間違いなんかじゃねーぞ。お前たちは二人で協力し合えばこれくらいの成績は出せるんだよ。お互いの長所と短所を補い合いながら点数を稼いだ、一番良い例がお前たちのチームなんだぜ?」
俺はテーブルの席に戻ってさらに続けた。「いいか、来週はこの集会は休みにする。その代わり、各チームに分かれて勉強会を行え。二人一組で、お互いの長所と短所を補い合いながら、今日渡したこのオリジナルの問題集を何度も反復するんだ」
これは予備校とかによくある夏休みの強化合宿のようなものだ。
過去問題集を何度も反復して解く事で、頭がその問題を分類として認識し、同じ様な問題が出ても即座に対処できるようになる。
こいつらは全員がそこそこ優秀だ。
だけど、得手不得手がある。それをチームメイトが補い合い、それぞれが相乗効果を得ながら学べる最高の学習法だ。
「やっぱりショーエンは凄いのです」
「ほんとにそうね・・・」
シーナとティアがそうつぶやくのが聞こえた。
「よし、今日の勉強会はこれで終了だ。来週はチームでの勉強会をして、再来週の定期試験の後でまた集合だ」
と俺は締めくくった。
「解散!」
「ありがとうございました!」
そうして皆が部屋を出て行ったあと、俺は自分の勉強を始めた。
やっべーよ。みんな思ったよりいい点数取ってきたよ。
このままじゃ追い付かれちまうよ。
俺も頑張らなくちゃな!
俺は前世の受験戦争時以来の、全力の試験勉強に勤しむのであった。
△△△△△△△△△△△△
2週間後の定期試験まではあっと言う間だった。
先週は各自のチームが真面目に試験勉強を行ったはずだ。
ラブコメ計画の一環ではあるものの、みんなが思ったより優秀だったので、俺もそれどころでは無かった。
久々の全力の試験勉強をしたおかげで、俺もそうとう疲れた。
そして試験当日、俺達は試験に全力で取り組んだ。
試験会場は入学時に行った会場と同じ部屋だった。
他のクラスの生徒たちも、Aクラスに入る為に一生懸命に勉強したはずだ。
が、試験が終了して結果発表が行われた時、他の25名の生徒は驚愕したに違いない。
ランキング1位:ショーエン・ヨシュア 588点
ランキング2位:シーナ・カレン 486点
ランキング3位:ティア・エレート 485点
ランキング4位:ライド・エアリス 447点
ランキング5位:メルス・ディエン 438点
ランキング6位:ミリカ・ファシル 418点
ランキング7位:イクス・イエティ 417点
ランキング8位:ファム・サード 332点
ランキング9位:セイラ・ジュエルス 298点
・・・・・・・・・・・・・・
結果発表でランキングが表示された後、画面は「試験終了。クラス編成の結果はデバイスに送信します」という表示に切り替わった。
「ねぇショーエン」
「どうした?」
「Bクラスの連中が、絶望してたわよ」
と言ったのを聞いて、ハハハっと笑い、
「そんなの知るかよ。俺達は俺達の全力を出し切っただけだろ」
と言ってまた笑った。「それよりも、明日からは2週間の長期休暇だ。お前は何をする予定なんだ?」
とティアに訊いてみた。するとティアは
「ショーエンと一緒に居る予定だよ」
と恥ずかし気も無く言って俺の右腕に抱き着いてきた。
「私もその予定なのです」
とシーナまでが俺の左腕に抱き着いて来て、周囲の学生たちが騒然とした。
「セブンスターのショーエンに・・・ティア様とシーナちゃんがあんな事を・・・あり得ない・・・」
などと、デバイスではなく、肉声で呟く者も居るようで、他の生徒たちには衝撃が大きすぎて、にわかには信じられない様だ。
「ミリカ! 素晴らしかったね! 僕はミリカに一歩届かなかったみたいだよ」
「イクス、ああ、イクスこそ、とてもよく頑張ってたわ。とても素敵よ」
そうして手を繋いで試験会場に留まるイクス達を見る目も凄まじかった。
「セブンスターのイクス様とミリカ様・・・ やはり、結婚しているという噂は本当だったのか・・・」
と、どうやら尾ヒレのついた噂話が蔓延しているらしい。
「ああ、ライド様~」
「メルス様こっち向いて下さい~」
などという声まで聞こえてくるあたり、ライドとメルスは既にアイドル扱いだな。
「ちっ、またショーエンの奴が1位かよ」
「500点超えって何だよ・・・」
と、憎々しい思いを吐露している者も居るようだ。
相変わらず、どうにも俺の人気が低い気がしてならないな。
ま、美少女二人を両脇に抱えてる男な訳で。
ましてやティアもシーナも人気者だからな。
その二人をはべらせる男が人気者になれる訳も無いか。
「よし、とりあえず今日は解散だ。明日から1週間は各自で好きに過ごしてくれ。で、再来週に俺の部屋で集会を行い、これからの方針を決めていくとしよう」
俺はそう言って、この学園生活の半期を締めくくる事にした。
俺の中では、学園ラブコメ化プロジェクトが遂行中なのだが、それは後期になってからが本番だ。
前期のうちに出来る成果は出せた。
後期は学園全体を巻き込むステージに突入だ。
△△△△△△△△△△△△
翌日、俺は目を覚ましてから、いつも通りに筋トレメニューをこなし、いつも通りにシャワーを浴びて、いつも通りに食堂で朝食にしようと部屋の扉を開けた。
するとそこには、いつも通りでは無い光景が広がっていた。
俺の部屋の前の廊下には、新しい衣装を着たティアとシーナが手を繋いで待っていて、それを取り囲むかの様に他の男子生徒たちが廊下に群がっていた。
どうやら男子生徒たちはデバイスを使ってティアとシーナに話しかけているようで、ティアとシーナはそれらを無視している様だ。
俺が部屋の扉を開けた瞬間に、ティアとシーナはこちらに気付き二人はまるで「いつも通り」とでも言いたげに俺の両腕に抱き着いてきた。
すると周りの学生たちから
「あああ・・・そんな・・・」
と悲痛な声が聞こえて来る者も居れば「あり得ないありえ得ないあり得ない・・・」と念仏を唱えているような者まで居た。
それでも前世の地球の様に「殺してやる」とか「死にやがれ」みたいな罵声が聞こえないあたりが、プレデス仕込みの価値観のおかげと云うべきか。
俺はティアとシーナを両腕に沿えて廊下を歩き出し、俺達を色々な目で凝視する人混みを通り過ぎたところで立ち止まった。
そしてその場で振り返り、
「よお、お前ら。俺達が羨ましいか?」
と男子生徒たちに向かって言った。
「俺達の試験成績を見ただろう。そこにたどり着く為の方法が知りいとは思わないか?」
俺がそう言うと、男子生徒たちが静まり返った。
「お前たちのクラスにも、気になる仲間や気になる女子が居るだろう? 成績を上げたけりゃ、そんなパートナーを作れ」
男子生徒たちはまだ静まり返っている。
「そしてそのパートナーと、こんな風にスキンシップをしろ」
と言って、ティアとシーナの二人をギュっと抱きしめた。
ティアとシーナは頬を赤らめたが、別に嫌そうではない。
「そして、俺達からのプレゼントがある」
そう言って俺達の衣装が良く見える様に両手を広げ「俺達が考案したこの衣装を、この学校の制服として、お前らにも支給する事を学園長が検討している」
とそう俺が言うと、シーナが俺の脇の下から男子生徒たちに向かって
「この衣服の効果は絶大なのです。あなたた達のような下等な者でも成績を上げられるのです」
すると男子生徒たちはざわざわと騒めき始め
「シーナちゃんがそう言うって事は、本当の事なのでは・・・」
「ティア様も同じものを着ているし・・・」
「ミリカ様がイクスさんと手を繋いでいるのを昨日見たし・・・」
俺はそれを遠い目で見ながら
「信じなくてもいいが、疑うんじゃねーよ。現実を見ろ。そして、自分が何をやるべきかを考えろ。お前たちのクラスにも仲間くらい居るんだろ?その仲間とスキンシップをしろ。それが信頼となり、俺達を目指す糧となる」
と言ってからティアとシーナを抱きかかえて踵を返した。
「じゃあな、よく考えて有意義な休暇を過ごせよ」
と俺は右手をヒラヒラと振りながら廊下を歩いて食堂へと向かった。
後に残された男子生徒たちは、お互いの顔を見合わせながら
「でも、僕達・・・ 女子寮には行けないですよね・・・」
「仕方が無い・・・ 我々男子だけでも、やってみるか・・・」
そして、一人、また一人と、恐る恐るではあるが、手を繋いだり、ハグをしたりとスキンシップを始めだした。
そこには、にわかではあるが、新しい世界への芽生えがあったのだった・・・
△△△△△△△△△△△△
「ショーエン、さっきのふごく素敵だったのでふ」
シーナが朝食をモグモグしながらそう言った。
「シーナ、食べながらしゃべっちゃダメでしょ」
とティアがシーナの口元を拭く。
なんだこの親子感・・・
俺はそんな事を思いながら
「あいつらは、根本的にダメな人間では無いからな。最初にAクラスに成れなかっただけで、こんなにも差がついてしまうってのも
そう俺が言った時、ライドとメルスが料理を持ってテーブルにやってきた。
「皆さん、おはようございます」
「よお、ライドにメルス」
ライドとメルスはそれぞれ席について食事を始めた。
ライドはスープを一口飲んでから俺を見て
「さっき、男子寮の廊下で他の生徒達が、男同士で抱き合ったりしてて驚きましたよ」
と言った。
「ははは、さすがは惑星開拓団候補生だぜ。向上心があって、尚且つ素直。伸びしろあると思うぜ」
俺はそう言うと、パンに薄く切った肉を挟んでかぶりついた。
「でも、ほんと。今でも信じられないような成果が出たわよね」
とティアは周りの生徒たちを見回しながら言った。食堂は女子生徒の比率が高い様に見える。
ティアの言葉にライドが反応し
「全員が400点以上の成績を収めたのは、学園史上初の出来事だそうですよ」
と言った。さらにメルスも
「500点以上も史上初だそうですね」
と言って俺を見て「やはり、ショーエンさんは凄い人です」
と、まるで神々しいものでも見るような目で俺を見ている。
何だよみんなして。
あんまり俺を持ち上げるなっての。
俺だって照れるんだぞ?
俺は話の矛先を変えようと、
「それはともかく、ライドとメルスは、この長期休暇はどうやって過ごすんだ?」
と訊いた。 メルスは
「はい、ライドと一緒に人力飛行機の試作機を完成させようと話しています」
「完成したら是非発表させて下さいね」
とライドもその気の様だ。
「ショーエンさんはどのように休暇を過ごすのですか?」
「俺は、街に出て、他の惑星を疑似体験できる施設を巡ってみようと思ってる」
そう、これまで何だかんだと忙しかったし、学園ラブコメ化プロジェクトを仕掛けるのにも手間取ったのもあって、なかなか行けなかったあの惑星疑似体験施設だ。
俺はここで他にどんな惑星があるのかを知りたいし、地球についても調べてみたい。
そして、もしかしたら「あの本」について何か分かるかも知れないとも考えているのだ。
「ショーエンが行くなら私も行く」
「私もなのです」
と、ティアとシーナが俺の腕に絡みついてくる。
ま、そうなるわな。
「よし、じゃあ早速、今日の午後にでも街に出ようか」
と俺が両腕の二人に声をかけると
「行こう行こう~」
「行くのです」
俺達はそれぞれが食事を済ませて部屋に戻り、俺はティアとシーナと合流する為に学園のエントランスに向かった。
するとティアとシーナは既にエントランスで待っていた。
女子の準備は時間がかかるってのは地球での話で、ここでは全然そんな事は無かった。それもそうだ。そもそもこの世界で化粧を見た事が無い。
ファッション選びや化粧に使う時間を無くせば、女子の行動時間って相当に増やせるんだろな。
などと考えながら、俺はエントランスで待つティア達に手を振った。
街までは歩いても行けるのだが、幸いバスが出ている。
俺達はバスターミナルまで行って、バスを利用する事にした。
ほどなくしてバスが到着し、俺達はバスに乗車した。
「惑星疑似体験センターまで」と告げると、バスのAIは降車場所として認識し、到着すれば俺達のデバイスに知らせてくれる仕組みだ。
さて、久々の街で、初の3人デートだ。
それなりに楽しい時間にしてやらなきゃな。
そんな事を考えながら俺は、両腕にティアとシーナの体温をかすかに感じながら、動き出したバスの車窓を眺めていたのだった。
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