第10話 夢想の讃美歌

 拮抗していた両者だったが、切り札が来るまで二秒を残して、勢いよくキルヒェンリートの銃鎌ゲベート・ゲヴェーアヒッペが弾き飛ばされた。

 後方に飛ばされたのをブースターを逆噴射させて威力を殺す。

 回転しながら銃鎌ゲベート・ゲヴェーアヒッペを構え直した時、ついに切り札である十字架型複合兵装クロイツ・クリンゲが到着した。

 変形機構によるをさせながら。

 十字架の長い部分が三又の槍のように開くと、左右からエネルギーが放出され、剣のようにエネルギー体の刃を生成すると、シトリーの障壁バリアに突き刺さる。

 降下時の威力も加えられ、エネルギー体で出来た刃が少しづつ障壁バリアにヒビを入れて行く。

 その隙を見て、ロディがブースターで急加速して銃鎌ゲベート・ゲヴェーアヒッペの砲身を向ける。


「エネルギーの塊の上乗せだ。食らうがいい!」


 予め充填しておいたエネルギー弾を、ヒビ割れにめがけて放つ。ヒビは亀裂となりどんどん広がって行き、障壁バリアが崩れていく。


障壁バリアは壊せたが、本体に届くか? いや、届かせるのみ!)


 ロディはキルヒェンリートを、更に加速して鎌部分で首部分に刃を当て、そのまま斬り裂いた。途端、青い体液が漏れ出る。そこへ更に地面に突き刺さっている、十字架型複合兵装クロイツ・クリンゲを手に取り構え、変形させ充填させたエネルギーをシトリーに向けて放出し、打ち出した。

 塵となり、霧散して行くシトリーを見つめながらロディは目を伏せ、静かに息を吐いた。


「終わったか……」


 そこへ通信が入る。表示を見ると、エッダだった。


「何かようか?」


『お疲れ様でした、ブローディア・フォン・エルフシュタイン中尉。疑似怪獣ハイ・カタストロイシトリーの消滅を確認しました』


「了解した、至急帰還する」


『その旨、アルプ機関のナディア・ホワイトにも連絡しておきます。また、シャオジェン・レェリャン曹長も要人リネット・アーデンを保護して帰還されています』


「そうか、承知した」


 ここで通信を切ると、ロディはキルヒェンリートを操作し移動させていく。


(さて、トロイメライ・キルヒェンリート――夢想の讃美歌だが、とても讃美できるものではないな)


 皮肉な現状に苦笑しながら、彼女は振り返ることなく帰還する。ナディアに色々言われる事も、シャオジェンことシャオのフォローを入れる事も考慮しつつ。

 ……西海岸の夕日が機体に反射する。

 日常であれば、感動していた事だろうが……任務後であるロディには、そんな感情は湧かなかった。


(フェリナ・チェニーナについて、詳しく調べる必要があるだろうしな? やる事は山ほどある……か)


 ロディは機体を走らせながら、思考を巡らせるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る