第1話: 青葉丸

「この刀は今日からお前のものだ」


 鍛治師の二剣鋼冶からおれに、一本の刀が渡された。

 十五になった今日、おれは真剣を持ち、冒険者となった。


「で?これの切れ味は相当なもんなんだろうな?」


 耐久性はあっても、切れ味が悪いのであれば、持っていても意味がない。


 おれが求めているのは、何匹も何匹も切れる切れ味のいい刀だ。


「切れ味ばかりをみていては、すぐに壊れる刀になる。わしはバランスの取れた刀打った」


 その言葉を聞いて、おれはガッカリだった。


 二剣鋼冶。かつて何本もの名刀を打ったとされる鍛治師。


 その男が打つ刀には魂が宿るという。


 おれはその言葉に惹かれ、新しい刀を打つよう依頼をした。

 依頼の内容はこうだ。


「とにかく魔物を斬れる刀をくれ。とびきり切れ味のいいやつを頼む」


 ただし今渡された刀は完璧に切れ味がいいとは言えないと言っている。

 切れ味が良ければより魔物を斬れるのにも関わらず……


「おれが頼んだのは人を斬れる切れ味のいい刀だぜ?何がバランスだ」


 ずっと座っていた二剣は、秀一郎の元へ迫ってきて、


「いいか?ただ切れ味がある刀を作るとすると、脆くなり、

 魔物を数匹斬ったところで折れちまう。

 こりゃあ若造どもが打つ刀に多いことだが、金の無駄、資源の無駄だ。

 わしはそんなこたぁしたかねえ。

 いいかよく聞け小童。

 わしはな、いかに刀を長く持たせられるかっちゅうことに焦点を置いてんのや。

 この刀はな、魔物を斬っても刃こぼれしにくいように作ってあるんだよ。

 その日の鉄の量、温度、打つ角度、打つ強さ。

 そこまでみてこっちゃやってんだ。

 青二歳が、いいかわかったか?

 この刀はより魔物を斬りたいと言うお前の願望を叶えてやってんだぞ?

 感謝するのが礼儀ってもんじゃねぇのか?」


 おれの胸ぐらを掴んで叫ぶ鍛治師は、説教を垂れてくる。

 そしてどれも正論ばかりのように聞こえ、ぐうの音も出なかった。


「そこまで言っちゃいねぇだろ?感謝してるさ。

 あんたが打ってくれたこの刀にもな。

 おれの身勝手な依頼に付き合ってくれてありがとうよ。

 お代はこれで足りてるか?」


 そう言っておれは手持ちの金を全て出す。合わせて2000ガルだ。

 一般的な武器が150ガルと考えると、かなり高価なものになっている。

 量産するものではなく、オーダーメイドで作るものなだけあって、値段が倍以上になっているのだ。


「毎度あり。

 2000ガルはちぃとばかしたけぇかもしれねぇが、メンテナンス込みでのこの値段だ。

 刃こぼれしてきたと思ったらすぐにうちに来い。

 それと、この刀は今からお前さんのもんだ。

 こいつの名前くらい教えちゃくれねえか?」


 そういえば、まだ刀の名前もつけていなかったな。

 初めて手にした真剣。その名前は…


 「青葉丸。この刀は今から、青葉丸だ」

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