第76話 ねぇ? は精霊魔法?

 エフセイ国王がエデンへの無条件降伏を宣言した。


「よろしい。エデン国国王カミーユはレオニラン公国エフセイ国王の言葉を受託する」

「停戦協定の締結まで一時休戦とします。カミーユ。一旦魔法を解除して」


 サクラに促されて一旦『真贋の灯火』を解除する。


「王族及び貴族はこの場に残ってくれ。騎士達は城門前の同士を庭に運び名簿を作ってくれ。くれぐれも丁重にお願いする」

「市民達が安心して暮らせるように最善な方策をとりましょう。貴方達にも協力して貰うわよ」


 エデンは深刻な人手不足だ。

 同時に二つの国を統治する事など不可能だろう。

 エデンの幹部に集合して貰って考えるしか無いか……。

 最終的には総合ギルドに投げるだろうが、国の運営まで総合ギルドが行っても良いのだろうか?

 今考えても答えは出ない。

 答えが出ないことを考えても仕方が無い。


「カミーユさん。ちょっとやり過ぎだと思いますよ? たった半日で……。根回しも何もありません……」


 本当に困っています! とアピールするようにアンジェラ宰相が訴えてくる。


「素晴らしい魔法でしたが……。やり過ぎですね。カミーユさんは魔王になるつもりですか?」


 間近で魔法を見ていたナタリーも辛辣だ。


「総合ギルドも困っていましたよ? 何の前触れも無く公国が消えてしまったのですから……。信徒を増やしたいのですよね? 現状恨みしか買っていませんが……」


 アリーゼまでそんな事を言うとは。

 俺を判ってくれるのはザクスだけだ。唯一同性だからな……。

 頼むぞ!


「何も考えず感情だけで行動することは控えてください。困るのは市民達ですから……」


 可愛そうに思ってくれたのか、優しく諭してくれる。

 かなり怒っているようだが……。


「カミーユのおかげで変な事をする国が減ったと思えば問題無いわよ。それよりも停戦協定の内容と公国をどうするかを話し合いましょう」


 ありがとうサクラ。


「カミーユは公国を欲しいの?」


 サクラが子供に『おもちゃ欲しいの?』と聞くように俺に聞いてきた。


「否。偶々こうなっただけで、特に欲しいとは想っていないな」

「そうでしょうね……。面倒だもの……」


 他の三人は俺達にジト目を送ってくる。


「公国の王様になりたければ今がチャンスだぞ。誰かしてみるか?」

「「「面倒なので結構です」」」


「流石エデンの幹部ね。考えることは同じね」


 エデンが直接統治する可能性は無くなった。一歩前進だ。


「俺のイメージで悪いのだが、戦後処理としてはお金で解決ってイメージだが、どうなんだ?」


 本当に俺の勝手な想像で申し訳ないが、アンジェラ宰相に尋ねてみた。


「そうですね。小さな小競り合い程度であればそれが一般的ですが、無条件降伏となると……。調べてみないと判りませんね」

「折角無条件降伏してくれたんだから、私達が好きなようにすれば良いのよ。迷うことは無いわ」

「亡くなった騎士の遺族にはしっかり手当てして欲しい」

「折角なら日本……、でしたっけ? 実験的に日本を作ってみては?」

「今まで無かったカロリーバーや学校があるのですから、学術研究国家を作っては?」

「カミーユさんとサクラさんの魔法はずば抜けています。魔法都市もアリでは?」


 誰が何を言っているのか判らない程、一斉に意見を言い出す。

 統治は面倒だがエデンらしさは欲しいのだろう。

 素晴らしい程のご都合主義だな……。


「市民は不安だろう。治安維持のために各国に警備兵の派遣を要請しよう。それと、王侯貴族をどう働かせるかを先ず決めよう」


 流石俺だ。

 抜群のリーダーシップを発揮して話を進める事が出来る。

 問題の先送りをした訳では無い……。


 各国から治安維持部隊を派遣して貰う案は没になったが、宗主国であり隣国のセンドラド王国に治安維持部隊の派遣をお願いすることにした。

 市民達には今回の原因が一部王侯貴族の暴走であり、市民の生活には全く影響がないようにするとエデンと公国の連盟でお触れを出した。


 王城を包囲していた魔獣達は一旦森へと帰って貰ったが、潜伏が得意な魔獣にはこっそり見張りをお願いしている。


 今後の国の運営をどうするかが一番の問題だ。

 面倒なので誰かに丸投げしたいのが本音だが、きちんと責任を取る覚悟はしている。


 俺は使徒としてやるべき事があるので、誰かに委任する形になるが。


 適任者はアンジェラ宰相だが、彼女は彼女で多忙だ。

 アリーゼ、ザクス、ナタリーの三人は俺とサクラに同行して貰うので無理だ。


 他国も市民も納得出来る人材が欲しい。

 いないから頭を悩ませているのだが……。

 やはり学校は最優先だな。


「カミーユ何を悩んでいるの? 戦争に勝って相手は無条件降伏したのよ? 公国はエデンの一部になったのよ。アンジェラが宰相として運営するわよ」

「えっ? 誰もやりたがらなかったじゃ無いか」

「それは王様になりたく無いだけでしょ……」


 あれ? 話がかみ合っていない気がする。


「もしかしてだが……。公国はエデンになったのか?」

「何を当たり前の事を……」


 俺が思っていたのと違う。

 俺は大戦後の日本をイメージしていたからエデンはあくまでもGHQで、いずれ主権は公国に戻す予定だったのだが……。


「無条件降伏って……。そういう事?」

「「「「……」」」」


 ジト目がきついぜ。

 癖になりそうだから程々にしてくれ。


「了解した。ではアンジェラ宰相。後は頼んだ」

「はあぁぁぁ?」


 ヤバイ。

 昭和のレディースはエルトガドで生き残っていた。

 本物は迫力が違う。


「おっ、俺が方向性を示すから、ギルドとか他国と良い感じに協力して……。ねぇ?」

「何が『ねぇ?』ですか? 巫山戯ふざけてるのですか? 私を過労死させたいのですか? 過労死以前に憤死という言葉を知っていますか? 私に憤死の実演をさせたいのですか?」


「アンジェラ。ごめんなさいね。でも、貴女にしか安心してお願い出来ないのよ……。ねぇ?」

「もぅ……。しょうがないですね。方向性はきちんと示してください。私が何とかします」


 俺の『ねぇ?』とサクラの『ねぇ?』の違いは……。

 サクラか俺の違いか?

 実はサクラの『ねぇ?』は精霊魔法なのか?


【マスター。今日は頑張ったご褒美をあげようと思っていましたが、やはりお仕置きが必要ですね……。ねぇ?】  

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