第75話 世界記録樹立!

 道を埋め尽くす騎士達を『慈愛の刃』で文字通り全滅させたカミーユとサクラは、レオニラン公国王城の謁見の間で最後の戦いを開始していた。


「エフセイ国王。逃げずにこの場にいる事を褒めてやろう」

「レオニランの名を継ぐものとして当然の事だ」


 謁見の間にはカミーユとサクラ。国王一族に公国の貴族達がが全員集まっていた。

 当然、近衛騎士をはじめとした護衛の姿もそこにある。


「我が国とエデンとの間には友好以外無かったはずだが? 友好の証しが第一王子の拘束と騎士団の虐殺か?」

「友好などあったのか? 騎士団が全滅したのも全ては此処に拘束されている者達のせいだが?」


 お互い一歩も引く事は出来ない。

 視線が交錯し火花が散る。


「先ず、第一王子はサクラやシスターの尊厳を踏みにじった。……、だ」

「レオニランの名を継ぐ者を前にしてその言い様は喧嘩を売っているのか? その言葉を口にした事を後悔するが良い」


 国王一族、貴族、近衛騎士。

 此処に集う者が皆殺気の籠もった目でカミーユを睨み付ける。


「その対応を見る限り俺の行動は間違っていなかったようだ。そこの第一王子と同じ事を言っただけだからな。公国はクレティアを国教とすると言ったはずだ。他国の国王が訪れている場所へ連絡無しに押し入り、クレティアに連なる者を侮辱した……。理由は十分だろ?」

「ウォーレスがそのような事を言うはずが無い。そうだろ? ウォーレス」

「勿論であります。この男が言った事は出鱈目です。私は……。ぐあぁ」

「何をした?」

「何もしていないが?」


『ブラックハイヒール』が勝手に拘束を強めたらしいので、俺もサクラも何もしていない。


「エフセイ国王。言った言わないの水掛け論は無駄だよな? この場にいる全員に嘘がつけなくなる魔法を掛けてやろう。正確には、嘘をつくと体内で火の魔法が発動して体内から燃やされる魔法なのだが」

「そのような魔法など聞いた事が無い」

「では、今から体験しろ……」


『真贋の灯火』


 蝋燭の炎のような小さな灯りが、俺を含む全員の体内に吸い込まれていった。


「これで嘘を吐くと体内から燃やされる。誰か試したい奴はいるか?」

「「「……」」」


「さて……。第一王子にもう一度聞こう。俺が言った事は出鱈目なのか?」

「……」

「どうした? 先程は俺の言葉は出鱈目と言ったではないか」


「ウォ、ウォーレス第一王子はそのよう発言は一切しておりません」

 第一王子に同行していた騎士が叫ぶ。


「ぐあぁぁぁ。あっ、あっ、あぁぁぁ」


 拘束されたまま叫んだ騎士が苦しみだした。


「どうだ? 体内から焼かれる気分は。騎士としての仕事を全うしてさぞ幸せだろう」


【マスター。私でも若干引きます……。苦痛を与える美学に反します……】


 どうやらやり過ぎだったようだ。

 今の俺は何に見えるだろうか。

 恐らく使徒では無く悪魔や魔王に見えるだろう。


「灯火は消え、傷を癒やせ」

 死にそうな騎士の魔法を解除して、簡単な治療を行う。


「サクラ。エリクサーはあるか? 持っていれば騎士に飲ませてやってくれ。少し感情的になりすぎていたようだ」

「私は大丈夫。何があっても貴方の隣に立っています。貴方の妻ですから」


 そう言いながらサクラは騎士へエリクサーを飲ませ、騎士は光に包まれ回復した。


「エリクサーはこの一本だけだ。嘘を吐けば命が無くなる。真実を話そう」

「どうやら魔法は本物で、ウォーレスは情けなくも言い逃れをしていたようだな……」

「信じて貰えて何よりだ。そして、今回の戦争の原因は公国にある。今まで何度も公国の失態を許してきたが、今回は一線を越えた」

「貴方達はカミーユを侮っていたのよ……。カミーユの優しさに甘えていたのよ」


 サクラが言った事がすべただと思う。

 何をしても許されてきた。

 サクラを宥めながら争わないようにしてきたのだから、そう思ってしまっても仕方が無い気がするが、ザクスやナタリーは俺とサクラの本質を見抜きエデンへと転籍したのだ。

 本質を見抜けなかったのが悪い。


「俺は女神クレティア様やエデンを侮辱などしていない。エルフ風情が神聖なる公国第一王子に刃向かったのだから当然の対応をしたまでだ」


 第一王子は嘘は言っていない。魔法が発動しないのだから。

 言ってはいけない事を言っているが……。


「そのエルフとは女神クレティアが使徒の妻として認め、祝福を与えた者だ。祝福の証しにクレティアローズを身につけている事を忘れた訳ではあるまいな? しかも剣を抜き刃を突きつけた。許されると思うのか?」

「私に怒りをぶつけるのは別に構わないけど、エルフを侮辱する事は私は許さないわよ。クレティア様の信徒として存在しているのはエルフですもの。エルフを侮辱するのはクレティア様を侮辱するのと同義よ」


「カミーユ国王。サクラ王妃。第一王子の件は良く判った。しかし、約五百名の騎士達を殺すのはやり過ぎだと思わないのか?」

「私はカミーユが魔法の詠唱を始めた段階で騎士達に武器を捨てるように呼びかけたのよ? 一部の騎士は武器を束なす素振りを見せたわ。でも……。そこの騎士団総長の一言で騎士達は武器を捨てる事が許されなかったのよ」

「俺があの時使った魔法は、俺とサクラに刃を向けている者だけに発動する魔法だったからな。武器を捨てていれば何も起こらなかっただろうな」


 俺とサクラに『真贋の灯火』は発動しない。

 真実を伝えている証明になる。


「王城へ攻め込む敵を目の前にして、武器を捨てるなど……。敵に道を空けるなど公国の騎士としてあり得ない行為だ。国を守り王を守るのが騎士の務めであり、騎士の誇りだ」

「それはそうだろう。俺はそこに関しては否定しないが、俺も黙って引き下がれないからな。これは国の存亡を掛けた戦いなのだ。一歩間違えれば俺達が死体になっていたのだからな」


 こんな事をダラダラと話すのも疲れてきた。


「エフセイ国王。この国はエデンの魔獣に包囲されている。そして王城もまたエデンの魔獣に包囲されている。騎士団は壊滅した。これ以上抵抗するならば国土を更地にしても構わないが?」


 謁見の間が静寂に包まれる。

 決断を迫られたエフセイ国王は険しい顔をして考え込んでいる。


「……する」

「国王さん。聞こえないわよ? もう一度」

「降伏する。レオニラン公国はエデンに無条件降伏する」


 開戦から僅か数時間で終戦した。


【マスター。初めての聖戦良く頑張りました。ご褒美として苦痛を与える美学を教えて差し上げます】

   

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