第81話 完璧なトップセールス

 エルトガド式の乾杯に微妙に失敗したが、誰も気付いていないようだ。


「カミーユ。ごめんなさい。挨拶の途中だったんじゃ無い? かんぱ……? そう言えば、カミーユは前も同じような事を……」

「大丈夫だサクラ。日本では乾杯の音頭を取る者が最後に『乾杯』と言ってグラスを掲げていたんだ。その癖が抜けなくてな……」

「……。そっ、そうなのね」


 その微妙な間は何だったんだ?


【マスター気を遣わせないで下さい。ぼっちだったマスターが乾杯の音頭を取る事も無ければ、乾杯するような場所に出向いていないなど、思っていても言える訳が無いのですから】


 全部ぶっちゃけた人がいますがね。

 ヤケ酒だ!

 今日は飲んでやる!

 王国中の酒を飲み尽くしてやる!


【マスター。知らないと思いますが、マスターは耐毒性の体質です。いくら飲んでも酔えません。お酒が勿体ないので飲まないで頂くと世界の役に立ちます】


 ここに来て新たな事実が発覚した。

 重要な事はステータス画面に出るようにして欲しい。


 気を取り直して俺も食事を楽しむとしよう。

 俺とサクラの席は国王と王妃の対面で、宰相をはじめ国の重鎮が集まっている。

 それぞれご婦人同伴なので、堅苦しいが華やかさもある。


 色々と聞きたい事もあるだろうが、やはり俺が元いた世界について興味があるようで、エルトガドと地球の違いや、王国と日本の違いについて質問が相次いだ。


「エルトガドと俺がいた地球で一番の違いは魔法の有無だな。地球にも魔素はあるらしいのだが、地球の生物は魔素を活用して魔法を使う事は出来ない。その代わり、科学という物のことわりに関する学問が発達していて、便利に暮らしていた。俺はエルトガドにきて魔法に驚いたが、エルトガドから地球へ行ったら科学に驚くだろう。どちらが優れているでは無く、その星、その国、その場所の特徴と思っている」

「魔法が無い世界ですか……。どのような世界か想像も出来ませんね」


「旧公国では『法治国家』を造られるとか」

「これも私がいた日本がベースになっているのだが、王侯貴族を含めその国で暮らす全ての人に適用する『法律』というルールを決めて、全て法に基づいて裁かれる。法に基づいて国家運営を行うので『法治国家』だな。当然ルールは勝手に決められないので、市民の代表者も法律作りに参加する。王国にとってはあまり喜ばしい話では無いだろうな」

「そうとも限りませんぞ。身分も含め法を制定すれば良いのですし、一考の価値はありそうです。研究員を派遣しても?」

「隠す事は無いから問題無いと思うが……。一応旧公国にいるアンジェラ宰相に打診して欲しい」


 男の話は真面目だ。

 男同士の飲み会につきものの下ネタなど全く出てこない。


【マスターが男同士の飲み会に参加した記録は何処にもみあたりませんが……】


「サクラ王妃が開発されたカロリーバーは凄まじい効果ですね。まるで二十代に戻ったみたいに……。ねぇ?」

「そうですわよ。だけで無く、も……。ねぇ?」


 エルトガドでは女性陣があちら系の話でもり上がるようだ。

 女子会などではそうなのかもしれないが、異性がいる場所でそのような話を女性がするなど聞いた事が無い。


『ブラックハイヒール』や『愛の賛歌』の存在は秘匿せねばならないな。

 世の男性陣が薬漬けの廃人になってしまう。


「エデンにはカロリーバー以外にも特産品がございますので、是非王国のトップレティーにご使用頂ければと思っておりますの。私達からの贈り物として数は少ないですがご用意しておりますので、是非とも」


 流石サクラだ。

 売り込みは忘れていない。


 その後も異世界の話やエデンの森の話、学校の話など話題に事欠く事は無かった。

 小一時間ほど経過して中だるみしてきた時にルーラント国王が立ち上がった。

 皆ルーラント国王に注目し静寂と緊張に包まれた。


「皆楽しい時間を過ごしてくれているようで嬉しく思う。ここで、エデンより我が国に友好の証しとして贈られた物を紹介したいと思う。カミーユ国王、サクラ王妃。お願い出来るか?」


 ルーラント国王はドッキリ好きなのか?

 打ち合わせに無い事をいきなり振らないで欲しい。


「はい。お任せ下さい」


 サクラは笑顔で応じている。

 笑顔のサクラが俺を見て説明するように促してくる。

 目は全く笑っていなかったが……。


「先ずは、先の騒乱で貴国には騎士団の派遣等エデンの要望を快くお聞き頂き感謝を。その証しとして今回エデンから王国及びここにお集まりの皆様へエデンの特産品を」


「王国貴族の皆様へは、各種カロリーバーとポーション。卓上サイズの鏡をご準備しておりますので、後ほどお屋敷へとお届けいたします」


「「「おお~~」」」


 サクラの説明に会場にどよめきが起きた。

 どちらかと言えばご婦人向けのお土産品だが、喜んで貰えたようだ。


「王家には、カロリーバーとポーションを多めに……。国のトップとして人一倍働けるでしょう」


 会場が笑いに包まれる。

 国王も笑っているので問題無いだろう。

 王妃の目は輝いている……。


「それから、手鏡と姿見をプライベート用に。謁見前の身だしなみチェックのために特大の姿見も準備しました。謁見の前に最終チェックをお願いしますね」


 悪戯っ子っぽい表情のサクラが可愛すぎてしょうがない。


「ルーラント国王には馬車での移動中だけでも寛いで欲しいと思いますので、揺れない馬車を用意しました。試乗も購入も可能ですので、ご興味がある方は総合ギルドへお問い合わせ下さい」


 俺もトップセールスを忘れていない。

 ユーモアに欠けるが、勘弁して欲しい。


「総スパイダーシルク製の衣装のオーダー券も国王夫妻分を。防御力もありますので不測の一撃を防いでくれます。こちらも総合ギルドまで」


「最後にこれを」


 和やかにお土産のお披露目をしていたが、雰囲気を変えるように重々しく告げる。

 アリーゼがゆっくりと台車を運んでくる。


「エリクサーを三本。クレティアローズのコサージュとクレティアソードを友好の証しに」


 その場にいる全員が息を飲む。

 完全のこの場は俺とサクラが支配している。


【マスター。本当にマスターはやれば出来る子だったんですね。信じられません】 

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