第6話 学園編(2)クラスメイト
「我々惑星開拓団の歴史は、既に4万年を超える。人類の英知が宇宙の英知に日々近づいている事は、疑念の予知の無い事実だ。既に800万に及ぶ惑星の開拓を進めており、人類を派遣した惑星も既に1000を超えた。我々は・・・」
学園の入学説明会場に集められた俺達は、大学の講堂のような部屋の座席に座って、学園長の講演を聞かされていた。
座席の前にはモニターがあり、そこにも学園長の演説がリアルタイムで文字情報として表示されている。
学園長の話の前半は、既にプレデス星で進路相談担当官から聞いていた内容と差異は無かったが、俺が気になった話は、この後の学力試験の成績によって振り分けられるクラスごとに「許可される行動範囲」が変わるのだという事だった。
許可される行動範囲が変わる?
つまり試験の成績が悪いと、この星でやっていい事の範囲が限られるという事か?
それは困る。俺が生きたい世界は、そんな制限だらけの世界じゃない。
となると、この後の学力試験には全力で取り組まなくちゃな。
何故か俺の両サイドに席を陣取ったメルスとティアも、やはり学力試験の事を考えているようで、ティアなどは鼻息荒く、随分とやる気になっているようだ。
「・・・では、これにて入学説明会を閉会とする」
いつの間にか学園長の講演は終了していた。
内容はデバイスに記録しているので、ちゃんと聞いていないところは後でまた見ておけばいいだろう。
講堂の壇上にいた学園長の姿は、一瞬のうちに掻き消えた。中等学校の教師もそうだったが、学園長はこの場に居る訳ではなく、いわばホログラムのようなものだ。
教室の皆が試験会場へと移動しようとしていた。
「ショーエン、私たちも行こうよ」
とティアが立ち上がって声をかけてきた。
「ああ、そうだな。メルスも行こうぜ」
「そうですね、行きましょう」
と言って同時に立ち上がった。
試験会場はこの講堂の隣の部屋らしい。
なので他の生徒たちも徒歩で移動しているのだが、皆が一様にうなだれたような姿勢でトボトボと歩いているように見えて、俺はちょっと可笑しくなった。
いや、別に彼らは試験が
俺もこの重力には
「ショーエンは凄いですね。この重力でも普通に歩けるなんて。さすが主席卒業生です」
メルスが驚いてそう言ったが、ティアがのしのしと前屈みになって歩いているのを見て「主席かどうかは関係ないようですね」
と付け足した。
ティアは「何よ?」とメルスを睨んだが、ショーエンが歩く姿勢の良さを見て、ティアも同じ様に背筋を伸ばして歩き出した。
「はは、さすがは主席卒業生だな、ティアは」
と俺はからかう様に言ったが、ティアは「どんなもんよ」とばかりにドヤ顔で応えて見せた。
全員が試験会場に着き、それぞれが定められた座席に着いた。
座席には既に受験者の名前が記されており、俺達3人は別々の離れた席に着く事になった。
試験用の机は一人用の机が等間隔に並べられており、俺は一番左の前から2番目の席だった。
俺の前には薄いブルーの髪をした少女が席に着いている。右前方には金髪を短くカットした少年、俺の右隣には栗毛を長く伸ばした少女が居た。
各机の板面はモニターになっており、問題の表示や解答はこのモニターで行うようだ。
いま、画面には「ショーエン・ヨシュア 試験開始まで、あと4:12」と表示されており、末尾の数字が1秒ごとに減っている。
ほんと、この世界はどこにいっても秒単位で行動が決まっていて堅苦しい。
まあ、移動は楽だし毎日寝起きもいいし健康でもあるから、それほど苦痛に感じる事は無いのだが、世の中もっとファジーでもいいんじゃないの? といつも思う。
メルスが言う「自分の力で操作する乗り物を作りたい」というのも、もしかしたら「自由への渇望」みたいな気持ちがそうさせるのかも知れないな。
そうしているうちに画面の表示は、試験開始まで残り数秒になっていた。
「試験開始まで、あと0:01」の表示が消えたかと思うと、いきなり四則演算の問題が表示された。
最初は簡単な問題から始まり、徐々に難易度が増していく。
しかし俺にとっては何も問題は無い。ある程度問題が難しくなってきても、問題の解答について意識すれば、例の情報津波によって正しい答えが導き出せるからだ。
あまりやりすぎると頭がクラクラするのだが、制御を間違えなければ何も問題は無い。
どんどん問題を解いていくと、やがて画面の右上に「残り1:30」と表示が出て、1秒ずつ数字が減っていくのが見えた。
現時点で94問をクリアしたところだから、もしかしたら100問あるのかも知れない。
時間的には余裕だったな。
と思って100問目をクリアすると、101問目が出題されてきた。
おいおい、この問題っていったいどれだけあるんだ?解いても解いても次の問題が出てきてキリが無いぞ。制限時間おかしくないか?
と思ってペースを上げて問題を解いてゆき、120問を解いたところで、ポーン、と音が鳴り、画面が語学問題に切り替わった。
なるほど、制限時間までに何問解けるかってのも測られてるのかも知れないな。
語学はまったく問題無かった。制限時間は算術と同じくらいの時間があったが、ところどころで情報津波を利用した以外はスラスラと解答できた。
これも122問クリアしたところで制限時間がきて、画面からポーンと音がした。
次の問題は物理学だった。
これは俺の得意とするところでは無いのだが、いつもより多めに情報津波を利用する事で、制限時間内に101問解く事が出来た。
次の問題は化学だった。
これも俺の苦手分野なのだが、情報津波で頭をクラクラさせながら、なんとかギリギリ100問解答したところで制限時間になった。
そこで画面は「試験終了」と表示された。
部屋全体で「ふうー」と深呼吸する音が聞こえる。
俺も目を
ポーンと音が鳴ったので画面を見ると、今度は「試験結果発表まで、あと0:15」と表示され、またカウントダウンされていた。
試験会場の前方の壁には大きなモニターがあり、そこにも「試験結果発表まで、あと0:13」と机のモニターと同じ情報が表示されていた。
全員が前方のモニターを見ている。
カウントダウンが終わり、ポーンと音が鳴ったかと思うと、モニターには全員の試験結果が表示された。
マジかよ。全員の結果が表示されるのかよ。えげつないな。
全4教科の合計点が表示されるようで、俺の点数は「442点」でランキング1位になっていた。
ランキング2位の欄には「344点 シーナ・カレン」と続き、その次に「308点 ティア・エレート」の名前があった。
おお、ティアってやっぱ優秀だったんだな。で、メルスも6位の欄にランクインしているあたり、やはりそれなりに優秀だって事だろうな。
ただ、メルスの点数は288点で、最下位である32位の者も274点を獲得しているあたり、他の受験生とはかなり学力が拮抗しているようだ。
俺は断トツのトップだったんだな。
400点以上の成績は俺だけのようだ。
300点台は3人いるようで、2位のシーナ、3位のティア、そして4位の欄には「300点 ライド・エアリス」と表示されていた。
しばらくしてモニターの表示が切り替わり「昼食会場へ移動」という表示になった。
おお、そうだった!
昼メシだ!
俺はメルスとティアの席までスタスタと近寄り、
「昼食の時間だ。行こうぜ」
と二人を促した。
メルスは立ち上がりながら
「そうですね。行きましょう。それにしても、400点オーバーだなんて、ショーエンさんは凄いですね」
と称えてくれた。
「ほんと、凄いよね。私も全力で頑張ったけど、308点がいい成績なのかどうかが分からなくなっちゃうよね」
その時、背後に人の気配を感じて俺は振り向いた。
そこには、先ほど俺の前の席で試験を受けていた薄いブルーの髪の少女が立っていた。
デバイス越しに「会話の許可を求む」とあったので、同じくデバイスで承認した。
彼女は重力で疲れているのか、少し疲労を溜めたような表情で俺を見ていた。
「私はシーナ。シーナ・カレン。この試験で2位だった者なのです」
「ああ、俺の前の席に居たよな? 俺はショーエン・ヨシュア。ショーエンと呼んでくれ」
「やはりあなたがショーエンさんですか。私はあの試験で442点を取れるあなたを尊敬するのです。どうか私と交流をしてください」
「はあ?」
俺は、まじまじとシーナと名乗った少女の顔を見た。
そこまで意識しない様に努めていたが、さっきの試験の影響か、ゆるやかな情報津波がやって来る。
シーナ・カレン 15歳。プレデス星の出身で通信技術を学ぶ為に惑星開拓団を目指す事にした少女。 通信技術の深層情報は、プレデス星でも高度技術者にしか知らされない特殊な技術の為、その技術の謎を解明する事を生涯の仕事にする為、クレア星で学んだあとはプレデス星の高度技術者になる事を目標にしているようだ。
で、そんな少女が「友達申請」してきた訳だが、別に断る理由も無さそうだし
「ああ、もちろん歓迎するよ」
と受け入れた。
俺はメルスとティアの事もシーナに紹介した。
特にティアは、自分よりも上位の成績だったシーナとは、成績発表を見た後すぐに「友達になりたい」と思っていたらしく、
「シーナの方から声をかけてくれるなんて思わなかったから、とても嬉しかったわ」
とシーナとはすぐに打ち解けられそうな雰囲気だ。
メルスが
「さあさあ、はやく昼食に行きましょう。間に合わなくなっちゃいますよ」
と言って俺のローブの袖を引き、昼食会場へと促し始めるあたり、もしかしたらメルスはシーナに苦手意識でもあるのかな?
「そうだな。みんなで一緒に昼食会場まで行こう。俺はここの昼食が楽しみで仕方が無いんだよ」
そう言ってメルスと並ぶようにして先頭を歩き出した。
昼食会場までは動く歩道を使った。
会場は、大きなフードコートのようになっていて、色々な料理が食べられるようになっていた。
候補生は俺達を含め32人しか居ないが、このフードコートは学園の誰もが利用できるようで、今も利用者の数はざっと200人以上はいそうだった。
「すげーな」
俺が声を漏らすと、メルスも、
「こんなに人が過密に集うなんて日が来るとは思いませんでした」
と感想を口にした。
ティアは食事のメニューを色々調べているようで
「ここって、色々な惑星で磨かれた調理技術を使って、見たこと無い食材での料理が食べられるみたいよ」
「うう・・・」
とシーナが声を漏らし、苦々しい顔をしている。
「どうした?シーナ」
と俺が声をかけると、
「今日の朝食を思い出して、ちょっと嫌な気分になったのです」
だそうだ。
なるほど、やはりプレデス星人にはあの朝食は衝撃だよな。
でも、俺は大好きなんだぜ!
「メルスはどうなんだ?」
と俺はメルスにも朝食の感想を聞こうと思ったのだが、
「そうですよね、あれは食事としては不気味すぎますよね!」
とメルスはシーナの感想に痛く共感しているようだった。
なるほどね。
「ティアなら何でも食べそうだな」
と俺はティアの方を見て言うと、
「朝食は残さず食べたわよ。スープは美味しかったし。これから惑星開拓をしようって考えているのに、食事の好き嫌いなんてしてられないじゃない?私は何だって、とりあえず食べてから考える事にするわ」
だそうだ。
ティアは
俺はなんとなくティアに同意したフリをしながら、
「だよな。なので俺は、肉料理を食べたいな」
と言った。
するとデバイスがフードコート内の肉料理のリストを表示し、それらのカロリーや栄養素などが表示されるのを見ていた。
あるじゃん、あるんじゃん!
こんなにもいっぱいの肉料理が!
フライドチキンとかもあるんじゃん!
油で揚げる調理が伝わってるんなら、トンカツとかもあるんじゃね?
俺はズラっと並べられた情報を検索したが、どうやらパン粉で包んで揚げる技術はまだ伝わっていないようだった。
とりあえず今回は、チキンステーキとサラダとスープとパンのセットを注文する事にした。
ティアは俺の真似をして同じものを注文し、メルスとシーナはプレデス星人の典型のように、ベジタリアンな食事を注文していた。
チキンステーキは塩焼きだった。それはそれで旨いのだが、照り焼きソース等は無さそうだったので、いずれはそうした味を探すのも楽しそうだ。
ティアは恐る恐るチキンステーキを食べていたが、「美味しい!」と声を上げると、残りはすごい勢いで食べていた。
旨そうに食べる二人を見て、メルスとシーナは「次は私も食べてみようかな」と密かに思うのだった。
△△△△△△△△△△△△
昼食が終わってしばらくすると、各々の候補生のデバイスを通じて、クラス分けの情報が届いた。
俺はAクラスのようだ。
「私もAクラスでした!」
とメルスは俺と同じクラスなのが嬉しそうだ。
「私もAだわ」
「私もなのです」
と、ティアとシーナも同時に答えた。
「私たち、みんな同じクラスね!」
ティアは嬉しそうだ。
俺達はデバイスからの情報に従い、Aクラスの教室に移動する事にした。
教室の場所までは動く歩道で移動する事にした。
どうやら建物が別の場所にあるらしいからだ。
俺達4人は動く歩道で並んで移動しながら、窓からの景色を見ていた。
巨大な建物がいくつも並んでいるが、どうやらそのほとんどは倉庫だったり研究所だったりするようで、建物の壁面にある電光掲示板のようなものに、そのように表示されている。
教室棟は、フードコートの隣に見えた建物だった。
2階の渡り廊下で繋がっていて、動く歩道もそこを通っていった。
教室棟はあまり大きな建物ではなく、5階建ての、地球でも馴染みのある高校の校舎くらいの大きさの建物だった。
教室は1階にあり、Aクラスの教室は廊下の一番奥にあるようだった。
教室に入ると、そこは10m四方程度の比較的小さな部屋で、何かの端末が付いた机が7台配置されていた。
机の配置は前後2列になっていて、前列に3席、後列に4席あり、教壇を中心にゆるやかな弧を描くように配置されていた。
各机には既に名前が表示されていて、俺は前列の真ん中の席だった。
俺の右にはティア、左にはシーナの名前があり、メルスは後列の右から2番目の席になったようだ。
他にも2名の男と1名の女が既に席に着いていて、一番左には、金髪を短くカットした少年、その隣には長い栗毛の少女、そして一番右の席には、少し無愛想な表情で俺達を見ている、少し肌が浅黒い黒髪の少年だった。
おお、なんだか地球で馴染みのある顔立ちの少年がいるな。
東南アジアあたりの顔立ちにも見えるが、なかなかのイケメンだ。
しかし、プレデス星では見たことが無いタイプだな。
もしかしたら、彼がクレア星出身の惑星開拓団候補生なのかも知れないな。
あとで話しかけに行こう。
そうしているうちに、教壇に突然大人の姿が現れた。
いつものホログラムだ。
「さあ、みんな席に着きなさい」
と、その大人はまるでそこに居るかのような振舞いで話しかけてきた。
「ここに居る7名は、試験成績の上位7名であり、明後日から始まる教育カリキュラムは、最も惑星開拓団での活動に近いものになる」
その大人は俺の方を見て、
「そして、今回は12年ぶりに試験で400点を超える成績を収める者も現れた」
と言って、俺を指さした。「このクラスの生徒は、今後5年間をこの学園内で暮らす事になる。プレデス星の出身者がほとんどだが、このクレア星出身の生徒も2回生から5回生だけで14名、そしてこのクラスにも1名いる」
やっぱりそうだ。あの少年がクレア星出身の生徒なんだ。
「君たちは、これから惑星開拓団候補生として学ぶ事になる。しかし惑星開拓という危険を伴う活動では、人間が命を落とす事も多い。そうした事への備えとして、これからは緊密な人間関係を築き、自分の命を預けられる仲間を作る事も大切だ。それが、惑星開拓団で長生きする為の重要な条件となる」
ふむ、人間関係が淡白なプレデス星の人間には難しそうな課題だが、クレア星ではどうなんだろうな。
大人の話はまだ続いた。
「なお、君たちは成績上位者である。君たちの学内での行動の制限は、ごく限られたものになる。つまりは自由が多いという事だ。自分自身が何を成すべきなのかは自分自身で決定し、各自成長を遂げたまえ」
そう言うと、その大人は部屋の入り口の方を向いた。
「君たちの担任教官を紹介する。これから君たちの指導を行う者だ。惑星開拓団員としての活動を12年行い、2つの惑星の開拓に携わったベテランだ。彼から多くを学び、星々の糧となるよう努力をするように」
そう言ってホログラムは消えてしまった。
扉が開き、部屋に長身の男が入ってきた。
凛々しい顔立ちで、薄い緑の髪をスポーツ刈のように整えた、これまたイケメンな男だ。歳の頃は40歳といったところだろうか。
その男は教壇に立つと、
「私の名はシリア」
と声に出して名乗り「私が皆に教育する事は、惑星開拓の中でも重要なものだ」
と言って前面の壁に教室の黒板くらいの大きさのモニターを出した。
「生命の創造」
というシリア教官の声と共に、モニターにも「生命の創造」という文字が現れた。
「私たち人間が住める星を開拓する目的は一つ。眠っている星々に記憶を授ける事だ」
星々に記憶を授ける? なんだそりゃ?
シリア教官の話は続いていた。
「我々がその星を開拓し、移住し、繁栄させ、共生する事によって、我々はその星の一部となる。そうすれば、星々は様々な記憶を宿し、やがて惑星という名の生命となる。それが我々の唯一の目的なのだ」
随分と壮大な話になってきたな。
つまりは星に命を吹き込むって事なんだろうな。
っていうか、本当は他にも色々聞きたい事がある。
地球の存在はどうなっているのかとかも気になるし。
今も地球ってあるの? あるなら今の地球ってどんな感じになってるの?
もしかして、地球を開拓したのも惑星開拓団だったりするの?
俺が地球で拾ったあの本の事知ってる? もし知ってるなら、あれって何なの?
他にも、そんなに寝ている星々を起こして開拓していく事に何の意味があるの?
最終目的って何なの?
とか、色々だ。
でも、まだ時期じゃない。
「その時」が来たら、聞いてみよう。
もし教えてもらえなくても、俺なら「情報津波」を使って解明できるかも知れないしな。
情報津波は、誰にでもあるってものじゃない。
この世界のみんながあの力を使えるんなら、今日の試験も俺以上の点数をとる者だって居たはずだ。
でもそうじゃなかった。
そもそも、俺は何故地球での記憶を持って転生しているのか?
そして、何故俺はあの本を手にできたのか?
そして、あの情報津波による情報は、誰がどこで入手したものなのか?
「各自には寮が手配されている。デバイスより情報を得て、今日からはそこで生活するように。明日は自由時間だが、明日のうちに学園内の地理や設備の情報をデバイスに記録しておくのが良いだろう。では、今日の説明会は以上とする」
時計を見ると、ちょうど15時半だった。
今朝見た情報だと、これからの予定は「TBD」になっていたはずだ。
つまり、俺達は今日の予定は消化できてるから、この後は自由時間って事だな。
シリア教官が部屋を出たかと思うと、ティアとシーナがこちらにすり寄ってきた。
「ショーエンはこの後はどうするの?」
とティアが訊いてきた。
シーナも鼻息荒く、「私も気になる」と言っている。
「そうだなぁ・・・」
と俺が考えていると、後ろからメルスが来て、
「ショーエンさん、早目に寮の手続きに行きませんか? 荷物も早く置いてきたいですし」
と提案してきた。
「お、それいいな。そうしようぜ」
と言って立ち上がると、「でもその前に、あいつと仲良くなっておきたいんだよな」
と、黒髪の少年の元へと歩み寄った。
「よう、少年!」
と言いながら机の表示を見ると「ライド・エアリス」と名前が表示されている。
ライドは驚いた様に俺を見て、
「な、なに?」
と少し怯えた様に反応した。
「いや、俺達この星の事に全然詳しく無いからさ、クレア星に詳しいライド君と仲良くなりたいって、こいつらとも話してたんだよね」
「え、そ、そう・・・ですか」
「俺達これから寮の手続きに行くんだけど、お前も行くだろ?」
「ええ、まぁ・・・」
「うし、じゃ、一緒に行こうぜ!」
「はぁ・・・分かりました・・・」
なんだか煮え切らない反応しかしない奴だけど、俺はライドと話しながら少しばかり情報津波を使っていた。
ライド・エアリス 15歳。彼はクレア星の出身だが、この都市からはずいぶんと離れた街で育った。その街は海に面していて、海沿いでは漁業をし、陸側では動物を狩り、農場を育て、そうして採れた魚、肉、野菜、果物などを、この大陸に流通させて生計を立てているようだ。
ライドは幼少の頃より海沿いで遊び、その姿は地球の港町の子供達の様だった。
ある日ライドは空を見上げ、鳥たちの声を聞きながら「空を飛びたい」と考える様になった。その技術を一人で考えているうちに、とうとうライドは紙飛行機を作る事に成功したのだ。
これを大きくして人が乗れたら、重力制御装置が無くても空を飛べるのでは?
ライドはそれを実現させる為に勉強に勉強を重ね、とうとう今日という日を迎えたのだった。
そんな努力家のライドだからというのもあるが、俺が一番気に入っているのは…
「なあ、ライド。お前って、肉料理とか詳しいだろう?」
「え? く、詳しいというほどではないと思いますが、クレア星ではパンと肉が主食なので・・・」
という事だ。
そう、肉がメインの料理を食べてるって事だろ?
しかも魚も獲ってたんだよな?
野菜も果物も育ててたんだよな?
最高じゃねーか!
俺は皆にも教えたくなった。
「なぁ、メルス。シーナ。お前らってまだ肉とか食べられないんだよな?」
「ええ・・・まぁ」
とメルス。
「あれは食べ物じゃないのです」
とシーナ。
「この星って重力キツいだろ? でも、ライドはシャキシャキ歩けてるじゃん? これってどういう事だと思う?」
するとメルスはしたり顔で、
「もしかして、肉体を強化する為に、動物を食べる必要があると?」
「その通りだ。動物性のタンパク質を摂取して俺達は筋肉を強化しなければならない。でも、俺達は肉料理について詳しくないよな?」
「ええ、そうね」
とティアも話に交ざりだす。
「そこでだ、この星出身で、肉料理に詳しいライド君が居れば、心強いとは思わないか?」
「確かに!」
みんなの声が重なった。
「という訳でだ、ライド。俺達、友達になろうぜ」
「え、あ、うん」
ライドは何が何だか分からないうちに友達にされて戸惑っていたが、初日から一人でプレデス星人に囲まれて不安を感じていた事もあって「友達」というワードに吸い寄せられる様に返事をしていた。
よしよし!
「じゃ、とりあえずはみんなで寮の手続きをして、その後一緒に夕食を食べに行こう!」
俺はそう言って手を振り上げた。
するとみんなも口を揃えて、
「そうしましょう!」
「そうしよう!」
「う、うん」
「行くのです」
と、まったく揃わない感じで教室を出たのだった。
△△△△△△△△△△△△
教室には、2人の生徒が残っていた。
長い栗毛の少女と、金髪を短くカットした少年だ。
金髪の少年が先に口を開いた。
「あ、あの・・・ 僕たちも彼らの様に、友達になりませんか?」
栗毛の少女も、
「え、はい。そうですね。それがいいと思います」
と、しどろもどろに応えた。
プレデス星では人間関係が淡白であったが、この二人の場合は希薄ですらあった。
ショーエンの様にガサツに話しかける勇気も無く、実は二人とも、ショーエンから話しかけられるのを待っていたのだった。
ショーエンがライドに話しかけたのを見て、「次はこちらに声をかけてくれるはず」と思っていたが、何だかライドとの会話が盛り上がってしまったようで、そのまま教室を出て行ってしまった。
金髪の少年は「これはマズい。このままでは命を預けられる仲間なんて出来ない」と腹をくくり、これまでの人生で一番の勇気を振り絞って、栗毛の少女に声をかけたのだった。
「あ・・・あの・・・」
と今度は栗毛の少女が口を開いた。「私たちも、ショーエンさんに友達になってもらいませんか?」
金髪の少年は、
「あ、そっ、そうですよね。彼は成績も優秀だし、彼の方が命を預けられるって事ですよね・・・」
「いえ、私一人じゃこんな事は言えませんが、あなたが声をかけてくれて、少し勇気をいただきました。二人で声を掛ければ、きっと大丈夫ですよ」
「な、なるほど。分かりました」
金髪の少年の言葉に栗毛の少女は頷くと、
「では、また明後日に」
と挨拶をして去っていった。
金髪の少年は、複雑な気持ちで栗毛の少女を見送った。
心臓の鼓動が早まるこの感情を何というのか、彼はまだ知らない。
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