第49話 迎賓館見学ツアー

 近衛騎士を先頭に二頭立ての立派な馬車がゆっくりと近づいてくる。

 魔獣達が護衛や警備のために待機している事と、魔獣達に危害を加えなければ決して魔獣が危害を加える事は無いと伝えていたので、近衛騎士は緊張の面持ちながらしっかりとした足取りで向かってくる。


 しかし、馬には事情がわからないのだろう。

 二頭の馬は魔獣に怯え動けなくなってしまった。


「サクラ。こんな場合はどうすれば良いんだ?」

「どうしようも無いと思うわよ。私達は此処で待つだけよ」


 それもそうだと納得し、どうやって此処まで来るのか観察をしていたら、馬車の扉が開き若い男が馬車から現れた。

 恐らく第一王子だろう。

 続いて第一王子婦人と思われる若い女性、王妃と思われる女性。最後に国王と思われる男性が馬車から降りてきた。


 馬車から降りた一行は隊列を組み直し、堂々と迎賓館を目指して歩いてくる。

 流石に国王一行だ。トラブルにも動じずに悠々と歩みを進める。


 国王は想像していた中年親父では無く、シュッとしたイケオジだった。

 精悍な顔立ちで身体も引き締まっており、仕事が出来ますオーラが出ている。

 王妃はおっとりした雰囲気だが、宝石類を見せびらかすように身につけており、我が儘王妃、傲慢勘違い王妃という印象を受ける。


 第一王子と婦人は一言『若い』だ。

 恐らくまだ十代だろう。若いと言うだけで眩しく見える。


「レオニラン公国国王ご一行様。ようこそお出でいただきました。又、急なお誘いに応じていていただき感謝します。私はエデン国王カミーユ・ファス・ドゥラ・エデン。隣におりますのが王妃のサクラ・ファス・ドゥセ・エデンです」

「ご丁寧な挨拶並びに出迎え感謝する。私はレオニラン公国国王エフセイ・ドゥラ・レオニラン。隣が王妃ザイラ・ドゥセ・レオニランだ。第一王子と妻も同行しておるが、挨拶は後ほどいたす。見えていただろうが馬が魔獣に怯えて動けなくなって歩いてきたので、少し休めるとありがたい。此処にいる者達も平静を装っておるが内心魔獣に怯えて緊張しておる。私もそうなのだがな。頼めるか?」

「勿論です。では案内いたしますので王家の方々は私達と一緒に、護衛の方々は係の者が案内します」


「しかし、この建物は誰の許可を得て建てたのだ? 我が国の国内でこのような建築の報告も許可もしておらぬが」

「入国の際に第三騎士団に酷い対応をされましてね。我々の対応について正式な回答を求めた際に野宿はいやでしたので、サクッと私が魔法で造りましたよ」


 早速ジャブを打ってきたからこちらも打ち返しておいた。


「王妃殿はエルフの姫巫女様に瓜二つだが、よもや本人ではあるまいな?」

「何を仰るのやら。私は見た目はエルフですが、残念ながらエルフではありませんし、女神クレティア様から使徒の妻として祝福を受けたサクラですわ。この国の方達からエルフの姫巫女様とよく間違われますのよ。エルフの姫巫女様はエデンの森で従者と共にお亡くなりになっておりました。私共で世界樹の側に埋葬いたしましたのよ」

「左様であったか。エルフの姫巫女は魔素減少を止めるべく死の森、否、エデンの森に入っていったのだが、残念であった。しかし、魔素は以前のように溢れておるので、無駄では無かったのだろう」


 サクラの素性についても探りを入れてきたが対策は万全だ。

 サクラはハイエルフのはずだが、祝福を受けて進化したのだろうか。

 ルシアナのお墓はかえって急いで造ろう。


「夕食まで少し時間がありますから、折角ならこの迎賓館の見学でもされませんか? この世界に無い物も沢山ありますので」

「この世界に無いとは?」

「私は女神クレティアからエルトガドの魔素枯渇を解決するために別の世界から遣わされた使徒ですので」


 さらっと衝撃の事実を伝えてみた。

 俺とサクラ以外の全員が驚きと疑いの目を向ける。


「百聞は一見にしかずです。私とサクラがご案内いたしますのでゆっくりとご覧下さい」


 案内をすると言っても俺に迎賓館の知識など無いので、ヘルプウィンドウを開いたまま案内する。

 エルトガドに来て頑張ってウィンドウ表示出来るようにして良かったと心から思った。


 女性陣は鏡に興味を惹かれているようだ。

 エルトガドの鏡は地球の鏡と違って少しくすんでいるようで、鮮明に写る鏡が欲しいらしい。あげる事は絶対に無いが。

 国王は絵画に興味があるようだ。

 第一王子はとにかくキョロキョロと見回しており、圧倒されている。


「そろそろ時間になりますので、本日の晩餐会場に移りましょう」


 全員で本日のメイン会場へ移動する。

 会場の上座にはクレティア像が鎮座しており、クレティアローズやエリクサー、カロリーバーの見本が飾られている。


 一行は神々しく佇むクレティア像、色とりどりの輝きを放つクレティアローズに目を奪われ誰も言葉を発せられないでいる。


「エルトガドでクレティアとして教会に祀られている像はあまりにもクレティア似ていなくて、クレティアの要望もあり正しいクレティアの姿をエルトガドに広めていきたいと思っているんだ」


 全員を再起動させるために俺から話を振った。

 使徒として最初にクレティア像に触れない訳にはいかない。


「これが女神クレティア様ですか。私達が知っているクレティア様とは随分違い、正に女神と言って良い程の神々しさと美しさです」


 王妃が再起動に成功して感嘆の声を発した。


「今後は私が訪れた教会はこのクレティア像に置き換えていく予定です。レオニラン公国の教会が世界初の教会となります」

「カミーユ国王が最初の訪問先を我が公国にされた事に感謝しなければな」


 国王も再起動したようだ。


「こちらの薔薇の装飾品は何ですの?」


 第一王子の奥さんの声を初めて聞いた気がする。


「そちらはクレティアローズと名付けておりまして、サクラが使徒の妻である事をクレティアが認めた証しとして、現在サクラが付けております髪飾りをクレティアから贈られたんです。その髪飾りを模したのがクレティアローズの装飾品です」


 俺がクレティアローズの紹介をすると、サクラが本物のクレティアローズがよく見えるように立ち位置を調整する。


「因みに隣にあるポーションは完全回復薬のエリクサー。その隣が完全食のカロリーバーとなっております。エデンでしか作成出来ない貴重な商品です」


 アンジェラ支部長が商品の説明をしてくれた。


【マスター。悪い笑顔をしていますよ。私と同じ匂いがします。この快感は癖になりますよ】 

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