第130話 口喧嘩 開幕
帝国の監視役であるサラスさんを揺れない馬車の営業マンとして勝手に任命し、ヘルピーがその道のプロっぽい事を言っている間に馬車は帝城へと入っていった。
流石に帝国が動いているので、入国のようなトラブルも無くスムーズに事が進んでいく。
これが普通なのだが、俺はトラブルに愛されている男だから、スムーズに事が進む事の方が珍しい。
「こんなにもスムーズだと逆に心配になるわね」
サクラが
まあ、謁見でトラブルが起きる事が確定しているので、それまではトラブルにも大人しくしていて欲しい。
馬車が止まりサラスさんが案内のため先に歩く。
帝城へ入る玄関? 的な所は昨日通った所とは別のようだ。
貴族や客人専用かな?
宰相との打ち合わせのために通された部屋も昨日よりも格式が高い部屋のようで、かなり広く、調度品もかなり高級品だろう。
迎賓館よりも良い物が使ってあるのは流石帝国だ。
クレティアホテルには負けているがな。
そんな事を思いながら部屋を眺めているとハゲ親父宰相がやってきた。
部屋に入り俺達の顔を見たハゲ親父は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに持ち直した。
「女神クレティア様の使徒カミーユ様。女神クレティア様の眷属でありカミーユ様の妻であるサクラ様。ようこそ帝城へお越し下さいました。私はライオネル帝国で宰相を務めておりますチェス・カナルと申します。以後お見知りおきを」
「エデン国国王カミーユ・ファス・ドゥラ・エデンだ」
「同じく王妃サクラ・ファス・ドゥセ・エデンよ」
帝国はエデンを認めていないが、女神クレティアの使徒である事は認めたのだろう。
俺達は敢えてエデンを名乗る。
端から見たら火花が散っている事だろう。
「入国に際しましては行き違いがございまして大変ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」
「今は武闘祭の終盤だ。そちらも色々大変だろう。予想していたよりも早く入国出来た。謝罪は不要だ」
「そうね。てっきり入国拒否されると思っていたから、私達としては彼の行動に感謝したいくらいよ」
「大変有り難いお言葉感謝いたします。しかし、我が国が招待したお客人に大して不手際があった事は事実です。改めて謝罪を」
入国時の不手際という名の嫌がらせはこの場で終了させたいらしい。
「貴国からの謝罪の言葉は受け取った」
「先程も言った通り私達に思う所は何も無いわ」
この話はこれで終了だ。
ハゲ親父に着席を促しお打ち合わせスタートだ。
「チェス宰相。先ずは確認だが……」
「ライオネル帝国を含めエルトガドに存在する全ての国はエデンを認めていないのかしら?」
初手から攻めるのが今回の方針だ。
ハゲ親父がエデンと口にしなかったのだから帝国がエデンを国として認めていないのは良く判っているが、確認は重要だからな。
「誤解があるようです。エデンが存在している事は周知の事実です。国を表す地図にもエデンの名が記されているのがその証拠です」
どうやら言い訳用のストーリーは用意されているようだ。
「現在のエルトガドでは、新たな国が誕生する際、我が国のような大国の庇護の元、もしくは、それまで所属していた国から独立を認められ建国するのが常でございます。しかし、エデンはどの国の庇護も受けておらず、独立も認められておりません」
俺が世界樹に誓った事でエデンという名前が誕生し、国となったのだから当然だろう。
当初の国土は森だけだし、森から出た事も無かったから当然の話だ。
「今までに無い状況で地図にエデンの名が突然現れた。そしてエデンは噂には事欠きません。今は幸いな事に四年に一度の武闘祭で各国首脳が帝国に集まっておりますので、この機会にカミーユ様とサクラ様を帝城へご招待し、承認を得ていただくのが今回のご招待の目的ですので」
今回の非常識な呼び出しはあくまでも俺達のためと言う事らしい。
油断していると納得してしまいそうだ。
「あくまでもエデンのためだと?」
「勿論でございます」
「それでわざわざ今上帝がエデンに手紙を出してくれたと?」
「はい。折角の機会ですので各国に話を通しまして……」
此処だけ見ればだけれどね。
「宰相殿。話は変わるが、今上帝から指定された品は納入済みと認識しておいて問題無いか? 昨日総合キルドのティボール総本部長から話を聞いて確認はしているだろ?」
昨日ゲットした預かり証的な文書をテーブルに置きながらハゲ親父に訪ねた。
今回の呼び出しの言い訳ストーリーに対して肯定も否定もしていない事が重要らしい。
昨夜サクラからレクチャーを受けたからな。
ベッドの上で……。
「……。そっ、それは……。はい……」
「帝国としてそれはきちんと認めて貰わないと私達も困るわよ? 準備したポーションもカロリーバーも今までに無かった物だし、エリクサーよ? 今上帝が指定した数も判ってるでしょ?」
「サクラ。文書の控えは当然帝国も持っているし、第三者も確認している。事前に総合キルドのティボール総本部長からチェス宰相に報告もされているんだ。世界の冠たるライオネル帝国が発行した文書を認めない訳ないだろ? チェス宰相に失礼だぞ?」
「そうよね……。チェス宰相。先程の私の発言は撤回し謝罪ます」
俺とサクラの芝居も腕を上げたと思う。
俺もサクラも日々成長しているのだ。
特に俺は伸びしろが大きいからな。
「いえ。謝罪の言葉は不要です。元は我が国の不手際が招いた事でございます。お気遣い感謝します」
「俺としては目録だけで現物が無い状態で謁見は避けたいのだが……。数が数だけに全てを持ち込むのが難しければ、見本として少しだけでも謁見時に準備をお願いしたい」
「重ねてお気遣い感謝します。そのように手配いたします」
俺とサクラ以外の人間が触れば容器は割れるし、カロリーバーは粉々になってしまうが、帝国がどのような対応をするのか見物だな。
場も温まってきたので、メインイベントに移ろうか。
【マスター。メインイベントの前に馬車の営業を掛けましょう。男爵家の三男坊よりもこのハゲ親父の方が売り上げに貢献します。お金は正義です!】
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