第142話 主人公っぽいカミーユ
ヘルピーはどんな時でもヘルピーだ。
思考が全てアレだ。
クレティアに緊急招集され、俺がエロ魔王極になり、自分自身も罰を受けたと言うのに。
まぁ、ヘルピーの事は後で考えるとして、先ずは今から始まる決闘に集中しよう。
慢心せず、油断せず俺は華麗に勝利しなければならない。
「俺からは以上だ」
武闘祭メンバーの晴れ舞台を作る事と、冒険者関連の処遇を決めたので、後は戦うだけだ。
「では、立会人達から確認事項等は?」
「特にございません。これから行われる決闘は、双方合意の元、正式な決闘である事を確認しました事を立会人の代表として総合ギルド総本部長ティボール・フォールが宣言します」
これで帝国側の逃げ道は全て塞がった。
「これより決闘を開始する。先程の話の通り先ずは本日開催予定であった武闘祭メインイベント出場予定者達とカミーユ殿は開始準備を」
各国代表、各ギルド長達が観覧席の中央関係者席に移動を始め、三十二人の精鋭達? がゆっくりと近づいてくる。
「カミーユ。全く心配していないけれど、気を付けてね」
「サクラも気を付けてくれ。観覧席の方が危険な可能性もある。ザクス、ナタリー。サクラを頼む。アリーゼは情報収集も兼ねて目と耳で戦ってくれ」
皆がやるべき事を確認していく。
「では、女神クレティアの使徒カミーユ・ファス・ドゥラ・エデン。出陣する」
「「「「カミーユ(様)。ご武運を」」」」
一人一人とうなずき合い決闘場中央へとゆっくりと進む。
レオニラン公国と戦った時は隣にサクラがいた。
ブラック男爵領の時は熊どん達と一緒だった。
俺一人で戦うのは……、隣に誰もいない戦いは初めてかも知れない。
日本でサラリーマンをしていた時は口喧嘩すら避けてきた。
ゲームやラノベではステータスで圧倒している者が負ける事など当たり前のように起きていた。
本当に勝てるのか?
何を根拠に勝てると思っているのか?
自分が強いと勘違いしているのでは?
雑念が不安を呼び、疑心暗鬼になる。
【マスター。懐かしいですね。エルトガドに来た時は二人だけでしたね。私はいつもマスターと一緒です。今までマスターがどれだけ努力してきたのか、どれだけの人を助けてきたのか、どれだけの人に信頼されているのか知っています。マスターはエルトガド一、神界一のマスターです】
何を弱気になっていたのだ。
俺は決して一人ではない。
いつも皆が一緒だ。
(ヘルピー。ありがとう。何か吹っ切れた)
【しっかりして下さいマスター。華麗に舞いましょう】
(そうだな。防御は任せたぞ。敵は俺が全員潰す)
【任せて下さい。昨日までの私の特訓を思い出して下さい。負ける要素がありません】
(そっ、そう……、だな……)
昨日までの特訓?
サクラと夜の戦いしかしていない気がするが……。
まぁ、細かい事は気にしない。
心をリセットすると周りの音が耳に入ってきた。
どうやらジェイコブ陛下が武闘祭チーム三十二人の名前を読み上げ紹介していたようだ。
メンバーも観客席に手を上げている。
なかなか粋な計らいだ。
俺も軽く準備運動をしながらその様子を眺める。
陸上選手がスタート前に軽くジャンプしたりダッシュしたりするあの動きだ。
メンバー紹介中だから目立たないようにジャンプは五メートル程度、ダッシュも百メートルを三秒程度で抑えて。
刀を抜き素振りをすれば、斬撃で会場の柵が壊れたが……。
観客達は喜んでいるようだし問題無いだろう。
メンバー紹介が終わったようなので、相手と打ち合わせをしないといけない。
一対一でやるのか、三十二対一でやるのか。
「ジェイコブ陛下。開始の前にこの三十二名との対戦方法を確認したい。一人ずつやるのか、全員纏めてやるのかだけだが」
「そうだな……。帝国側の戦士は一分間で結論を出せ」
風魔法を使って全員に判るように話をする。
そうでないと不正を疑われてしまからな。
一分間の話し合いの結果、三十二対一での対戦となった。
連携は出来ないだろうが、手柄は早い者勝ちと考えたのだろう。
では、三十二人派手にやられてもらおう。
「双方準備はよろしいな? では……。始め!」
ジェイコブ陛下の野太い声が響き渡る。
相手との距離は大凡百メートル程か。
恐らく通常の決闘ではあり得ないほど相手との距離がある。
敵は一斉に俺を目がけ駆けてくる者、背後に回り込みたいのだろうか大きく距離を取りながら走るもの、魔法の詠唱を始めるもの。
皆それぞれバラバラに動き出す。
俺は折角魔法を詠唱しているのに目標の俺が動いては可愛そうと思い、その場に留まった。
一応この戦いはお詫びも兼ねているので、一人一手は攻撃の機会を与えてあげないと申し訳ない。
最初に攻撃してきたのはロングソードを持った剣士だ。
袈裟斬りを無理矢理途中で止め、強引に引き戻し回転しながら切り上げる……、のはフェイクで何と獲物から手を離すと同時に開店蹴りを繰り出す。
なかなか考えた初見殺しの技だろう。
俺は剣に拳を突き出しロングソードを砕き、遅れて届く足に拳を振り下ろし骨を砕く。
最後に相手の腹部目がけ蹴りを放つ。
二十メートルほど吹き飛びバウンドしながら地面を
恐らく死んではいないだろう。
後で回復してあげよう。
次は魔法だ。
無数のファイアボールが視界を埋め尽くしている。
魔力の反応は無数のファイアボールの後ろに本命があるようだ。
俺は右手を掲げ、放たれた魔法が術者へ向かうようにイメージし手を振り下ろす。
するとイメージ通りに魔法は反転し術者へ向かう。
予想外の出来事に対応出来なかった魔法使いは自分の魔法を被弾し吹き飛ばされる。
気付けば開始二分で立っている者は十人となっていた。
「どうした? それでもメインイベント出場者か? 準備運動にもならん」
「この化け物め!」
「おいっ! 囲んで同時攻撃だ! 自分の最高の一撃を放て!」
「「「おおっ!」」」
「期待しているぞ? 少しは楽しませてくれ」
「準備は良いな? 行くぞ!」
十人が殺到する。
大剣を大上段から振り下ろす者、レイピアで喉を刺突する者、袈裟斬り、横一文字、正拳突き、様々な獲物が様々な角度から命を刈り取るために繰り出される。
この場にいる全員が彼らの勝利を確信しているだろう。
決して回避出来ない……、と。
俺を信じている四人と俺自身以外は。
会場から音が消えた。
全員が呼吸する事を忘れているのかと錯覚する程の静寂。
「ジェイコブ陛下。全員に止めを刺す必要があるか?」
「っ! 勝者、カミーユ!」
【マスター。先程私と熱く語ったと記憶しております。あの時私はヒロインになった気になっていましたが、完全に裏切られました。お仕置きが欲しいのでしょ? ねぇ?】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます