第十九問

第十九問


試合会場に到着した秀隆と秀吉の前に、見知った顔2つが向かい合った。


「お、次の相手はヒデたちか」

「まあ、順当だね」


先に会場入りしていた聡と誠が秀隆達を見てそんな感想を漏らす。


「次はお前らか」

「何だかんだで、因縁があるのう」


聡とは対Dクラス戦で、誠とは対Aクラス戦でそれぞれ相対している。とは言っても、聡と直接戦ったのは秀隆であったし、誠に至ってはこれが初の直接対決であった。


「しかし、誠はいいとして、よく聡が勝てたな」

「はん! 俺を舐めるなよ?」


聡が勝てた事に感心する秀隆に対し、聡は「どんなもんだい!」と胸を張る。


「威張るな。どうせ殆ど誠のお蔭だろうが。この数学Fクラスが」

「ぐっ……」


秀隆の指摘に、聡は言葉を詰まらす。実質、一回戦で聡は相手の攻撃を避けるばかりで、攻めは専ら誠の仕事となっていた。


「し、仕方ないだろ! 数学苦手なんだからよう!(数学69点)」

「こっちの秀吉は格上(Eクラス)を一人で倒したって言うのに……」

「え?」


秀隆の言葉に、聡は「マジで?」と言う顔になる。


「まあ秀隆のアドバイスがあったからの」

「それでも、格上の相手に勝てたのは凄いよ」

「そ、そうかの?」

「……」


謙遜する秀吉を、誠は素直に褒め称えた。その傍らで、聡が静かにカッグシと膝を着く。どうやら相当なショックだった様だ。


「安心しろ。明久と雄二に負けた奴等よりましだ」

「……ああ」


同時刻、どこかでBクラスの仲良し女子2人組が大きなクシャミをしたとかしなかったとか。


「というか。お前らがこんなの(大会)に参加しているとはな」

「僕は付き添いだけどね」


改めて誠達が大会に参加していることを疑問に感じた秀隆。そんな秀隆の疑問に、誠は肩を竦めながら答えた。


「……ああ。聡の目当てはチケットか」

「う、うっさい! いいだろう別に!?」


目的を言い当てられ、顔を真っ赤にして怒鳴る聡。それを見て、秀隆の顔が段々とにやけたモノになる。


「まあそうだよなあ。金のない学生にとって、こんなイベントでしかプレミアムチケットを手に入れる手段何てないもんなあ。いやあ微笑ましいなあ」

「秀隆。それくらいにしといてやるのじゃ。九条が段々と縮こまっていっておるぞ」


秀隆に揶揄されて段々と小さくなっていく聡。秀吉が窘めて、秀隆は「しゃあないな」と聡を弄るのを止めた。


「……そろそろよろしいですか?」


今まで静かに会話を聞いていた畑山先生がやっと四人に声を掛けた。


「あ、すんません。もういいです」

「それでは……二回戦を始めます! 承認!」

「「「「[[rb:試獣召喚 > サモン]]!!!」」」」


力ある言葉が紡がれ、召喚の陣が形成される。そして登場するのはお馴染みの召喚獣。各々の召喚獣が姿を現すと、その頭上に点数が表示される。


Fクラス 神崎秀隆 英語:294点 & Fクラス 木下秀吉 英語 65点

                VS

Aクラス  鳳誠 英語:379点 & Dクラス 九条聡 英語:93点


「相変わらず高え点数だな」

「君が言うと嫌味にしか聞こえないね」

「げっ。木下の点数が意外と高い」

「それはどういう意味かの?」


点数確認が終了したところで、各々召喚獣に武器を構えさす。


「では……始め!」


畑山先生が振り上げた右手を振り下ろし、試験召喚大会第二回戦が開始した。


Side Hidetaka


「んじゃ、暫く一人で頼むぞ、秀吉!」


そう叫ぶと秀隆は召喚獣を誠の元へと走らせる。今回は一刀一銃というスタイルだ。


「やっぱりそう来るよね」


秀隆の行動を予測していた誠はしっかりと防御態勢を取らせていた。


「だよなあ!」


だがそれに構わず、秀隆は召喚獣を特攻させ――



――ギィイン――



剣と槍がぶつかり、金属独特の甲高い音色を奏でる。


「貰ったあ!」


ぶつかった瞬間、秀隆の召喚獣は誠の召喚獣の眉間に狙いを定め、そのまま発砲――


「甘いよ!」


した直後、誠の召喚獣は素早く右手の握りを変え、槍を回転。銃弾が発射される寸前で銃を秀隆の召喚獣の腕ごと上方に弾き、軌道をそらした。


※召喚フィールドは観客席から距離をおいているので弾が観客に当たる心配はありません。


「ぐぅっ!」


思わぬカウンターに、秀隆の顔が歪む。


「そこぉっ!」


その隙を逃さず、誠の召喚獣は秀隆の召喚獣に向けそのまま石突きを振り下ろす。


「ちぃ!」


秀隆の召喚は攻撃自体はガードしたが、無防備な空中だったため、地面に足から激突。その痛みに耐えながら、秀隆は召喚獣を操作。槍を弾き返し距離を取った。


「ったく。優子といい。お前といい。何でそんなに操作が上手いんだよっ!?」


秀隆が忌ま忌ましげに吐き捨てる。といっても、彼が苛立っている理由は操作の上手さ云々ではなく、改心の攻撃をアッサリと躱された上にカウンターを喰らったせいだが。


「短期間とは言え、効率的かつ集中的に練習したからね。君や吉井君程じゃないけど、それなりに自負はあるよ?」

「そんだけ動ければ十分過ぎるっつうの」


不敵に笑う誠とは対照的に苛立たしげに顔を顰める秀隆。秀隆が苛立つ理由は今の現状だけではない。Aクラス打倒を目指す彼にとって、Aクラスの戦力が上がることは将来的には好ましくない。これから、二学期以降を考えると頭の痛い現実だ。


「まあそれでもやるしかないんだけど、な!」


思考をすぐに切り替え、次の瞬間には、秀隆もいつも通りの人を食った様な笑みを見せ、召喚獣を突撃させる。


「受けて立つよ!」


当然、誠もそれを迎え撃つ。秀隆が近寄れば槍で牽制。それを剣で弾いてもその反動を利用して柄や石突で迎撃。そんな攻防が暫く続く。だが、どんなに秀隆が攻めても、誠は確実にその攻撃をいなしていく。後は先程と同様に反撃の機を窺うだけ。


「だああああ!」


それは意外にも早く訪れた。槍と剣が触れると同時、秀隆は槍を上に弾き一気に接敵。


「似たような手はっ!」


誠は当然発砲があると予測し、反射的に銃を弾く様に槍を旋回させる。が、行動に移した瞬間、誠は気づく。秀隆が何の考えもなしに同じ手を使うような男ではないと。



――ゾクッ――



刹那、誠は背筋が凍りつく様な感覚に襲われた。後日彼はこう語る。


『あの時の秀隆の顔は死神の笑みだった』


それは兎も角、秀隆の銃撃を撃退しようとした誠だが、その行動は空振りとなった。何故なら、


――ガシッ――


「なっ!」


秀隆の召喚獣が、槍の柄をガッチリと掴んだからだ。秀隆の召喚獣の足元には、直前まで持っていた剣が落ちていた。


「くっ!」

「おっと」


誠は直ぐに槍を引き、振りほどこうとするが、秀隆の召喚獣は腕を槍に絡ませるように掴んでおり、中々ほどけない。


「注意一秒怪我一生ってな」


そう一言呟き空いた右手の剣を銃に変改。召喚獣共々厭らしい笑いを浮かべ照準を誠の召喚獣の眉間に合わせる。


--パンッ--


乾いた発砲が会場に響いた。


Hideyoshi side


「それっ!」

「何のっ!」

「くっ!」

「これならどうじゃ?」

「まだまだっ!」

「やるのう!」


場面は少し遡り、秀吉と聡の対局。こちらは秀隆達とは打って変わり、目まぐるしい攻防の変化が繰り広げられていた。聡がダガーで斬りつけようとすれば、秀吉は薙刀のリーチを活かしこれを牽制。逆に秀吉が攻めに転じれば、聡は距離を置きスローイングダガーで弾幕を張り秀吉を足止めする。

そこまで大差はないとは言え、元の点数差を考えれば聡が若干有利な試合展開になると思われていた。しかしそこは腐ってもFクラスの秀吉。新学期初日から試召喚戦争をくぐり抜けただけあって、実操作では秀吉の方が経験値が上。一回戦での秀隆からのアドバイスも活かしダメージを最小限に抑えている。結果、お互いに決定打が与えられずにいた。


「くそっ! 点数では勝ってるのに!」


中々ダメージを与えられない焦りからか、聡が苛立った声を上げる。


「本当に皆そう言うのう」


何度も聞いたその台詞に、秀吉はヤレヤレと肩を竦める。


「まあ秀隆曰く、『だからやり易い』そうじゃが」


文月学園に限ったことではないが、基本的にカースト上位クの生徒は下位の生徒を蔑む傾向にある。Bクラスの根元が典型例で、自分より成績の悪い生徒を見下し、時として道具のように扱っている。根本のような生徒は、下の者は上の者に逆らえないと決めつける。そしてそんな生徒程、下の者を甘く見る。下剋上という言葉は、彼らの辞書から抜け落ちている。

だからこそ、付け入るスキが生まれ足元を掬われる。対Aクラス戦の為に雄二が打った布石。この作戦が成功したのもこれの効果が少なくない。瑞希や秀隆の様に成績の良い生徒はいても所詮はFクラス。その2人さえ押さえてしまえばあとはどうとでもなる。仮に秀隆と瑞希を抑えても、美波の数学、康太の保健体育と一芸に秀でた生徒は少なからず存在する。厄介ではあるものの、そこに注意してさえいれば遅れをとることはない。

だが秀隆たちを警戒をするということは、敵戦力もそこに集まると言うこと。そして強い光が濃い影を生む様に、目立つ生徒の陰には暗躍する生徒がいると言う事。Dクラス戦での須川の放送然り、Bクラス戦での明久の奇襲然り。注意すればするほどに泥沼のように術中にハマる。

その上、良くも悪くもプライドの高い生徒は、相手が格下であるほど、眼の前の敵に翻弄されると我を忘れる。相手の自尊心と過信を利用した作戦が、Fクラスの躍進を後押ししていた。

点数で勝っている。その事実が、想像していなかった現実との乖離を生み、焦りを募らせる。


「だあああ!」


膠着した試合運びにいい加減うんざりしてきた誠が、ありったけのダガーを投げつけた。


「むっ!」


攻めに転じようとしていた秀吉は、途中で防御を余儀なくされる。その場で停止し、薙刀を振るいダガーを弾くが――


「しまっ!」


運悪く、弾いたダガーが他のダガーに当たり、その跳ね返ったダガーが秀吉の召喚獣の足に刺さってしまった。


「チャンス!」


相手の点数が大幅に削られ、尚且つ身動きが取りづらくなっている。この機を逃すわけがない。聡は召喚獣を秀吉の召喚獣に急接近させ、その首を狙う。


「くっ!」


秀吉も覚悟を決め、薙刀を構えて反撃を試みるが――


――パン――


乾いた音が会場に響いた。


No Side


――パン――


乾いた銃声が、会場に響く。その発生源は勿論秀隆の召喚獣の持つ剣銃。会場の誰もが、その凶弾は誠の召喚獣に放たれたと思った。


「「「え?」」」


だが誠の召喚獣は消滅することなく、変わらずそこにあり秀隆に槍を掴まれたまま。


「なんで俺の武器が!?」


秀隆の放った銃弾が撃ち抜いたのは、聡の握っていたダガー。秀吉に向けられていたその凶刃は、根元からポッキリと折れていた。


「秀吉!」

「……はっ! 今じゃ」

「なっ!」


秀隆の鋭い声。その声で真っ先に我に返った秀吉は、聡の召喚獣の首を薙刀で刎ねた。


「んじゃ、こっちも終わりだな」

「あ……」


呆気にとられる誠の召喚獣に、今度こそ凶弾が突き刺さる。


「し、勝者! 神崎・木下ペア!」


観客たちもまだ何が起きたか理解していない中、第二回戦の幕は、あっけなく閉じられた。

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