第14話 戦いの火蓋は落とされた

「無事な者はこれで全員か……?」


 アラスターの声が響く。その声色は緊張感に包まれており、それだけで充分事態が深刻である事は理解出来た。茫然とするアーレントの横を、ハナが横切りデューイとハリスのそばに行き、話を始めた。


「ハリス、これで伝播を回避出来た者は全員になります」


「報告ありがとうございます、ハナ。少し休んで下さい」


「ですが……」


「ハナ、ここは隊長の指示に従うべきだぜ? オレ達にも準備がいるんだからさ」


「デューイの言う通りですよ。お二人の力が必要不可欠なのですから」


 三人が話を終えてから、アラスターが口を再度開く。その眼差しは悲しげだ。


「トロイメライ戦隊よ、貴様らを軽んじてすまなかった……心より謝罪する。だからどうか!」


 ――大切な部下達を、疑似怪獣ハイ・カタストロイの魔の手から救ってくれ。


 この基地の司令官であるアラスターの心からの想いに応えるべく、トロイメライ戦隊の構成員であるハリス、デューイ、ハナは動き出すべく休息を取りつつ準備を始める。……出撃の準備を。


 ****


 その頃。

 レナータとラヴィニアの二人は、伝播させた兵士達をしり目に空を見上げていた。その瞳は暗く影を感じさせるものだった。


「姉さん、勝負の時だね」


「そうね。ようやく、終焉を迎えられるかもしれないわ……彼らが邪魔さえしなければだけれど」


「アイツらは来る。だから……」


「えぇ、見せてあげましょう? 私達姉妹の絆と絶望を……!!」


 二人は互いの手を重ねて繋ぐと、その身体が崩れて行く。人としての姿を失い、銀色の身体に二つの顔がついた四足歩行の疑似怪獣ハイ・カタストロイへと変異した。


 ****

 

 二機の機体が加速しながら変異したコールフィールド姉妹へ迫る。先行するのは、白基調に紫のラインが入った機体で右手に銃剣ゲベート・バヨネットを構えており、それを追うように白基調に赤のラインが入った左腕にドリルが着いた機体が走る。

 銃剣ゲベート・バヨネットを手にしているのが、隊長であるハリスの乗るトロイメライ・エヴァンゲリウム。

 ドリルを装着しているのが、デューイとハナの二人乗りのシュッツ・エンゲルだ。

 二機のM.E.に通信が入る。


疑似怪獣ハイ・カタストロイを確認致しました。これより個体名をグシオンと命名……ご武運を』


 通信越しのエッダの声色は、相変わらず無機質だが気遣いは感じられた。そんな彼女の成長に、ハリスがいつも通りの穏やかな口調で返す。


「良い傾向ですね、エッダ。レインもさぞ事でしょう……と言う話は置いて、デューイ少尉とハナ少尉、準備はいいですね?」


『了解です、隊長! ハナ、気合いれろよ!』


『勿論です! 隊長のに尽くします!』


 通信を終えると、二機は疑似怪獣ハイ・カタストロイグシオンと対峙する。

 ――戦いは始まったばかり。

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