第10話 学園編(6)ラブコメのつぼみ

 俺がどのようにして今週を過ごしたかを語っておく必要があるだろう。


 実は毎朝、朝食の際に食堂で出会うミリカの元におもむき、俺が考えたデザインのスケッチを見せて試作品の作成を依頼していたのだ。


 そのデザインについては今日の集会の時に明かされるだろうが、それを着る事になるみんなの姿を想像すると、これはこれでなかなかグっと来るものがあるのだ。


 2週間前に成人してしまった俺の身体は、俺の心とは関係なく局部が大きくなってしまったりと、ちょっと持て余している。

 なので個人的には先週考えたプロジェクトを早く進めたくて仕方が無いのだ。


 ミリカとばかり話してる俺をティアやシーナが快く思っていないのは感じていたが、そんなのは小さな事だ。


 これから始めようとしている巨大プロジェクト、その名も「学園ラブコメ化プロジェクト」に比べれば、ほんの些細ささいな事でしか無いのだ。


 本当はミリカのデザインセンスをみがいて、ミリカ自身にデザインさせる方が今後の為には良いのだが、俺のプロジェクトはテスト期間を考えると今週中に方針を定める必要があり、時間が足りなかったのだ。


 そのプロジェクトとは、来月に迫る定期試験に備えた「勉強会」だ。


 勉強会、それは惹かれ会う男女が一緒に行えば、いつしか甘いひと時に変化する魅惑のイベント。


 気になるあいつが優しく教えてくれる問題の解き方。その時にチラりと見える男のたくましい腕。

 気になるあの子が顔を近づけてきて「どの問題が分からないの?」と訊いてくるあの距離感。その時にチラりと見える女の胸元。


 その全てが甘い衝撃となって若人達をトロけさせるのだ。


 それら全てが彼らの感情を桃色に染め上げ、やがて心が爆発しそうなほどに恋をする。


 その為には、絶対に必要なのだ。


 今日の集会で得られる衣装が!


 フフフ・・・


 と朝食を済ませた俺の口から少し笑い声が漏れていたのだろう。

 向かいの席に座っていたメルスが、口を開いた。


「ショーエンさん。今日は少し、いつもと様子が違いますね」


「そうか?いつもと変わらないと思うが」

 と答えたものの、シーナもメルスと同じ気持ちらしく、


「ショーエン、いつもと違うのです。いつもは、ハハって言うのに、今はフフフって言ってたのです。私のデバイスを見返してみても、ショーエンがフフフって言ったのは今日が初めてなのです」

 という事らしいのだが・・・


 みんな何を言ってるんだ?

 こんなのただの含み笑いだ。


 そう思ってみんなの顔を見回して、俺はふと気付いた。


 アレ?


 そういえば俺、こいつらの笑顔は見た事あるけど、声を出して笑ってる姿って見た事ねーぞ?


 これまで感情を抑制されて生きてきた事は知っている。

 でもそれはプレデス星での事だ。


 クレア星に来て俺達に出会い、それから色々な話をして街にも出かけて、楽しそうにしてたじゃないか。


 メルスの冗談めかしたセリフだって聞いた事がある。

 でもそれも冗談なんかじゃなくて、ただ思った事を言っただけだったのだろうか。


 こいつらはみんな表情が顔に出て分かりやすいと思ってた。


 でも、爆笑してる姿なんて一度も見ていない!


「い、いや、大した事じゃねーよ」

 と俺は苦し紛れにそう言い、「ちょっと楽しそうな事を考えると、フフフって言いたくなるんだよ」

 と誤魔化す事しか出来なかった。


 「なーんだ、ショーエンは楽しい時にそう言うのね。それなら良かったわ」

 とティアはほっとした様にふうっと息を吐いた。


 「了解、デバイスに記録するのです。ふふふ」

 とシーナは早速俺の真似をしている。


 大事にならずにホッとした俺は、ふとこう思った。


 そうか・・・、こいつらは心の振れ幅が極端に小さいだけなのかも知れない。

 これまでの人生が退屈過ぎて、泣いたり笑ったりする程の出来事になんて出会わなかったんだ。


 ・・・だけど、俺がみんなに広めようとしている事は「恋愛」だ。みんなの心を大きく揺り動かす必要がある。


 でないと、恋だってこいつらは平坦なものに制御してしまうんじゃないか?


 つまり・・・、こいつらの心のリミッターを外す必要があるんだ。


 そうしないと恋愛感情なんて燃え上がらないし、衣服のデザインだっていい物が出来ない。


 こいつらは優秀だが、普通の人間なんだ。


 普通に笑い、普通に泣き、普通に恋をする。


 そんな普通の事が出来るはずなんだ。


「よし、今日の授業が終わったら、いつも通りに俺の部屋に集合だ。今日はシーナの成果発表をしてから、ミリカの成果発表の続きをやるぞ」

 俺がそう言うと、

「はい!」

 とみんなは笑顔でそう返した。


 そう、この笑顔は本物だ。


 きっと、問題なんて無いさ。


 △△△△△△△△△△△△


 その日の放課後、俺は自分の部屋に戻り、みんなが来るまでの間、お茶の準備をしていた。


 ・・・恋愛って何なんだろうな。


 これまで前世も含めて色々な経験をしてきたが、胸がときめくような恋愛なんて、中学高校あたりまでだった。


 大学生の頃からは、打算ありきの恋愛ゲームみたいになって、いかに肉体関係まで持っていくかという、欲望の取引みたいな感じになっていた気がする。


 社会人になってからは、バイト先で何度か恋愛したものの、それは「恋愛ごっこ」みたいなもので、なんとなく「彼氏が欲しい」と思っていた女子バイトの子が、何となく近くに居た俺を見て「とりあえず初体験は済ませておきたいから、こいつでいいか」程度の事だったのだと思う。


 熱を上げてたのは俺だけで、女子の方からすれば、金も無く甲斐性にも欠ける俺など、通過点の一つ程度のものだったのだろう。


 そんな俺がこの世界では、小さな集いとはいえ、クラスの中心人物になった。

 それは俺に前世の知識がある事で、向上心の高いクラスメイトから見た時に「斬新な発想と高い学力」が輝いて見えているだけの事だ。


 そんな事を鬱々と考えていると、デバイスで「ティアよ。入れて~」と連絡が来た。

 俺は部屋の扉を解錠してティアを招き入れた。


「あれ?今日は一人か?」

 

「うん。みんなは動く歩道で来ると思うけど、私は訓練を兼ねて走ってきたから」

 と、ティアは肩で息をしながら入ってきた。


「そうか、水飲むか?」


「うん、ちょーだい」

 と言うティアに、俺は飲料水を入れたグラスを手渡した。


「ねえ、ショーエン」

 とティアは席に着きながら口を開いた。「私、こうやって身体を鍛えていて分かった事があるんだけど、身体を動かし続けてると、最初は疲れるんだけど、だんだんと身体の感覚が研ぎ澄まされていく感じがするの」


 俺はお茶を煎れながら、ティアが体力づくりに目覚めだした事を嬉しく思っていた。


「ああ、そうだろ? 身体を動かした方が、頭も良くなるんだぞ」

 

「うん、分かる気がする。来月の定期試験はシーナに負けない気がしてるもん」


「おお、そりゃ頼もしいな」

 と俺が言った時、デバイスがメルス達の来訪を伝えた。「メルス達も来たみたいだな」


 俺が扉を解錠すると、メルスとライド、イクスとミリカが入ってきた。


「あれ?シーナは?」

 と俺が訊くと、ティアが、

「うん。なんだか準備があるから先に行っててって私には言ってたよ」

 と答えた。


「そうか、今日はシーナの成果発表があるからな」

 俺がそう言ってる間に、イクスはキッチンのカウンターに食材を並べだした。


 今日の食材は、麺を乾燥させたパスタのようなものの束、卵、豆乳、玉ねぎだった。


「小麦の麺を乾燥させて、保存食にもなるようにしました。10分程度茹でる事で元に戻りますよ」

 とイクスは俺の反応を待っている様子。


「ああ、上出来だ。これをスパゲッティと名付けよう。今日は、豆乳スープスパゲッティを作ってもらおうかな」


 チーズがあればカルボナーラにしたかったが、この材料でも塩味を付ければスープスパに出来そうだ。

 俺は豆乳スープスパのレシピをイクスのデバイスに送信した。


 そうしているうちにシーナからも連絡が来て、俺はシーナを部屋に招き入れた。

「遅くなってごめんなさいです」

 シーナはそう言いながら、キャリートレーに乗せてきたサッカーボールくらいの大きさの箱をモニターの手前に置いて、モニターに入力を始めた。


 その間にミリカとティアがお茶を煎れてカップをテーブルに並べている。

 ミリカはイクスの分のお茶も煎れ、キッチンのカウンターに置いていた。


 あの二人、なんかいい感じなんだよなぁ。


 俺は横目でその姿を見ていたが、

「よし、とりあえずシーナの成果発表といこうか」

 と言って席に着いた。


 シーナは頷いて、持ち込んだ機器を起動し始めた。

 すると、機器は少し振動したかと思うとシューンという音を立てて静かになった。

「これは、通信の中継機器なのです。デバイスがあれば、この機器を通じて通信ができるのです」


 シーナの話はこうだ。


 プレデス星やクレア星では、通信用のアンテナの様なものが街や建物には必ず設置されていて、それが中継局となって皆の通信が行えているらしい。

 しかし、新しい惑星に行くと、そんなインフラは整っていないだろうから、通信中継局を設置しなければならないそうだ。

 しかし中継局は、その星の開拓に向かった宇宙船を経由して行う仕組みが現状の仕組みで、宇宙船が見えない惑星の裏側ではデバイスの通信が出来なくなるんだとか。


「そこでこの中継機器なのです。これがあれば、宇宙船の経由を必要とせずにその惑星の中で通信ができるのです。その有効範囲は惑星の大きさと重力によるけど、通信電波を重力に影響させる様にしたから、障害物が無ければ目視できない距離まで離れても通信が出来るのです。更にこれを沢山作って惑星に配置する事で、宇宙船が無くても通信網が構築できて、惑星内のどこでも通信できるようになるのです」


 シーナはそこまで言ってハアハアと息をついた。


「すごいぞシーナ。想像以上だ」

 と俺はシーナを称賛した。「しかし、これはどうやって実証実験をするんだ?」

 と検証について訊いてみた。


「これの検証は、来年にならないとできないのです」

 とシーナは言ったが、「来年になると、クレア星の他の街に行く授業があるのです。通信インフラが無いエリアがあるみたいなので、そこで検証するしか無いのです」

 との事だった。


「ああ、なるほどな。よし、来年までにこの機器をいくつか製造しておいてもらって、そこで検証しよう」

 と俺は答えておいた。


 みんなの反応は薄いが、これは凄い技術だ。


 前世の地球では、有線でつながる電話通信が通信の始まりだった。

 次に電波を受信するアンテナを作り、ラジオ放送が始まった訳だ。

 それからテレビ放送に発展して、有線インターネットになり、光ファイバーの開発によって有線ブロードバンドが構築され、無線LANでインターネットが出来る様になったのは、2000年になってからの話だった。


 シーナのこの技術は、それらを通り越して、いきなり無線の大容量インターネット通信が出来る仕組みという訳だ。


 俺はこの成果をきちんと賞賛したいと思い、シーナの元に歩み寄って

「これは凄い技術だぞ。俺の目標を達成する為には不可欠な技術だ」

 と言いながらシーナの頭を撫でてやった。


 するとシーナはみるみる耳まで真っ赤になり

「そ、そ、そ、それは良かったのです」

 と震えながら言って硬直してしまった。


 他のみんなも呆気に取られた様に俺達を見ている。


 え、何?


 ティアも身体を震わせて顔を赤くしながら、

「ちょ、ちょ、ちょっとあなた達・・・」

 と絞り出すような声を上げて「あなたたち、結婚していたの?」

 と訊いてきた。


 はああ?


 「どういう事だ?」

 とティアに訊くと、

 

「だ、だ、だって、ショーエン今、シーナの頭に触れたよね?」


「ああ、まずかったか?」


「だって、それって、夫婦か親子にしか許されていない行為じゃない」


 え、そうなの?


 と俺がもう一度シーナの顔を見ると、シーナは顔を赤くしたまま、息も絶え絶えという感じで俺を見上げている。その目は今にも泣きだしそうに潤んでいて、震える唇を何度もギュっと引き締めながら、

「わ、わたし・・・ まだ成人してない・・・」

 と小声で言った。


 ティアはそのか細い声を聞き取り、

「え・・・ そうなの?」

 と言いながらストンと椅子に腰を落とし「こういう場合、どうなるんだっけ・・・」

 と頭を抱えて考え出した。


 俺はメルスの方を見て

「これって、どういう事だ?」

 と訊いてみた。 メルスは、

「そうですね・・・」

 と言って少し考えてから、「ショーエンさんは、いつもティアやシーナたちの肩を叩いたりするので、それは好意の表れだと思っていたのですが、私も何度もそうされているので、男女構わずそうした想いを持っているのかと思っていました」

 などと言い出した。


 はあああ!?

 肩をたたいただけで何でそうなるんだよ!


 いやいや、落ち着け。


 これは文化の違いだ。

 これを知らなかった俺の方が変なんだ。


 と俺は少し顎に手を当てて考え、そしてひらめいた。


「ティア、これは結婚の表現なんかじゃないぞ」

 と言ってティアの元に歩み寄り、ティアの右手を取って握手した。


 ティアはビクっとして手を引っ込めようとしたが、俺はギュっと握って離さなかった。


「な、な、何・・・?」

 とティアも耳まで真っ赤にしていて、前髪が汗で額に張り付いている。


「これは握手と言うんだ。信頼している相手への意思表示みたいなもんだ」


「し、信頼?」

 と俺を見る目は涙で潤んでいる。


「そうだ。信頼の証だ。俺はお前を信頼しているんだ」

 と言って、手を放し、次いでメルスの元に歩み寄り、メルスの右手を引っ張って同じ様に握手した。


 メルスも少しビクっとしたが、特に抵抗するでもなく、

「そうですか、これが信頼の証なんですね。うれしいです」

 と素直に受け入れているようだった。


 俺はモニターの前でまだ固まっているシーナに

「驚かせたならすまなかったな。でもこれは大切な事なんだ」

 と言って席に座る様に促した。

 この経緯を見て、特に驚く様子を見せていないのはライドだけだった。


「なあ、ライド。クレア星での結婚の定義を教えてくれ」


 ライドは少し考えてから、

「僕がいた街だと、男女が相思相愛になると、街の長老の許可を得て結婚します。結婚したら家が与えられ、子供を作ります」


 ふむ。


「で、子供を作る方法は分かるか?」

 と訊くと、ライドは少し顔を赤らめて

「は、はい。詳しくは結婚した時に長老から教わるのですが、私の両親からは、生殖行為・・・だと聞いています」


 やっぱそうだよな!

 うんうん!


「みんな聞いてくれ。俺がみんなを驚かせちまったみたいで悪かったな。でも、これはとても重要な事なんだ」


 俺はそう言ってモニターにデバイスの情報を入力した。

 モニターに入力したのは、今しがた情報津波で手に入れた情報を元に即席で作った、ちょっとした性教育漫画のようなものだが、まだ表示はしていない。


「俺達プレデス星人は、結婚ってのは政府が勝手に相手を決めるものだと思ってるよな。そして、子供を作るのは、父親の精子と母親の卵子を病院で摘出し、人工的に受精させて母親の子宮に埋め込んで妊娠するという流れだ。

 で、妊娠中は母親は何かと大変だから、それを和らげる為に父親は母親に対してスキンシップが許されているって事だよな?」


 そこで俺はモニターの絵を表示した。

 そこには、男女が手を握り、頭をなでたり肩を抱いたりする姿が描かれいる。


「手を握る、頭をなでる、肩を抱く。そうした行為がプレデス星で推奨されている夫婦の行為だ」

 そこで一旦モニターの表示を消して、「でも、おかしいとは思わないか? ライドの話じゃ、クレア星の他の街だと、男女が相思相愛で結婚するんだそうだ。そして、生殖行為によって子供を作るらしいぞ?」


 そこで俺はモニターに新たなスケッチを表示させた。

 そこには、裸で抱き合う男女や、キスをする男女の姿を描いていた。


 それをみんなは息を飲んで顔を真っ赤にしながら見入っている。


「相思相愛の男女ってのは、本能的に相手と触れ合いたいと感じるものだ。そして、モニターのスケッチの様に、夫婦になると、こうして身体を寄せ合う事でお互いの存在を感じ合うんだ」

 俺はみんなの反応を確かめながら話を続けた。「寄り添う事で生まれる安心感。自分の全てを、この人になら任せてもいいと思えるだけの信頼。そして、この人との子供が欲しいという本能的な欲求」


 そう言って俺はモニターに最後のスケッチを表示した。

 そこには、中学校の性教育で配られた教材に描かれていたような、男女の身体の断面図を表示していた。


「その結果、二人の男女は身体を添わせて生殖器を結合させ、精子と卵子の出会いを生むんだ。これが生殖行為の一部始終だ」


 みんなの顔を見ると、ライドを含めて全員が呆気に取られて黙っていた。


 調理を終えたイクスも料理を皿に盛りつける手を止めて画面に見入っている。


 俺は空気を換えようと、パチンと一度だけ手を叩き、

「うし、料理もできたみたいだし、一旦夕食タイムにしようぜ」

 と言って席に着いた。


 イクスはハッと我に返った様に、料理を皿に盛りつけてテーブルに並べていった。


「じゃ、いただきまーす」

 と俺が言うと、

「い、いただきまぁす」

 とみんなも声を合わせて言ったが、その声はか細いものだった。


 今日の料理はスープスパゲティだ。

 豆乳を飲むのはいまいち気に入らなかったメルス達も、塩で味付けをした豆乳は問題無さそうだった。


 うん、旨い。


 半熟卵を絡めてるのがまた旨い。


 ティアとシーナは料理を食べながら、時折チラチラと俺の方を見ている。

 ミリカも料理を食べながら、チラチラとイクスの方を見ているようだった。

 イクスもそれに気づいてか、随分とミリカを意識しているようだ。


 おお!これって効果アリなんじゃないか?


 ちょっと刺激が強すぎたかも知れないが、これって既に恋愛が始まっているんじゃないのか?


 しかもこの後はミリカの新たなファッションショーが始まる。


 男子が逞しく見えるファッションに、女子が色っぽく見えるファッション。

 勿論年齢相応に、女子の服装は特に可愛らしくデザインしたつもりだ。


 先ほどの即席「性教育」の後にこんな服を着せられたら、こいつらはいったいどんな反応を見せるんだろうな。


 そうして俺は、なんだかピンクのモヤでも掛かっているかのような空気の中、イクスが作った想像以上に旨いパスタを平らげたのだった。


 △△△△△△△△△△△△


 食後、お茶を飲みながら少し休憩を入れ、その間にミリカが作った新作衣服を壁に掛けているのを見ていた。


 並べられた衣服はおおむね俺がデザインしたものだが、男子用の衣服はトランクス、Tシャツ、ズボン、そして丈を長目にしたジャケットの4点セットに統一した。


 女子の衣服はショーツ、スポーツブラ、Tシャツ、膝丈のスカート、そして短めのジャケットという5点セットだ。


 食事を済ませて一息ついていた他のみんなも、壁に掛けられていく見た事も無いデザインの衣服に目を奪われている様だ。


「ショーエンさん、準備が整いました」

 とミリカが言うのと同時に、

「よし!まずは俺が着替えるとしよう」

 と言いながら立ち上がった。


 俺が手にしたのは白を基調に赤い縁取りをしたジャケットで、肩と襟には模様の入った装飾が付いている。Tシャツは赤色で、まるで昭和の番長が着てそうなやつだ。

 トランクスは白いが、これは表には見えないので、後日染色してもらって、色々なデザインをするのもいいだろう。


 俺は衣服を持って寝室で着替えてから、皆の前に姿を現した。


「おお!」

 と皆が声を上げる。

 俺も壁面に鏡を呼び出し、自分の姿を確認する。


 うむ、サイズはピッタリだ。

 ズボンのベルトが紐なのはいただけないが、いずれ革製品を普及させてベルトも作ればいいだろう。


「メルス、ライド、イクス、これでどうやって着るかは分かったろ? お前たちも着替えてきな」

 そういうと、3人は立ち上がって、それぞれが壁に掛かっている服を受け取り、着替えに行った。


 着替えは部屋ごとに一人ずつ行っていて、やはり男同士でも肌を見せ合うのには抵抗があるのが分かった。


 3人が出てくると、色は違えどデザインは一緒の4人の男達が揃った。

 黒髪のライドはグレーのジャケットのセット。銀髪のメルスは青いジャケットのセット。金髪のイクスは緑のジャケットのセットを着ていた。


「よし、次は女子の番だ。ティアには赤いジャケットのセットを、シーナには青いジャケットのセットで、ミリカは緑のやつを着てもらおうか」


 そういうと、3人は言われた通りの色のセットを取り出し、それぞれが寝室と重力制御室に入って着替えた。


 そして全員が着替えて部屋に集った。


「みんなどうだ?感想を聞かせてくれ」

 と俺が言うと、まずはティアが口を開いた。


「ショーエンの言っていた事が分かった気がするわ。なんだか、この服を着ている今なら、何かすごい事が出来そうな気がするもの」

 次いでシーナも、

「このショーツっていうのを履いていると、不思議と安心感があるのです。スカートっていうのの裾が短いのが少し恥ずかしいのですが、ティアの言う通り、何か凄い事が出来る気がしてなりません」


 ミリカはウキウキが止まらないような顔をしながら、

「最高です!イクスの着こなしが最高です!」

 とどうやらイクスの着こなしに目を奪われている様だ。


 イクスはミリカに褒められたのがよほど嬉しかったのか

「ミリカこそ、とても美しいよ。まるで野に咲いた花のようだ」

 と中世の貴族の坊ちゃんが言いそうな事を言っている。


 メルスは冷静に分析しているようで、

「両足が別々になっているのには戸惑いましたが、これなら激しい動きにも耐えられそうですし、惑星開拓で荒れた大地に降り立っても動きやすそうです」

 と論理的に応えていた。

 ライドもメルスの言葉に共感したようで

「これなら空を飛ぶ時に邪魔にならずに済みそうです」

 と独自の感想が聞けた。


 うむ、皆気に入ったようだな。

 では、次のステージに移るとするか。


「という訳で、俺達は、来週からは、この服装で授業に参加する事にする」

 と俺が言うと、みんなは更に驚いた顔をして

「だ、大丈夫かしら・・・」

 とティアは特におののいている様子だ。


「いいかみんな、俺達がいつまでも一緒に居る為には、常に上位の成績を収め続けてAクラスであり続けなければならない。そして、いずれ来る惑星開拓への派遣の時にも、俺達が一緒になる為には、こうした一体感を常に示しておく事が重要なんだ」


 俺が力強くそう言うとシーナが、

「ショーエンが言うのなら、絶対に間違いはないのです」

 と、いつもより力強くそう言った。


 俺はミリカに

「これと同じものを大量生産できるか?」

 と訊くとミリカは、

「大丈夫です。デバイスに記録していますので、研究所の製造機で大量生産できます」

 と自信に満ちた顔でそう返した。


「よし、じゃぁ来週からは朝食の時にもこの服装で行くぞ」

 と俺はみんなの顔を見ながら、「他の連中がどんな反応をするかが楽しみだぜ」

 と言ってニヤリと笑って見せ、今日の集会をお開きにすることにした。


 △△△△△△△△△△△△


「ふう」

 と俺は息をついて、自分用に入れたお茶をすすった。


 ラブコメ作戦は発動した。


 今日の集いだけでも、イクスとミリカがいい感じになりそうなのは分かった。

 それに、今日は深く考えずにシーナの頭を撫でた事がきっかけになって、ティアとシーナが俺の事を意識している事も明確になったと言っていいだろう。

 というか、ティアもシーナもとんでもない美少女なのに、俺なんかを好きになるなんて、よほど他の連中とのコミュニケーションが無いんだろうな。


 まあ、俺もこの世界では美少年な方だとは思うが、学園ハーレムが出来るほどでは無いと思うぞ?


 できれば、ライドとメルスにもいい相手が出来て欲しいところなのだが・・・


 その為にも、やはり他のクラスの生徒を巻き込まなければならない。

 今や俺達は「セブンスター」とシリア教官に名付けられるほどに優秀なグループだ。

 その呼び名は、外のクラスにも知れ渡っているはず。

 なのに誰も声を掛けてこないってのは、ちょっとシャイにも程があるだろ。


「あ、そうだ」

 と俺は思い立った。


 シーナのあの機器で、みんなのデバイス通信を傍受できないもんかな?


 それが出来れば、みんなの気持ちを知る事が出来る。

 他人の会話を盗聴するようで罪悪感はあるが、この際そんな事は言ってられない。


 あの機器にそんな機能を追加できるかはシーナに訊いてみないと分からない。

 よし、明日の休みにシーナに直接訊いてみよう。


 俺は早速デバイスでシーナにメッセージを送る事にしたのだった。


 △△△△△△△△△△△△


 シーナはティアの部屋に居た。


 女子寮に戻ったシーナだったが、今日ショーエンに頭を撫でられた時から、どうにもショーエンに対する気持ちが収まらなかった。


 そこでティアに声をかけると、ティアも同じ思いを抱いている事が分かった。


 そこでティアがシーナを自分の部屋に招き入れ、お茶をする事になったのだった。


 ティアがお湯を沸かしている時、シーナのデバイスにショーエンからメッセージが届いた。


 メッセージにはこうあった。


”シーナに確認したい事がある。明日の昼、俺の部屋で一緒に食事でもしないか?”


 シーナの顔はみるみる赤くなり、息が激しくなり汗が噴き出る。


 ティアはそんなシーナに背を向けて、お茶をカップに注ぎながら口を開いた。


「でも安心したな~。シーナってまだ成人してなかったんだよね~」

 

「そ、そ、そうなのです。私はまだ未成年なのですよ」


 シーナはそう言いながら、内心パニックになっていた。


 そう、私は未成年なのです! 

 そんな私を、ショーエンが個人的に呼び出して来たのです!

 しかも「確認したい事がある」と言って食事を一緒にしようと言ってるのです!

 これはティアに教えてもいい事なんでしょうか?

 いやいや、ダメに決まっているのです!

 ティアもショーエンに好意があるに決まっているのです。

 もしティアが成人していたら、クレア星の法に則り、相思相愛になったショーエンとティアは結婚してしまうのです!

 これは良くない事なのです!

 と、取り合えず、ティアが成人しているかを確認しなければ・・・

 

 そんなシーナの心も知らず、ティアがカップをテーブルに運んでくれた。

 シーナはゴクリと唾を飲み込み、

「ティ、ティアは成人しているのですか?」

と訊いてみる事にした。


「うん。2年くらい前に成人したよ~」


 やっぱりなのです!

 ティアはもう成人してたのです!


「でも、ショーエンは成人してるのかなぁ・・・」

 とティアがお茶を飲みながらそう言った。


 はっ、そうなのです! 

 ショーエンが未成年なら、まだ結婚は出来ないのです!

 今日の頭なでなでの時も、それが夫婦の営みだなんて事は知らなかったっぽいのです!

 それはショーエンが未成年だからに違い無いのです!


「そうだ、せっかくだからショーエンに訊いてみよっか」

 とティアはデバイスでショーエンに何かメッセージを送ろうとしている。

 シーナはそれを見ながら、手に持っていた小型の機器を起動した。

 すると、シーナのデバイスが、ティアのデバイスの通信を傍受し始めた。


 ティアがメッセーシを送った。

 内容は「ショーエン今日もありがとう。ところでショーエンってもう大人だよね?」

 というものだ。


「な・・・ 何て送ったの?」

 とシーナは一応訊いてみた。

「ん? ショーエンってもう大人だよね? って送ったよ」

 とティアは正直に応えた。


 ティアは正直者なのです。

 なので、信用するのです。


 しばらくしてショーエンから返信が来た。

 それはティアのデバイスに送られたものだが、シーナのデバイスもそれを傍受していた。


 そこには「2週間前に成人したよ」と書かれていた。


 成人してたあぁぁぁ・・・

 しかも2週間前だったぁぁぁぁ・・・


 シーナは力尽きた様にテーブルに突っ伏した。


「ど、どうしたの!? シーナ!」

 とティアがシーナに声を掛ける。少し躊躇ためらったが、すぐにティアはシーナの肩をつかんで揺さぶった。


 肩をつかまれたシーナはハっとして起き上がり、自分の両肩をつかんでいるティアの両手を交互に見た。


「これって・・・」

 とシーナはティアの顔を見て言った。「ティアは私を信頼しているって事なのですか?」

 と訊いた。ティアはうんうんと何度も頷き、

「もちろんだよ。ショーエンが言ってたじゃない? こうして触れ合うのは、信頼の証なんだって」


 そうでした。

 私はショーエンを心から尊敬しているのです。そして全てを委ねてもいいと思っているのです。

 そんなショーエンの言葉を忘れていたなんて、そんなのは私じゃないのです。


「ありがとうなのです、ティア」

 とティアの両手を、シーナも両手で握り返した。

 

 ・・・ティアを裏切ってはいけないのです。


 シーナは意を決した様にティアを見上げ、

「ティア。私はショーエンと相思相愛になりたいのです」

 と告げた。


 ティアは少しだけ驚いた表情を見せたが、

「うん・・・。私もショーエンと相思相愛になりたいと思ってる」

 と告げた。


 そして、シーナはティアに隠し事は出来ないと思い、ショーエンから誘われている事も告げた。


「明日、ショーエンから昼食を一緒に食べようって誘われたのです」

 

「私も行く」

 ティアは即座にそう言うと、シーナの両手を握り返したのだった。


 △△△△△△△△△△△△


 ショーエンはシャワーを終えて出てきたところだった。

 するとデバイスにティアからメッセージが届いていた。

 そこには「ショーエン今日もありがとう。ところでショーエンってもう大人だよね?」と書かれていた。


「なんだこれ?」


 俺は何か意図があるのかと勘繰ったが、今日は性教育の知識をお披露目したばかりだ。俺が未成年だとしたら、その説明の信憑性を疑われるかも知れない。きっとその確認なんだろうと思った。


「別に隠すような事でも無いしな」


 俺はそう言って「2週間前に成人したよ」と返しておいた。


 今日の講義はみんなには刺激が強すぎたかも知れないが、学校中をラブコメ化する為には、まずはAクラスがこれらをきちんと理解しなければならない。


 そして、学園中にラブコメを普及する為には、よきアドバイザーが必要になる。

 その役目をAクラスのみんなに果たしてもらいたいのだ。


 俺はそんな事を思いながら、ベッドに向かった。


 明日は午前中にイクスから食材を貰って来よう。

 それで、シーナに旨いもんでも食わせてやろう。


 そして俺はベッドに横になり、睡眠誘導機能が起動するままに眠りについたのだった・・・

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