第2話
東京駅に着いた私は、ひよりさんに送ったダイレクトメッセージを確認するが返信はまだない。とりあえず住所を頼りに家を目指して進むことにした。
住所からルートの検索によると、東京駅から約三十分ほどの場所らしい。思っていたよりも都内暮らしなんだ。
ダイレクトメッセージの返信がないのは気になるが、ここまで来たら行かないわけにはいかない。
新幹線改札口を通り抜けると、そこは人・人・人の嵐である。
圧倒されるほどの人々が居るのを見るのは、旅行で東京へ来た時以来である。その時は両親も妹もいたため、怖さはなかったが、一人だとこの人ゴミは恐怖すら感じる。一歩を踏み出そうにも目の前を通る人に圧倒されて動けないでいた。
スマホに表示されたルート検索によるとまず、東京環状線に乗り移動するらしい。
途中で乗り換えがあるが大丈夫であろう。なぜならグリムがついているからだ。
私の大切なグリムは一生懸命作った相棒である。一応猫だからペット扱いにはなるけどね。
大事な一歩を踏み出した。
「すみません。あっすみません」
人の往来が激しい中で、なかなか東京環状線のホームまで進めない。
右へ左へと右往左往していると、腕を掴まれた。
「大丈夫?」
ブレザーの制服にネクタイといった、シンプルなデザインだけど上品でいて、垢ぬけた感じの髪型はショートボブの女の子に腕を掴まれた。
「ねぇ君、本当に大丈夫?」
「あっ、ごめんなさい。東京は初めてじゃないんですけど、一人で来るのは初めてで……」
「何線に乗りたいの?」
「えっと、あの、東京環状線です」
「内回りと外回りどっち」
「内回り? 外回り?」
「あっごめんね。えっとどこ駅に行きたいの?」
「……旭野町駅です」
「旭野町か……だったら途中まで送っていくよ。私もそっち方面なんだ」
「いいんですか! 助かります!!」
私は深々とお辞儀した。もちろん相棒のグリムも一緒に。
「そんな大げさに、そんなに大変なことじゃないんだから」
「何も知らない私を助けてくれた恩人です」
「お大げさな、私は咲奈、
「私は
「いい名前だね。食べちゃいたくなるほどかわいいし」
「食べる? 私そんなにかわいいですか?」
私は自分を見回した、セミロングほどの黒のストレートヘアにピンクのマフラーを巻いたセーラー服に、黒のタイツにローファー姿だ。
特段かわいい要素はないと思って見えている。
「いいの気にしないで。とっても笑顔がかわいいよ、とってもね」
愛嬌のある笑顔を振りまくが、それを咲奈はかわいいと言っているのだが気づいていないのは私だけ。
「ありがとうございます」
またしても深々とお辞儀をする。相棒のグリムも一緒に。
「だからいいんだってば。かるくあんがとーぐらいでいいってば」
「それじゃお言葉に甘えて、あんがとー」
「そうそう、これでおけーだよ」
ニコッと笑ってくれた咲奈さんは、私よりも絶対にかわいいと思う。
「自己紹介も済んだし、行こうか」
「はい」
混雑している東京駅を颯爽と歩く姿は、さすがだと思う。
だって、誰ともぶつからずに歩いて行けるんですもの、都会の育ちの子は違うな。
私は咲奈に付いて行くことで、人ごみの中を歩いて行けた。
「このホームだよ」
指をさして教えてくれた。
「はい、なるほど」
咲奈はエスカレータに乗り込むと右側で立ち止まった。
私もカートを押して後に続く。
エスカレーターを降りると広いホームに驚く。
いったいどれだけの人が乗るんだろう。
「東京環状線には追走して走る京急南北線があるからね。朱美が乗るのはどっちでも大丈夫だよ」
「へぇーそうなんだ。そんなことも知らなかった」
「この時間は快速運転してないから、早く来た方に乗りましょうか」
「はい」
──ピロピロポーン。
『まもなく三番線に列車が到着します。危ないので黄色い線の外側でお待ちください』
──ピロピロポーン。
『まもなく四番線に列車が到着します。危ないので黄色い線の外側でお待ちください』
えーー両方来るの? どうなっているの東京駅って!
私の田舎じゃ一時間に一本しか来ないよ。
「両方来るから空いてる方にしようか」
「はい」
私さっきから「はい」しか言えてないよ。咲奈さんにお任せっきりだ。
すると、列車が通過するのではないかと思うほど、速い速度たくさん入線してきた。
いったい何両あるのよ。私の地元なんて二両だよ。
「環状線の方が空いてるね」
そう言うとホームドア横に立つと
──ピンポンピンポン。
ホームドアと列車のドアが自動で開いた。
私の地元だと押しボタンを押さないとドアは開かないよ。ってかホームにまでドアがついいているのか東京は、すごい街だ。
「ボートしてないで乗るよ」
「あっ、待ってください倉田さん」
──ピンポンピンポン。
ドアが閉まった。ドアの上を見るとテレビがついてるってか、網棚の上にまでテレビがついている。すごい車両だ。
「咲奈でいいよ。こっちも朱美って呼ぶからさ」
「じゃあ……咲奈、東京って面白いですね。列車は長いしドアは自動で開くしテレビまで付いているし」
「あっははははは」
「笑わないでくださいよ」
「ごめんごめん、朱美ってどこから来たの?」
「秋山県ですけど」
「あの、はげなまで有名な」
「そうですけど、あれは一部地域だけですからね」
「知ってるよ」
「そんなに有名なんですか」
前かがみで聞いてきた私にたじろいなら咲奈は答えた。
「民俗学には詳しくないけどさ、男島半島だけあるんだよね」
「そうなんです。男島半島だけの伝統なんです!」
ありったけの知識で答えた咲奈はホッとしていた。
朱美はそれをしっていてくれただけで興味指針だ。
咲奈にとっては咲奈は十分であった。
次のステップに踏み込めるからだ。
「でさ、良かったら連絡先交換しない」
「連絡先交換ですか?」
若干の疑いを持っているようだが、ライトな通信手段体と心得ている咲奈にとっては好都合である。
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