第79話 カミーユの最終兵器 我慢の汁を添えて
センドラド王国王都。
大国と呼ばれる国の王都は普段であれば人が溢れ活気に満ち溢れている。
四十メートルはある大通りには馬車が行き交い、通りを渡るのも大変な通りも、現在は静寂に包まれている。
人がいなくなったかと言えばそうでは無く、通りの両サイドには人で溢れかえっている。
人々の視線の先には神話の世界が広がっていた。
整然と隊列を組み、悠々と歩くユニコーン達。
先頭にはユニコーンに跨がる騎士。
見た事も無い豪華な馬車。
馬車の中には信じられないほど見目麗しい男女。
目の前の光景全てが現実とは思えず息をするのを忘れてしまうほどだ。
「今のは何だったんだ? 俺は夢でも見ているのか?」
「女神クレティア様の使徒様と
「何でも死の森の魔獣を従えてどっかの国を滅ぼしたらしいぞ」
「あの方がカロリーバーを作っているそうよ。感謝しか無いわね」
馬車が通り過ぎると現実に戻り、人々は噂話に花を咲かせ、再び日常へと戻っていく。
センドラド王国の騎馬隊に先導されたユニコーン隊はゆっくりと王城へと向かっていく。
「流石大国の王都だな。通りは広いし人も多いな」
「そうね。王都だけで公国の十倍は人がいるでしょうから」
「凄いな。百万都市か。治めるのも大変だろう」
「この規模の都市を治められるから大国なのよ。まぁ、商売相手としては悪く無いわね」
この旅ではトップセールスをすると決めているので間違った発言では無いが、大国を大国と思っていない強気発言に俺は若干胃が痛くなる。
日本での俺は総務だった。営業なんてした事が無い。
サクラを心強いと思うと同時に今までの流れを考えると何かしらトラブルがあるのでは無いかとハラハラしてしまう。
俺はやれば出来る子だが、小市民の小心者だ。
【マスター。自慢の仕方を間違っていますよ? いざとなったら自慢のアレを見せれば万事解決です。タイミングを間違えないように私が指示しますから安心してください】
何処の世界に国王同士の会談中にポロンとする奴がいるのか。
せめて、ボインボインした柔らかな膨らみをポロリ……。
否、俺も大概可笑しくなっている……。
案ずる事は無い。落ち着いていこう。
俺とサクラの乗った馬車と護衛のザクスとナタリーが王城正面玄関? へと案内され馬車を降りる。
アリーゼ達は別の入り口から入り何処かの部屋で待機するのだろう。
「ようこそセンドラド王国へ。私はこの国の宰相を務めておりますセシル・ヘイウッドと申します。国王を筆頭に王国国民一同カミーユ国王及びサクラ王妃の訪問を歓迎いたします」
「お出迎えありがとうございますヘイウッド殿。私がエデン国王であり女神クレティアの使徒カミーユ・ファス・ドゥラ・エデン。ここまでの護衛を含め貴国の心遣いに感謝する」
「私はサクラ・ファス・ドゥセ・エデン。センドラド王国の王城へお招き頂いた事嬉しく思います」
「丁寧なご挨拶ありがとうございます。長旅でお疲れでしょう。先ずは寛いでください」
無難に宰相との挨拶を
「ヘイウッド殿。旧公国への騎士団の派遣感謝申し上げる」
「困った時はお互い様です。これを機に友好を築ければと言う思惑もございます」
「あら。それは本音かしら? それとも貴族特有の回りくどい言い回しで本意は他にあるのかしら?」
「滅相もございませんよ。本音も本音です。お二人を敵に回せば国が滅びます」
俺やサクラ、エデンの事をかなり正確に把握しているのだろう。
確かに俺の気分一つで王都程度あっという間に更地にする自信はある。
「それはそうと、この後の予定を教えて頂いても?」
「はい。この後謁見の間でルーラント国王と対面頂きます。その後はお休み頂いて夜には歓迎の宴を用意しております」
「了解した。エデンから先日のお礼も兼ねて特産品を持参しているので、晩餐会の時にお披露目したいと思う。アリーゼという俺達の右腕と打ち合わせをして欲しい」
「畏まりました。他には?」
「晩餐会の参加人数を教えて欲しいわ」
「では後ほどお知らせいたします」
「最後にこれだけは伝えておく。俺とサクラはルーラント国王に跪く事は決して無い。それはどの国でも同じだ」
「これはカミーユの善意の忠告よ」
無言で頷きヘイウッド宰相が部屋を後にした。
暫くすると部屋をノックする音が聞こえ、担当する執事? が謁見の準備が整ったと教えてくれ、俺とサクラは迎えの騎士によって謁見の間の控え室へと通された。
謁見の間に入ってからの流れについて簡単に説明を受けて、武器を預ける。
その辺はラノベ知識通りだな。
「カミーユの短剣は女神クレティア様から直接授かったエルトガドに存在しない合金で出来ているの。もし無くしたり、傷を付けたりした場合この国が消えてしまう可能性がある事を忘れないでね」
優しい口調でサクラが恐ろしい事を言っている。
短剣を受け取った騎士の手は震えているし、この部屋の空気が凍り付いてしまった。
サクラの言っている事は事実なので敢えてフォローはしないが。
そんな控え室の空気を読まずに謁見の間に続く扉が開かれる。
「エデン国国王カミーユ様及び王妃サクラ様どうぞ謁見の間へ」
小声で促され謁見の間へ足を踏み入れる。
謁見の間には王国の貴族が集合しており、静寂に包まれているが、声にならないどよめきが起きている。
クレティアの好みに合わせて見た目を整えられた俺と、生まれながらの美貌と毎晩のお勤めで色気を身に纏った絶世の美女が並んで登場したのだ。
嫉妬や羨望の眼差しと同時に下卑た視線が降り注いできた。
玉座を見ると誰もいない。
サクラと並んで歩きながら周囲を見ても、国王らしき人物は見当たらない。
「サクラ」
「なぁに?」
「国王は何処にいるんだ?」
「私も同じ事を考えていたのよ。てっきり客人を迎えるために待っているかと思ったのだけど……」
二人とも困惑してしまう。
先程のレクチャーでは『謁見の間へ入った後は玉座の前へ』としか言われていなかったから、てっきり国王は玉座に座っていると思っていた。
他国の王を高いところに座って待つのもどうかと思うが……。
【マスター。今は耐えて下さい。アレは最終兵器ですので今は我慢です。我○汁を出すのも我慢してください】
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