第50話 甘い言葉にご用心

 エデンの特産品を一通り説明してから席に着いて貰う。

 メイン会場での晩餐会に出席するのはエデンからは俺とサクラ。レオニラン公国からは国王と王妃、第一王子と王子妃。教会からシスター・エレオノール、総合ギルドからアンジェラ支部長の合計八名だ。

 公国の護衛騎士も十名ほど会場に入っているが、参加者では無いので置物として扱う。

 今回同行してきた騎士達の食事も用意しているので、別会場で順番に食事を摂って貰うようにしている。

 料理人やメイド達は総合ギルドに依頼して手配して貰った。


 全員が席に着いたのを見計らったように食前酒が運ばれてきた。


「では、僭越ながら私から挨拶させていただく」


 食事会を主催したのは俺だから、俺が挨拶をして、国王に乾杯の音頭をとって貰おうと思う。


「本日は急なお誘いにも関わらずこうして参加してもらえた事に感謝する。不幸な行き違いもあったが、こうして同じ食事を楽しめる事を嬉しく思う。レオニラン公国から頂いた友好の証しの返礼としてこの席を設けた。この一時ひとときだけは心から楽しんでもらえれば幸いだ」


 非常に簡単に挨拶を終えた。

 ぼっちだった俺が挨拶できた事を褒めて欲しい。

 俺は出来る子なのだ。


「ではエデンとレオニラン公国、此処に集う皆の未来に」

「「「「「「皆の未来に」」」」」」


 エフセイ国王の最後の言葉を復唱して皆が乾杯した。

 エルトガドのルールを知らない俺だけ乗り遅れた。


「カミーユ国王。入国の際は不快な思いをさせて済まなかったな。何せ報告が二転三転して情報が錯綜しておって、用心するに超した事は無いと思ったのだ」

「エフセイ国王。国王からその言葉を聞けて安心しました。悪意あっての事で無いと知れただけで十分です。それに謝罪と友好の証しは既に受け取っておりますので」

「そう言ってもらえると私も安心だ。あの魔獣達を相手に戦える国など無いからな。そんな魔獣を従えるカミーユ国王は女神様の使徒であると言う。この目で見るまでは俄に信じられなかったが、一目見て納得した」

「魔獣達は可愛いですよ。第三騎士団のザクス副団長などは私の相棒である熊の魔獣と戯れておりましたよ」


 エフセイ国王は意外と良い奴なのかも知れない。

 だからと言って許す事はしないが。


「サクラ王妃の髪飾りはとても素敵ですね。今までこのような技術で造られた品を見た事がありません」

「これは、私とカミーユが女神クレティア様から夫婦として認められた証しです。女神クレティア様が神界で造られたと聞いておりますので。アンジェラ支部長やシスター・エレオノールが身につけている装飾品は私の髪飾りを模してカミーユが作ったものですの。女神クレティアから祝福を受けた証しとして贈りましたのよ」


 女性陣はやはり美について話をしているようだ。

 クレティアローズが欲しいと言われても断るので単なる自慢話になってしまっている。


「ところでカミーユ国王は女神クレティア様の使徒として異世界から遣わされたとお聞きしましたが」


 ずっと気になっていたのだろう、話が落ち着いたところで第一王子が聞いてきた。


「そうなんです。私は女神クレティアが管理している地球という星の日本という国で生活していました。ある日家で休んでいると……」


 俺はクレティアからこの世界へ転生させられた経緯を話した。


「という訳で私は女神クレティアの使徒の役割を果たすためにエルトガドでサクラと共に生きていく」

「俄には信じられないが、この迎賓館を魔法だけで造りだし、存在しないと言われるエリクサーを目の当たりにすれば、カミーユ国王が女神クレティア様が遣わされた使徒と認めざるを得ない。我がレオニラン公国は使徒カミーユ国王とサクラ妃を国友として歓迎する」


 国友というのがどう言うものか良く判らないが悪い意味では無いだろう。

 サクラの表情を確認しても嫌悪感は無いから問題無いはずだ。


「それで提案なのだが、我がエデンは女神クレティアの信仰を高め、広める事を第一の目的としている。この迎賓館を中心として、教会、孤児院、学校を建築し公国の民を受け入れたいと思っているのだが、土地を提供して頂けないだろうか。その代わり死の森からの魔獣はエデンが責任を持って対処しよう」


「今ある教会と孤児院はどうなる? それと学校とは?」


 エフセイ国王が確認してくる。

 話の流れ的に押し切れると思ったが、きちんと確認してくるあたりは流石国王と言ったところか。


「公国内にある教会と孤児院の現状は女神クレティアの使徒として見過ごす事は出来ないのでな。新たに教会と孤児院を此処に造り、経営もエデンとする事にする。今までの教会との取り決めは一旦リセットし、新たに取り決めをする形になる。窓口は総合ギルドとなるがな」


 教会の現状に怒り心頭ですよと公国側に伝えておいた。


「学校は、基本的な読み書き計算がメインとなるが、職業訓練などの専門的な知識も教えればと思っている。市民の能力が向上すれば国力も向上するので、公国にとっても損な話では無いと思うし、迎賓館を含め建築様式は地球の建築物を参考にするので、観光地として栄える事も出来るだろう。死の森の魔獣による脅威が無くなれば、今まで魔獣に備えていた戦力や費用を他の業務に充てる事も出来る。治安も良くなり収入も増える。エフセイ国王は中興の祖として歴史に名を残す事だろう」


 エデン産の商品が手に入らないデメリットがかなり薄れてきている気がするが、別に良いだろう。


「一考の価値はあるな。ウォーレスはどう思う?」


 エフセイ国王が第一王子に意見を求めた。

 第一王子はウォーレスらしい。覚えておこう。


「私はカミーユ国王の提案を受け入れるべきだと思います。教会との現在の取り決めは無くなりますが、そもそも死の森の魔獣による脅威が無くなれば気にするほどでも無いでしょう。それに、この迎賓館の噂は直ぐに広まるでしょう。公国を通らなければ迎賓館へは行けませんし、この地に建つ教会は女神クレティア様の信徒の聖地となるでしょう。学校についてもメリットしか見当たりません。我が公国の新たな資源となります」


 彼らには、信仰と教育によるデメリットが見ないらしい。

 俺達にとっては好都合だ。

 そろそろエリクサーをチラつかせてトドメを刺そう。


【マスター。公国の衰退する光景が目に浮かびますね。他人の不幸は蜜の味とは良く言ったものです】


 ヘルピーさん。

 女神の側近としてその発言はどうかと思うが、きっと何かが捗るのだろう。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る