第15話
お風呂に割り当てらりたのは三階の部屋だった。
狭い通路を通り、エレベーターのボタンを押すとすぐに来た。
今度はカートもないのでギュウギュウではない。二人の間隔が開いていた。
三階に着いた私は唖然とした。ブラックライトに彩られたフロアだったからだ。
「なんかすごいね」
「俺は見慣れちまったよ」
「かなめって女の子と……その、よく来るの?」
「ちげーよ。さっきの幽霊退治でよく着ているだけで、客として利用するのは、今日が初めてだ」
私は一抹の不安が去って、ぐちゃぐちゃになりそうな気持がホッとした。なに不安になっているのよ。私たちなんて、何も関係ないんだしさ。こんな気持ちになるなんて変だよ。
今日は色々ありすぎちゃってわかんないや。
「ここだ。入れよ」
部屋に入ってさらに驚いた。
ここは何の部屋?って、感じるほど廊下と同じくブラックライトに彩られ、DJブースやらキラッキラのミラーボールがある。
何やらステージらしい円筒形の高台に、ポールが天井まで伸びた部屋だ。かなめはすぐに部屋の明かりを普通の蛍光色に変えてくれた。
「ここも面白い部屋だろ。音楽やポールダンスをする人たちに人気らしいぞ」
「この天井まで伸びているポールってポールダンス用なんだ。へぇ、知らない世界を見ている感じだ」
「料理ができる前にお風呂に入ってこようぜ。お先どうぞ」
「うん、ありがとう」
「ごめん、言い忘れてたけど今日だけはシャワーにしてくれ、湯船は清掃していないから使えないんだ」
「どうして?」
「清掃前の部屋ってことだから、前の客がどんな使い方をしたのかわかんないから……わかるだろ、湯船で、そういうことしていることもあるんだし」
「あぁ、そう言うことか。うん、わかった。シャワーだけにするね」
「ごめんな、こんな部屋で」
「かなめが謝ることなんてないよ。迷惑かけているのは私なんだから、でも覗くなよ!」
「いいから覗かないし、早く入って来いよ!」
私はランドリーバッグとグリムを一緒に連れて脱衣場に入った。
中は誰かが使っていたとはいえきれいな状態が保たれていた。
着替えを入れるであろう籠と、木製ロッカーが設置されている。
スーツの人もいるからなのかなぁと思って、ロッカーを開けると唖然とした。
中には袋に入ったコスプレ衣装がずらりと並んでいる。一体何着あるのかと思うほどの量だ。制服にナース服、幼稚園児用のピンクのスモックまである。見なきゃよかったと思う一方で、開けて正解だった。未使用のバスタオルを発見できたからだ。
二つあるからかなめと別けて使えるね。
安心してききたから服を脱ぎ、生まれたままの姿になった。
そうだ、かなめが覗きに来ないようにグリムに見張りを頼んでおくわ。
「見張りは頼んだぞグリム」
私は部屋の入口に向けてグリムを置いた。うん、これでよし。
シャワーだとはいえ、暖かいお湯を浴びれる喜びはひとしおだ。
バスルームに入るとさらにびっくり。広ろーーい!
家の三倍以上あるバスルームに驚きを隠せない。
浴槽は丸いジャグジーで、お湯が残っていた。
清掃って大変そうだなと思いながら、シャワーを浴びる。
シャンプーやコンディショナーが四種類もあって迷いつつも一種類を選びツバキッスという、最近はやりのシャンプーとコンディショナーのセットで洗う。ボディーソープもツバキッスだ。
「ふぅ、さっぱりした」
私はバスルームから出ると髪を丹念に拭く。
「グリム、よくぞ覗きを撃退してくれた」
と敬礼をする。
洗面所には最新型のマイナスイオンドライヤーが設置されていた。
これって三万円するやつじゃないの。さすが都会のホテルは違うわ。家じゃ五千円のドライヤーなのに。
三万円の高級ドライヤーで髪を乾かしながら、悪戯を思い浮かべてしまったのだ。さっきの聴診器が籠の中に入っていたし、これを使ってなかめを驚かせないかなーと思っていた。
なぜ思いついたのかも私にもわからない。かなめを驚かせてやりたい一心だった。なんでたろう? まぁいいか。
私はクローゼットを開けて、ある一着を取り出し着こんだ。
私に銃を構えたかなでは、ナース姿でないことを悟る..第一五話
脱衣上の外をそっと開けて周りを見渡す。
するとかなめは、六〇インチはありそうな大画面でテレビゲームに夢中の様だった。
私はよしと決めて、そっと脱衣場の扉を置けた。
かなめのそばまで行くと声をかけた。
「かなめ診察のお時間ですよ」
「はいっ診察? 何のことだ」
ナース服を着た私は、振り向くかなめに聴診器をもって近付いた。
驚いているかなめが見たかっただけだ。
「ってうわぁ、何着ているんだよ!」
「どうかな似合うかな」
「似合うとかよりもかわい……」
きゃーーーーかわいいだって、どうしよう。着た甲斐があったかな。
コスプレ用だからかスカートが短しぎて、結構見えないように努力してるんだよ。
かなめも目のやり場に困っていて、私を見ていいのか戸惑っている様子だったし。意外とうぶね。
「もとい商売道具を何てことするんだよ」
「着ちゃまずかったかな」
私はさっきまでの勢いを無くした。
「いや別に構わないんだど、クリーニングに出すだけだしさ」
「ほんとに。そこまでしているの?」
「一応……そのなんだプレイ用の服だしな、汚されることもあるしさ」
「だよねー」
「さてと俺も入ってくるかな」
かなめはゲーム機のコントローラーを元の場所に戻すと、するりと立ち上がりざまに私をあざ笑うようにして
「そうだ明美、下からだと丸見えだったぞ」
「えっちー、かなめのえっちー!」
ふぇーんやっぱり見えてたんだ。もうちょっといいのを履いておけばよかったかな。そうじゃないだろ私。被害者なんだからさ。
「嘘だよ。うそだから」
私はかなめを軽く叩いて抵抗した。
「許せない!」
「でも、ナース服似合ってたぜ」
「どうせそれもうそでしょ?」
「これはホント。嘘じゃないから。じゃ」
なによこれ私の完全敗北じゃんか。プンスカしながらウサギ柄のパジャマに着替えた。
ベッドに横になりたいが、乱れまくった掛け布団を見ると恥ずかしくなる。
ここで男女がと思うと胸が複雑だ。
私もいずれ好きな人とするのかなぁ。かなめ……なに考えているのよ。会ったばっかりのあんな男がなぜ出て来るのよ。
落ち着けってば私。
私はベッドの端に座って何をするでもなく、足をばたつかせながらかなめが出て来るのを待った。
すると脱衣場の扉が突然開き、かなめが警察官のコスプレして出て着たが、私姿を見てだんだんと声が小さくなっていった。
「チート級の極悪亡霊ナースは、お前だな」
「はい?」
「あれ、いつの間に着替えてた?」
「だってあれ商売用なんでしょ。あんまり汚したらまずいかなあと思ってさ、パジャマに着替えたよ」
うさ耳フード付きウサギ柄のパジャマ姿の私を見て、目をパチクリしているかなめって、かわいいかも! いや違うだろ私、なに心を許しているの。信じられるのは自分自信なのよ。心を大きく持つのよ。
すーはーすーはー。
これでもう大丈夫、なはず。
「かなめ、警察官のコスプレ似合っているね」
「そーか」
えーん、どうやらご機嫌斜めっぽい。
「ナースは居なくても、かわいいうさちゃんが居るぞ」
「待ちぼうけ、待ちぼうけある日せっせと、野良稼ぎ、そこにウサギがとんで出てころりころげた木の根っこ……」
ダメだこりゃ。完全に精神崩壊している。着替えたのがまずかったかな。変に期待させちゃったのかもと思ったが、そうでもなかったらしい。
「俺も着替えてくるか」
そうひとこと言うと脱衣場に戻っていった。
気持ちの切り替えはわりと早いようだね。
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