第15話
「三階はまた、お城みたいだね」
どうやら二階が特別だったようで、三階はまた一階と同じような見た目をしている。登りの階段はどうやら近くにはないため、この階層を探索するひつようがあるらしい。
「また階段を探さないといけないのか」
「何階建て何ですかね、ここは」
「それは僕も知りたいよ」
もしもこれで上にあがるのではなく地下に行くのが正解だったとしたら戻るのが面倒だな。幸い今のところは一本道で迷うようなところは無かったため、ただ無駄に時間がかかるだけで済むのは良いけど。
「む、待ってください。コウイチ、何か来ます」
シャインの声を聞き、銃を構える。
先ほどの様にどこかに隠れて待ち伏せするのも考えたが、身を隠すような場所が見当たらない。大丈夫、甲冑が相手なら僕一人で問題なく相手できる、もしもの時はシャインの魔法だってある。
「……なにあれ」
廊下の奥から出てきたのは不定形の化け物だった。
小学校の頃、図工の時間に作ったスライムによく似ているが、それが意思を持ってこちら側に這って近づいている。
「ボーっとしてないで撃ってください!」
シャインの声に正気を取り戻し、手に持った銃の引き金を引く。
目や頭のようなものは見当たらないため、適当にスライムに当たる様に射撃を行う。
ただその弾丸はスライムに小さな穴を空ける以上の働きしなかった。
そしてその穴はすぐに塞がってしまう。
「駄目だ、効果なさそう!」
「分かりました、私に任せてください!」
シャインは光線を放つ。
その光線はスライムに大きな穴を空ける事に成功する。……が、ただそれだけだった。
拳銃を撃った際と同じようにすぐに傷跡は消え去ってしまう。
ダメージを負ったような様子はなく、目の前のスライムは動きを止めようとせず、こちらに迫ってくる。
「全然駄目じゃん!」
こうなれば、僕達が取れる行動は一つしかない。
ただ真っすぐ逃げる! それだけだ。
「そんなこと言われても困りますって!」
「さっき魔法でなんとかするって言ってたのに嘘つき!」
「嘘つきではありません、ただ想定外の事態が起きただけです」
幸いスライムの動きは遅く、無事階段を降り二階の教室まで逃げ切る事に成功する。
「逃げきれたんだよね?」
久々にこんなに全力疾走したせいか、呼吸が辛い。
膝に手をやり、呼吸を整えようとする。
「追いかけてくる様子はありませんね」
「なら、良かった」
その場の床に、座り込む。
どうやらあのスライムは三階から二階には移動してこないらしい、彼等には彼等なりのテリトリーのようなものがあるのかもしれない。あの甲冑達も二階にはこないしな。
「今日のところは一度帰ろう、あのスライムは今の段階だと倒せそうにないし」
「何か良い考えでもあるんですか?」
「正直無い、だけど秘密結社の人達なら何かいい案を出してくれるんじゃないかなって」
ベアヘロと戦うための装備は用意されているだろうし、もしかしたらその中でロケットランチャーみたいなものも用意されているかもしれない。
現実世界で、こんな建物中でそんなものを撃ってしまったら倒壊待ったなしといった惨状になりそうだが、夢の世界なら建物内で撃っても問題は無いだろう。
「ふむ、そうですね。この場所には敵は現れないようですし、確かにここで一度撤退しておくべきでしょう」
三階部分までたどり着くことが出来た。この城が何階建てなのかは分からないけども、初めて本格的な探索を始めたにしては大きな進歩だという事が出来るだろう。
「何とか三階まで辿り付いたのですが、そこに巨大なスライムがいて、こちらの攻撃が通用していなかったので一度撤退します」
インカムのスイッチを入れ、安住さんに現状を報告する。
「了解だ、よくやってくれた」
安住さんからの返信も帰って来て、後は現実世界に帰るだけだ。
「一応、念には念を入れておこうかな」
近くにあった掃除用具入れ用のロッカーの中に入る。
「何をしているんですか」
「一応、もしもの時にすぐに敵と遭遇するって事が無いように、ここで元の世界に戻っておこうかなって」
「なるほど、確かに合理的ですね」
シャインのそんな声を聞くと、意識が遠くなっていく。
……この感覚も馴れてきたな、そんなことを考えながら僕は意識を手放した。
目を覚ますと何時もの病室だった。
ただ一つ、いつもと違うことがあるとすれば。
「お、ようやくお目覚めか。気分はどうだ?」
安住さんと一緒に、佐久間さんもそこにいた事だろう。
「いつも通りです、特に不調もありません。佐久間さんは、どうしてここに?」
「色々確認しておきたいことがあってな、そのついでって奴だ。それにせっかく銃の使い方やらを教えた教え子が一日で死なれたら、目覚めが悪いだろ? 何かできるわけではねえけど、見守ろうと思ってな」
「ありがとうございます。銃、役立ちました」
実際甲冑相手なら二発で倒す事が出来るのは、非常に心強かった。
「ちょっと、銃を見せてもらってもいいか?」
「はい、もちろん」
佐久間さんに銃を渡すと慣れた手つきで、マガジンを外す。
「やっぱり夢の世界で使った弾丸は補充されないか」
「え、そんな持っただけで分かるんですね」
「まあ一応な、持てば残弾数ぐらい分かる。あんただってすぐにこれぐらいできるようになる」
……正直なところ余り出来るようになりたくないなとは思う。
確かに、残りの残弾数が分かるのは便利だとは思うが、そこまでになるまでは相当の数拳銃を持たないといけないだろう。
それは、ずっとあの甲冑やスライムたちと戦うことを意味している。
「あ、そうだ。弾丸が補充されてないならもしかして」
携帯を取り出し、写真のフォルダーを見る。
そこには想像通りというべきか、二階でとった写真がそのまま残っていた。
「これを見てください」
「なんの写真だ、これ」
「ほう、これは素晴らしい」
それが何なのか理解出来ていない佐久間さんと、興味深そうにそれを見る安住さんと、正反対の反応を見せる。
「これは、お城の二階で撮った写真です。こっちはシャインが穂坂さんの部屋だって言ってました」
まずは穂坂さんの部屋を彼等に見せる。
「ああ、あの嬢ちゃんの部屋か。なんというか、殺風景な部屋だな」
どうやら佐久間さんは僕と同じような感想を持ったらしい。
「それで、もう一つがこれです」
兎の人形達が食卓を囲んでいる写真を二人に見せる。
「なんだこれ、兎のぬいぐるみか?」
「はい、多分穂坂さんの願望と何かしら関係があるとは思うんですけど……」
それ以上は口にできなかった。
何故ならこれがどう関係しているか、理解していなかったからだ。
「俺にはさっぱりだな。先生なら何か分かるんじゃないか?」
佐久間さんは降参とばかりに両手を挙げる。
「ふむ、残念ながらこの人形達が何を示しているかは、私にも分からない。穂坂凛音が家族関係で不満を持っていないというのは、既に確認済みだ。ただ、この写真にはそれ以上の意味がある。良くやってくれた、森田紘一。君のおかげで、また一つ、こちらが取れる手が増えた」
「それはいったい?」
「それは……いや、これはまだ話さないでおこう。それより、三階でであったスライムとやらの話をしてくれないか?」
何故だか安住さんは言い淀み、話を逸らす。
僕には話せない事なんだろうか?
「ああ、そうだ。そいつを倒せないと、三階の探索は厳しいんだろう?」
佐久間さんからもスライムの話を聞かれたので、一旦先ほどの話は忘れておくことにしよう。気にしても仕方ない。
「え、ああ。そうですね。図体がかなり大きくて、動きは遅いです。ただこちらの攻撃は通用しないようだったので、戻ってきました」
「向こうの攻撃方法は確認したか?」
「まだわかりません。その図体によるのしかかりとかですかね」
余り動き自体は早くなかった。甲冑と違って帯剣していたわけでもないし、魔法のような攻撃方法がなければ、相手からの攻撃は問題なさそうに思えた。
「攻撃が効かなかったらしいが、弾が弾かれたのか?」
「ええと、弾事態は貫通したんですが、その部分がすぐに修復されたんです。シャインの魔法でも同じでした」
「成程な。銃弾も魔法も駄目と、それなら俺の仕事はねえな」
「もしかしたらそのロケットランチャーとかなら倒せるかなと思ったんですけど、無理ですかね?」
「うーん、そうだな」
佐久間さんはなにやら考え込むような素振りを見せる。
「多分その質問への回答としては可能だけど、不可能になる」
「えっと?」
「倒す事は可能だと思うが、あっちの世界に持ち込むのが難しいって話だ。アサルトライフルは持ち込めないのに、ロケットランチャーは持ち込めるなんて都合のいい話ないだろう」
「それは、確かにそうですね」
そういえば、そうだ。
同じ大型の武器である、ロケットランチャーは持ち込めない可能性が非常に高い。何が持ちこめて、何が持ち込めないかは一度確認してみたほうが良いのかもしれない。
「ふむ、そのスライムに関しては、こちらで対策を考えておくよ。森田紘一、君はもう疲れているだろうし、今日はもう休みたまえ」
「……そうさせてもらいますね」
ただあっちの世界で探索をしていただけで、現実の僕は何もしていないはずなのに、持久走でも行った後ぐらいの倦怠感を感じているのも確かだ。
ここは安住さんの言葉に甘えて、置くべきだろう。
穂坂さんの願望に、あの城の事。
何となく前に進んでいるような気はしているが、それがただの錯覚ではないことを今は祈るだけだ。
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