第24話 怒り心頭?
「あれ? 何かおかしな事言いましたか?」
フリーズしている俺を見てルシアナさんは不思議そうな顔をする。
俺としてはルシアナさんの思考こそ不思議の塊なのだが。
「えっと……。では順番に説明しますね」
はい。是非お願いします。
これ以上無いほどに丁寧にお願いします。
「カミーユさんは知らない世界へ一人でやってきた。そして、この世界で女神クレティア様への信仰心を高めていく。此処まで会ってますよね?」
「ああ。間違いない」
「しかし、カミーユさんはこの世界の事を知らない。この森での行動が非常識である事すら理解していない訳です。そんな非常識の塊がこれから街へ行ってもトラブルしか起こらない。火を見るより明らかですよね?」
そんな事は無い。
俺は常識人だからな。ヘルピーも付いている。
だからこそ、お金を得るために魔獣を狩って街で売る予定だったし。
「納得していないようですから言いますけど……。持って行こうとしていた魔獣は売れませんよ? 確実にトラブルです。世界中パニックです。そして貴方は死刑です」
な、何だと?
強い魔獣は高く売れるだろうが!
冒険者ギルドで一悶着あるまでが様式美だろうが!
「し、しかしだな……」
「貴方の常識は非常識と思って下さい。此処は異世界。貴方の知らない世界です」
「ご、ごめんなさい」
「判ればよろしい! 非常識の塊を世に放つ事は出来ません。既に世界をパニックに陥れようとした実績がありますからね。絶対に出来ません」
「更に私の現状です。私はいつの間にか『世界樹への生贄』となっています。エルフの郷へ戻る事は出来ません。『エルフの姫巫女様のおかげで世界は救われた』とか言って崇められている所へどの面下げて戻れますか? 私には無理ですね」
どうしよう。
ルシアナさんの話が終わらない。
そして、怖い……。
「貴方は私に此処でゆっくりするように言いました。私はエルフの郷へ帰る事は出来ない。そして貴方は非常識の塊。私は常識人」
使徒様と言って俺を尊敬の眼差して見ていたルシアナさんを返して下さい。
「貴方は私から常識を学べる。私は貴方の傍に……、いえ。はい……」
んっ。ルシアナさんのメリットが見当たらない。
しかも、頬を染めてモジモジと。
男としてビシッと話を締めるとしよう。
「判りましたルシアナさん。見ず知らずの男の事を心配してくれてありがとう」
先ずは感謝を伝える事を忘れない。
これ大切な事です。
「確かに俺はエルトガドの常識を全く知らない。ルシアナさんが隣にいる事は心強い。俺は貴女を全力で守る事しか出来ない。それでも俺の隣にいてくれるか?」
熊どんに伝えたとはいえこの森が危険な事には変わりないからな。
隣の家で生活して貰えば、勉強も捗ると言うものだ。
完璧が過ぎる。
「えっ。あっ。はい。わ、わ、私は……。私は貴女の傍に……。ず、ず、ずっと……。いつまでも……。はい。いつも……」
あまりにも格好良く締めすぎたか。
自分の能力が高すぎて恐ろしい。
【マスター。今からクレティア様へ緊急報告をして参ります。覚悟しておいて下さい】
何か報告するほどの事があったかな?
思い当たる事は全く無い。
一体ヘルピーは何を言っているのやら。
「ルシアナさん。これからもよろしくな」
「は、はい。だ、だ、だ、旦那様……」
だ、だ、だ?
最後は声が小さくて聞き取れなかったけれど、ルシアナさんが偶にこんな感じになるのは、やはり心の傷が深いからかな。
顔も赤いし。
しっかり癒やして貰いたい。
「俺の事は話したから、ルシアナさんの事も教えてくれよ。もっと君を理解したいし」
心のアップデートも必要だが、可能であれば原因は排除したい。
そのためにも彼女の事をしっかりと理解しておかないといけない。
「……。私の事を……。はい。いえ、その前に私に新しい名前を下さい」
「名前を?」
「はい。私はルシアナ・ヘノベバ・レムス・ムルシアとして生きていく事は出来ませんし、今後名乗るつもりもありません。あなたがこの世界で新しい人生を歩むのなら、私もあなたと共に新しい人生を歩みます」
「君は強いな。そこまでの覚悟を……」
「勿論です。ハイエルフにとって一生に一度だけの決断です。でも、あなたなら……」
えっ?
ハイエルフは一生に一度は名前を捨てて生きていくの?
知らなかった。
「判った。これ以上は聞かない。何か名前に希望はあるか?」
彼女の覚悟に敬意を払おう。
此処で逃げるのは彼女に失礼だ。
「あなたから貰えるなら……。そうですね。あなたらしい名前を……」
「俺らしい……、か」
俺らしい名前。
俺は、日本からの転生者。
それが最大の俺らしさかな?
彼女の特徴は何だろう。
美しい。
銀髪翠眼。
ハイエルフ。
美子。みどり。シルヴィア。
違う。ペットへの名付けでは無い。
薔薇の香りがしていたな。
ローズ。
マリー。
駄目だ。どれもピンとこない。
桜。
不意に桜並木の映像が流れてきた。
川沿いに並ぶ満開の桜。
「さくら……」
「……。サクラ?」
「そう、さくら」
「サクラ……」
「俺が住んでいた日本の花だ」
「地球には花にはそれぞれ意味があってな、桜の花言葉は、『精神美』『優美な女性』『純潔』『高潔』だ。国によっては、更に『私を忘れないで』『優れた教育』という意味もある」
「君のその美しさ、ハイエルフである高潔さ、世界を救う精神。世界の人々が忘れてはならない君の行動。確かな知性」
「君の全てがこの名前の中にある」
「何より、俺が一番好きな花だ」
花から名前を付けたなんて怒るかな。
しかし、これ以上の名前は思いつかないのだよな。
「……。サクラ。あなたが一番好きな……」
声が小さくてよく聞き取れないが、頬を染めながら呟いている。
顔が赤いのは怒っているからか?
「カミーユさん。素敵な名前をありがとうございます。私は今からサクラです」
良かった。気に入ってくれたようだ。
折角なら昨夜みたいにキラキラ演出で盛り上げよう。
彼女も喜ぶだろう。
「世界樹に移動しよう」
俺はサクラの手を取り世界樹の元へ。
お互い向き合い、サクラの両手を包みサクラを見つめる。
「女神クレティアの使徒であるカミーユは、ルシアナ・ヘノベバ・レムス・ムルシアへ新たにサクラの名を贈り、サクラを守り共に生きる事を宣誓する」
金色の光が俺たちを包んだ。
この演出はやはり最高だ。
サクラを見ると目に涙を浮かべながら喜びの表情をしている。
【マスター。クレティア様から伝言です。『話がある』との事です】
あら。戻ってきたのねヘルピー。
伝言が非常にシンプル。
クレティアさん。
俺、何か悪い事しましたか?
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