第六問
第六問
Cクラスの近くまで来た明久達は、そこで雄二に止められた。
「明久。お前たちはCクラスに入らなくていい。ドアの物陰で待機していてくれ」
「こっから先は、俺と雄二でやる」
「大丈夫なの?」
心配そうに二人を見る明久達。いくら秀隆と雄二とはいえ、Bクラスが潜んでいるかもしれない場所にたった二人で向かわすのは危険過ぎる。
「心配すんな。んじゃ、行ってくる(明久、携帯を通話にして何時でも出れるようにしておけ)」
「(え? うん。分かった)」
密かにアイコンタクトで指示を送り、雄二と秀隆は明久達を待機させてCクラスに入った。
「ちーす」
「邪魔するぞ」
「あら? どちら様?」
Cクラスに入った二人を、ショートヘアの女子生徒が出迎えた。
「俺はFクラスの代表、坂本雄二」
「同じくFクラス、神崎秀隆。Cクラスの代表さんはいるかい?」
「代表は私よ」
雄二達を出迎えた女子生徒が代表の小山友香だった。
「アンタが小山友香か。実はアンタに話があるんだ」
「ふーん。話ねえ」
一瞬であったが、小山の視線がチラリと教室の隅に移動したのを秀隆は見逃さなかった。
「ああ。実は……Cクラスの代表を一目見ておきたくてな」
「……へ?」
雄二の唐突な物言いに、小山は思わず間抜けな声を上げてしまった。
「いや。俺のクラスメイトからCクラスに飛切りの美人な代表がいるって聞いたもんでな。これは俺もFクラス代表として一度挨拶しておかねばと思ったからな」
「こう言ってるけど、コイツ結構シャイでさ。俺が付き添いで来たってわけ。ほら、話したいことが山ほどあるんだろ? 早く話せよ」
「待て、急かすな。こういうのは順番が大事なんだ」
勝手に話を進める雄二と秀隆に、小山はどうしていいか分からず、ただアタフタするだけであった。そして、時折『ある一点』何度も見ていた。
「ん? おんやぁ? そこに居るのは、根本君じゃないか?」
「「!!」」
わざとらしく、おどけて言う秀隆。小山と根本はまさか気づかれているとは思ってもいなかったので大いに驚いた。
「お、ホントだ。それに、あそこに居るのは長谷川先生じゃないか?」
雄二も秀隆に合わせて今気づいたかのように言った。根本は自分の作戦が裏目に出たことを悟ってダラダラと冷や汗をかいた。
「どう言うことかな、根本君? 何故長谷川先生と一緒にCクラスに?」
「そ、それは……そう! 宿題だ! 長谷川先生に宿題を見てもらってたんだ。ですよね?」
「え、ええ……」
根本の咄嗟の思い付きに同意する長谷川先生。根本はこれで事なきを得たと感じた。
「ふーん。宿題ねえ。俺はてっきりCクラスと手を組んで俺達を嵌めようとしていたのかと思ったよ」
そう言うと、秀隆はグルリとCクラス全体を見渡し--
「ねえ。Bクラスの皆さん?」
--と笑いかけた。
『『『!!』』』
何人かの生徒が身体をビクッと震わせた。勿論、秀隆は鎌を掛けたのだ。これで、CクラスにBクラスの生徒が混じっていることが確定した。
「それに、宿題なら態々CクラスじゃなくてもBクラスでいいんじゃないかな? 若しくは職員室や生徒指導室で西村先生に教わるって手もあるな」
「冗談じゃねえ! 誰が好き好んで鉄……西村先生に教わるかよ!」
「根本君。それは西村先生に失礼ですよ」
思わず出た根本の本音を長谷川教諭が注意した。確かに根本が言ったことは西村教諭に対して失礼なことだが、根元の意見は生徒中の共通意見ではあった。
「そうか? 生徒指導担当だけあって教え方は分かりやすくて的確だと思うが?」
「お前頭可笑しいのか!? あの西村先生だぞ!?」
「根本君!」
またしても長谷川先生に注意され、歯ぎしりする根本。だが秀隆の意見に疑問を抱いたのは根本だけではなかった。
「正気か秀隆?」
「当たり前だ。寧ろ教え方は高橋先生と1、2を争うぞ」
これは去年一年間2人の授業を受けた秀隆の率直な感想であった。雄二はそれを聞いて、増々信じられないものを見るような目線で秀隆を見た。
「それより、どうなんですか? 長谷川先生。本当に根本の宿題を見に来たんですか?」
「そ、それは……」
秀隆に問い詰められて言いよどむ長谷川先生。どうやら咄嗟に嘘をつくのは苦手らしい。
『どうすんだよ根本? お前が絶対成功するからって……』
「バカ! よせ!」
Bクラスの生徒がうっかり零したこの言葉で、根本の企みは確定した。
「やっぱりな」
「酷いじゃねえか。協定を破るなんて(スッ)」
――ガラッ――
秀隆が右手を上げると、Cクラスのドアが開き、外から明久達Fクラスの生徒が入ってきた。雄二が小山と話している間、秀隆がズボンに携帯を通話状態で隠しておいたので、教室でのやりとりは筒抜けだった。
「先に協定を破ったのはそっちだからな。これはお互い様だろう?」
「クソ! こうなったら……お前ら、坂本を打ち取れ!」
完全に追い詰められた根本は雄二を倒すよう指示をだすが、
「承認できません」
長谷川先生が戦闘を許可しなかった。
「な、何でですか!?」
慌てた様子で理由を尋ねる根本。流石にこれは予想外過ぎたようだ。
「状況を見るからに、先に協定を破ったのは君たちBクラスのようですね。それなのに逆上してFクラスを襲うようなことは、教師として認めるわけにはいきません」
「ぐ……!」
根本の頼みを、長谷川先生は頑として聞き入れなかった。これにより、根本の作戦は崩壊した。
「まあ俺達も鬼じゃないさ。お前がこのまま大人しく帰るなら見逃してやってもいい」
「くっ……覚えてろよ!」
『あ! おい待てよ根本!』
根本は捨て台詞を吐くと、そのまま走ってCクラスから出ていった。慌ててBクラスの生徒達も根本の後を追いかけた。
「では、私ももう失礼しますよ。Fクラスの皆さん、戦争頑張って下さい」
「ありがとうございます」
長谷川先生も、Fクラスにエールを送るとCクラスを退室した。
「やれやれ。すまないな。騒がせちまって」
「い、いいえ。気にしないで」
小山は根本の作戦があっさりと論破され、更には根本が尻尾を巻いて逃げ出したのがまだ信じられなかった。
「そうか? 悪いな。お詫びと言っちゃなんだが、協定を結ばないか? そうだな……『一学期はお互いに戦争を仕掛けない』ってのはどうだ?」
「……何が目的?」
小山は自分達より立場の低いFクラスが同盟でなく協定を結ぶ理由が思いつかなかった。
「別に内容以外の目的はないさ。しいて言えば、『根本なんかと手を組むような代表のクラスとは同盟を結べない』ってとこかな」
「なっ!?」
秀隆の台詞は、言い換えれば『小山は根本と同等』と言っているようなものだ。
小山は自分と根本が同一扱いされてショックを受けた。
「まあ無理にとは――」
「その協定、結ぶわ!」
小山は雄二の台詞に被せるように宣言した。
「そ、そうか。もし破ったら――」
「絶対に破らない! あんな奴と違うってところを見せてあげる!」
「お、おう……」
怒鳴るように畳み掛ける小山に、流石の雄二もタジタジになった。
「んじゃ協定締結ってことで。そろそろお暇するか」
「そうだな。ちゃんとした協定書は後日送らせてもらう。じゃあな、小山」
「ええ。さようなら」
無事Cクラスとの協定を約束した雄二と秀隆は、明久達を連れてCクラスを辞退した。
「何とかなったね」
「そうじゃの。Cクラスと協定も結べたことじゃし、一安心じゃな」
「一時はどうなることかと思いました」
「本当ね」
後顧の憂いが断て、明久達はホッとしていた。
「何言ってんだ? Cクラスは終わってないぞ?」
「え?」
秀隆と雄二の対Cクラス作戦はまだ続いていた。
「そうだ。Cクラスには少し痛い目を見てもらう」
「え? でも協定を結びましたよ?」
「甘いなリリアは。そんな事だと今に寝首を掻かれるぞ」
「でも、Cクラスの人達に申し訳ないよ」
「根本とは言え、自分の彼氏を『あんな奴』扱いする奴だぞ? 例え協定を結んだとしても、使えないと思えば直ぐに俺達を切るさ」
淡々と説明する雄二と秀隆。実際、小山は状況によってはFクラスとの協定を反故にする腹積もりであった。
「だから先手を打つ」
「先手? 何をする?」
「まあ明日のお楽しみさ。くくく。俺をあんな中途半端な作戦で嵌めようとした罪。Cクラスには悪いが連帯責任として償ってもらうぜ」
『秀隆だけは敵に回してはいけない』とその場に居た全員が思った。
――翌日――
朝のホームルーム終了早々、雄二が教壇に上がった。
「さて、今から対Cクラスの作戦を開始する」
「それで、結局何をするの?」
明久は昨日はぐらかされたので早く知りたくて堪らなかった。
「秀吉に『これ』を着てもらう」
そう言って雄二が取り出したのは、文月学園女子生徒の制服だった。
「……雄二。君に一体何があったの?」
「言ってやるな明久。雄二も色々と悩んでるんだ」
「お前ら後で校舎裏に来い」
ヒソヒソと不穏な会話をする秀隆と明久に、雄二がドスの利いた声ですごんだ。
「ま、冗談は置いといて。秀吉にそれを着せてどうするの?」
「秀吉にはこれを着てCクラスに行ってもらう。ただし『木下優子』としてな」
秀吉にはAクラスに双子の姉の『木下優子』が所属していた。二人は一卵性双生児かと思うほど瓜二つで違うのは成績と喋り方位である。
秀隆曰く、「気配も違う」とのことだが、気配で区別できるのは秀隆くらいである。
「わしは別に構わんが……」
秀吉はチラリと秀隆の方を見た。
「ああ。気にすんな。アイツのここで築き上げた地位がどうなろうと俺達の知ったこっちゃねえって」
「(素直じゃないのう)」
秀吉は素っ気ない態度で言う秀隆に心の中でツッコミを入れた。
「何か言ったか?」
「別に、じゃ。さて、着替えるとするかの」
そう言うと、秀吉は女子の目もあるというのにその場で着替えだした。秀吉の着替え中、明久は悶絶し、康太は素早くカメラのシャッターを切っていた。
「よし、終わったぞい。ん? 皆どうしたのじゃ?」
「さあな?」
「まあ、思春期ってやつだよ」
秀吉の着替えを見て殆どの男子が複雑な反応を示す中、秀隆と雄二だけは普段通りだった。
「何ででしょう? 男の子が眼の前で着替えていたのにちっとも違和感がありませんでした」
「ウチも。何だか普通に女の子が着替えているみたいだったわ」
「不思議ですね」
女子の三人も、秀吉が眼の前で着替えていても、何も感じなかった。それ程、秀吉の女装は様になっていた。
「それじゃあ行くぞ」
「う、うむ」
「あ、待って僕も行く」
「んじゃ、俺も秀吉の名演を拝みに行きますか」
秀吉達四人は作戦を実行に移すためCクラスに向かった。
――Cクラス前――
「――さて、ここからは秀吉一人で行ってもらう。頼んだぞ」
「あまり気が乗らんのう……」
Cクラスを眼の前にて、秀吉は今更ながら気が引けてきた。やはり血の繋がった姉を陥れるのは躊躇われるようだ。
「そこを何とか頼む。Aクラスのフリをして奴らを挑発するだけでいいんだ」
「演劇部期待のホープのお前ならやれるはずだ」
「むう……仕方ないのう。あまり期待せんでくれよ……」
雄二と秀隆の二人に説得されて、秀吉は溜め息を吐きトボトボとCクラスに歩いて行った。
「大丈夫かな?」
「まあ大丈夫だろ」
「ああ。秀吉の演技は学園一だからな。それより、秀吉がCクラスに入るぞ」
明久が心配する中、秀吉はドアの前で2、3回深呼吸するとCクラスに入っていった。
「静かにしなさい! この薄汚い豚ども!」
秀吉がCクラスに入った途端、普段の言動からは想像も出来ない位の罵声が聞こえてきた。勿論、木下優子に扮した秀吉が言っているのだ。
「な、何なのよアンタ!」
「話しかけないで! 豚臭いわ!」
明久は「自分で話しかけておいてそれは酷いよ」と心の中でツッコんだ。
「アンタAクラスの木下優子ね! ちょっと成績が良いからっていい気になってんじゃないわよ! 何か用なの?」
「ふんっ……私はね、こんな臭くて汚い教室が同じ校内にあるのが我慢できないの! 貴女達なんて豚小屋で十分だわ!!」
「なっ! 言うに事を欠いて、私達はFクラスがお似合いですって!?」
仕方ないとはいえ、豚小屋と聞いて即座にFクラスが連想されるのは如何なものかだろうか。
「手が穢れるのが凄く嫌だけど、準備も出来ているようだし、薄汚い貴女達を相応しい教室に送ってあげるわ。覚悟しておきなさい。近いうちに始末してあげる」
秀吉はそう言い残してCクラスを後にした。
「こんなもんかの?」
戻ってきた秀吉の表情は、もの凄くスッキリとしていた。
「ああ。素晴らしい仕事だった」
「Aクラス戦の準備を始めるわよ!」
Cクラスはすっかり秀吉の偽の挑発に乗り、Aクラスに敵意が向いた。
「よくやったな」
「何の。これしきのこと朝飯前じゃ」
秀隆の労いの言葉に胸を張る秀吉。演劇部の彼にとって、身内に化けることなど造作もないことなのだろう。
「そうか。ところで、躊躇なくそんな格好してるから女と間違われるんじゃないか?」
「なっ! どうしてもっと早く言ってくれなかったんじゃ!」
「面白そうだったから」
「~っ!」
秀隆の遅すぎた指摘に、秀吉は顔を真っ赤にして抗議した。
「おいお前ら、じゃれ合ってないで教室に戻るぞ」
秀隆達は十数分後に迫ったBクラス戦に備えるため教室に戻った。
「ドアと壁を上手く使え! 戦線を拡大させるんじゃねえぞ!」
Bクラス前に秀隆の怒号が響く。Cクラスを挑発した後Bクラス戦が始まり、昨日中断されたBクラス前から進軍が開始された。今回の作戦は『Bクラスを教室内に閉じ込めろ』である。今現在作戦は順調に進んでいるが、一つ問題が起きていた。
「勝負は極力単教科で、複数人で挑め! なるべく一対一は避けろ! 深追いはせずに危なくなったら後退して退避! 補給も怠るなよ、」
「……」
瑞希の様子がおかしいのだ。昨日に引続き総司令官の彼女が指揮を執るはずなのだが、何故か一向に指示を出す気配がない。それどころか、戦闘にも参加しようとしないのだ。今のところは副司令官の秀隆が指揮を執りフォローに回っているので大した問題も起きていないが、やはり瑞希の不参加はFクラスにとって士気、戦略、戦力的に不利なのは否めない。
『左側出入り口が押し戻されている!! 古典の戦力が危うい! 援護を頼む!』
「ちっ、古典か……」
Bクラスは比較的文系科目が得意な生徒が多い。なのでここで流れを変えなければ一気に突破される可能性が高い。
「姫路、援護に出てくれ!」
「あ……そ、その……」
秀隆が瑞希に援護を要請するも、瑞希は言いよどむだけで中々戦線に出ようとしなかった。
「(このままだとマズい!) 明久!」
「了解!」
秀隆の呼び掛けに応え、明久は一目散に古典の竹中教諭の前に駆け寄り、
「先生……ズラ、ずれてますよ?」
と耳元で囁いた。
「しょ、所要を思い出したので、少々席をはずします!」
竹中教諭は頭を押さえながら駆け足でその場を離れた。
「よし! 今のうちに態勢を整えるんだ!」
『おう!』
竹中教諭が離れたことにより、少しずつではあるが態勢を取り戻していった。
「……姫路、お前何かあったのか?」
「え?」
秀隆に聞かれて、瑞希は大きく慌てた。
「そうだよ、姫路さん。どうかしたの?」
「そ……その、何でもないんです!」
「姫路さん……」
瑞希は大声で明久の言葉を否定した。だが、瑞希の態度から何かがあったのは明らかであった。
『右側出入り口の科目が現国に変更!』
『数学教師はどうした!?』
『Bクラス内に拉致された模様!』
今度が右側の出入り口がピンチになっていた。
「わ、私が行きます!」
と瑞希は参加しようとしたが、
「あ……」
何かを見つけたのか、瑞希は急に立ち止まると進撃を止めてしまった。
「(何かを見た?)」
秀隆は瑞希の見た方角に素早く視線を送った。
「(……根本?)」
瑞希は根本を見ていたのだろうか。
「(いや、違う別の何かだ。けど……何だ?)」
秀隆は直ぐにその考えを否定し、根本を注意深く観察した。
「(アレは……便箋?)」
秀隆が注目したのは根本も胸ポケット。そこから花のイラストが描かれた薄いピンク色の便箋が見えていた。根本の趣味とは思えないし、根本とて自分の貰った手紙をこんな時に見せびらかすバカでもない。
「(……ああ。そういうことか)」
答えは一つ、あの便箋は元々瑞希のモノで、根本はそれをネタに脅迫したのだ。
「(恐らく要件は『戦争に一切参加するな。もし破れば内容を全校生徒にバラす』ってとこか)」
秀隆は一瞬の内に考えを纏めた。恐らく協定を結ぶためFクラスが蛻の殻になった時、Bクラスの生徒の誰かが瑞希の便箋を見つけ、根本に報告したのだ。根本はそれを利用することにした。仮に協定反故作戦が失敗したとしても、翌日の瑞希は使い物ならない。二重三重の罠だった。
「姫路さん。今日は具合が良くないみたいだから、もう休んでも良いよ。試召戦争は今日で終わりってわけじゃないし。体調には気を付けてね」
「よ、吉井君……はい……」
そしてここにもう一人、根本の悪巧みに気付いた男がいた。
「じゃあ僕は少し用があるから行くね!」
「あ……」
明久はそう言うと戦線を離れ、Fクラスの教室に向かって歩き出した。
「……あのバカ。秀吉、少しこの場を任せてもいいか?」
「それは構わんが、どうしたのじゃ?」
「何、頭に血の上ったバカに頭を冷やす様に注意するだけさ。と、その前に……テメエ等よく聞け! Bクラス代表の根本には、彼女がいるぞ!」
『『『な、何ぃいーー!!!』』』
突然の秀隆の暴露に、Fクラス男子だけでなくBクラスの一部生徒も驚いていた。
「しかも相手はCクラス代表の小山友香だ! 俺も昨日会ったが、中々の美人だったぞ!」
「諸君、ここは何処だ?」
『『『最後の審判を下す場だ!』』』
「異端者には?」
『『『死の鉄槌を!!』』』
「男とは?」
『『『愛を捨て哀に生きるもの!!、』』』
「よろしい……これより2-F異端諮問会を始める。者共、かかれぇーーー!!」
『『『うおおおおーーーー!』』』
『な、何なんだコイツ等!?』
『お、おい! 早く止めろ!』
『戦死が怖くないのか?』
須川達FFF団が、どこから出したのか分からないが、一瞬で(何故か召喚獣も)黒装束に着替え、各々凶器を持ってBクラスに突撃した。嫉妬の炎に燃える彼らに、怖いモノは存在しなかった。Bクラスはその変貌ぶりと勢いに押されていった。
「よし。これで暫くは持ち堪えるな。じゃ、後は頼んだ」
秀隆はそう言うと明久を追って駆け出した。
「……面白いことしてくれるじゃないか、根本君」
「ほう、お前の口からそんな皮肉が聞けるとはな」
「秀隆!?」
明久は秀隆が自分を追ってきたのに気づいて驚いた。
「……僕を切るの?」
『独りよがりな行動は尤も愚かな行動』昨日の秀隆の言葉が、明久の脳内を過った。
「何言ってんだ? お前は今から雄二の指示を聞きにいくんだろう?」
「え?」
明久はてっきり切り捨てられると思っていたので、秀隆の言葉が一瞬理解できなかった。
「姫路の様子がおかしい今、作戦を変更せざるを得ない。副司令官の俺が判断してもいいが、やはり代表の考えが知りたい。だから雄二に指示を聞きに行こうとしてたんだろう? なら、切り捨てる要素がどこにある?」
「けど、僕は一人で勝手に……」
「一人で勝手に聞きに行こうとした? おいおい。お前、俺が昨日言った事をもう忘れたのか?」
「だから僕は……」
「俺が言ったのは『命令無視の単独行動』だぞ? 指示を仰ぎに行ったお前を咎める理由がどこにある?」
「秀隆……」
ここに来て、明久も秀隆の言わんとしていることが理解できた。秀隆が言っていたのはあくまで『命令無視』であって、誰かに相談した場合は『無視』とは言い切れないので咎めないということだ。
「まあ姫路を下げたのは頂けないがな。それの制裁は後でやるからとっとと行ってこい」
「う……そこはやるんだね」
「当たり前だバカタレ」
秀隆は「上手くやれよ」と言い残すと戦線に戻っていった。
「……よし!」
明久も気合を入れ直し、教室に向かった。
「秀吉。状況は?」
「おお。戻ったか、秀隆。状況は相変わらずじゃ」
「そうか。恐らく後少ししたら雄二が来る。それまで、俺が抑える」
「なっ! 秀隆! それはお主とはいえ、いくらなんでも無理じゃ!」
「んな事は百も承知よ。けどな……根本には絶望ってのを味合わせてやらないと気が済まねえんだ」
秀隆は秀吉の制止も聞かず、一人Bクラスに挑みに行った。
「お前ら、もういいぞ。後は俺がやる。左側の皆も下がってくれ」
『お、おい。いくらお前でもそりゃ無謀過ぎるぞ!』
「頼む」
『……分かったよ。けど、負けんなよ!』
秀隆はクラスメイトの制止も聞かなかった。秀隆に頭を下げられて、左右の出入り口を担当していた生徒は心配しながらも秀隆に道を譲った。
「Fクラス神崎秀隆! 出入り口付近にいるBクラス全員に現国勝負を挑む!
秀隆は右側出入り口からBクラスに入るとBクラス相手に単身現国勝負を挑んだ。
『Fクラス風情が一人で何ができる、』
『ナメんじゃねえぞ!』
『返り討ちにしてあげる!』
『『『
秀隆の挑発ともいえる行為に乗り、Bクラス約20人の生徒も召喚した。
Fクラス 神崎秀隆 現代国語 378点
VS
Bクラス生徒20人 現代国語 平均219点
『な! 何だその点数は!?』
『本当にFクラスなの!?』
秀隆の点数を見て、Bクラスの生徒達は色めきだった。昨日の戦いで秀隆の情報はある程度入手していたとはいえ詳しい成績までは不明だったので理系科目、特に化学が得意とまでしか分かっていなかった。
「さて、お前らには恨みは……まあないことはないか。教室を滅茶苦茶にされたし」
『あ、あれは代表の命令で……』
「んなもん関係ねえよ。取り敢えず、テメエ等全員鏖!
秀隆は召喚獣を敵の真っ只中に走らせた。
『この人数差で何ができっ--!?』
――ザンッ――
秀隆の召喚獣に攻撃しようとしたBクラス生徒の召喚獣は一瞬の内に細切れにされた。誰もその瞬間を捉えることはできなかった。
『は、速い!』
『こんなのどうやって戦うのよ!?』
「何やってんだ! 数じゃこっちが上なんだ! 囲ん畳んじまえ!」
動揺するBクラス生徒達を根本が怒鳴りつけた。根元のいう通り、点数差があろうと人数は圧倒的有利。数で押せばどうとでもなる。それに気がついたBクラスも冷静さを取り戻していった。
「ようBクラスの皆さん。調子はどうだ?」
と、そこに近衛兵を連れた雄二がやってきた。
「ああ? お前らがそんな所に群がるから暑苦しくて堪んねえよ」
「そうか。そりゃあ申し訳ないな。ならギブアップしてくれるか?」
「は! バカ言ってんじゃねえよ。いや、もう既にバカだったな」
明らかに侮蔑した表情で言う根本。だが雄二は根本も侮辱を涼しい顔で聞き流した。
「それに、体調が悪いのはそっちの方じゃないのか? 頼みの綱の姫路も調子が悪いようだし。何より、この戦力差で一人突っ込んでくるバカもいるしな」
「姫路はお前らには役不足だからな。今日は休ませておくさ。それに、本来は秀隆もお前らの相手には勿体ないくらいだが、本人の希望で今日は特別さ」
「けっ! 口だけは達者だなあ、負け組代表さんよう! しかも勿体ないと言っていたソイツももう限界みたいじゃねえか!」
雄二と根本が舌戦を繰り広げている中、一対多で戦っていた秀隆も徐々に押されだした。
「負け犬? それがFクラスのことなら、もう直ぐお前は負け組代表になるな」
「はっ! 言ってろ! --にしても暑いな。エアコン効いてんのか? おい、窓を開けろ! 全部だ! 」
下敷きの団扇だけでは対処できなくなり、根本は校庭側の窓を全て開けさせた。
「……態勢を整える! 秀隆以外は一旦下がれ!」
雄二は時計を見て時間を確認すると秀隆に加勢しようと待機していた生徒達に退避命令をだした。
「何だよ! 散々ふかしといて逃げるのか? おい! とっととソイツをぶっ殺して全員で坂本を討ち取れ!」
『『『おう!』』』
秀隆のフォロー役が全員引いたのを好機と見た根本は一気に攻勢に転じた。根本の指示により、秀隆に対峙していた残りのBクラス生徒も一斉に躍りかかった。
「あとは任せたぞ! 秀隆! 明久!」
雄二が顔だけ振り向き、2人の名前を叫んだ瞬間――
「だぁあーーーーっしゃあーーーー!!」
「はぁあああっ!」
突然、BクラスとDクラスの境界の壁に大穴が開き、穴の向こう側から明久と召喚獣が飛び出した。そして、秀隆の雄叫びと共に、秀隆の召喚獣が青白いオーラに包まれた。同時に急激に点数を失いながら。
『壁に穴が!?』
『バカな!? コンクリートだぞ!?』
『な、何だ!?』
『召喚獣が!?』
一度に二度も起きた不測の事態に、Bクラスは完全に浮足立った。
「悪いが時間が惜しい。一瞬で決める!」
秀隆が召喚獣に指示を出した瞬間、召喚獣が消えた。
「全弾くれてやる!」
秀隆の召喚獣は瞬きの暇すら与えず、瞬時に移動しては銃を放つ、斬りつけるを繰り返す。
「ありったけ持ってけ! アンスタン! ヴァルス!」
最後に残りのBクラス生徒に向け銃を乱射。撃ち抜かれた召喚獣が次々と霧散していく。
Fクラス 神崎秀隆 現代国語 2点
VS
Bクラス生徒20人 現代国語 0点
『はあ!?』
『い、一瞬……だと……』
『そんな……』
時間にして1分もたってないだろう。まさに一瞬のうちに、たった1人でBクラスを壊滅させてみせた。眼の前で起きた信じられない光景に、Bクラスの生徒達は茫然と立ち尽くした。
「ぐう……」
対して、勝負に勝った秀隆は急激な眩暈を感じ、片膝をついた。あの状態は本人へのフィードバックかかなりきついようだ。
「残念だったな! お前達の奇襲は失敗だ!」
歪む視界の中、秀隆が聞いたのは根本の勝ち誇ったような声だった。根本の声から察すると、奇襲部隊の攻撃は近衛兵によって阻まれてしまったようだ。
「……」
だが秀隆の顔に浮かんだのは、絶望ではなく歓喜だった。視線の先は、明久でなく別に向いていた。
――ダンッ、ダンッ――
次の瞬間、開け放たれたBクラスの窓から、ハーネスを付けた康太と体育教師の大島先生がBクラス教室に降り立った。
ここで少し教科の特性について説明しよう。教師と一口に言っても、教師も人間であるため性格によって採点等に特徴がある。例えば数学の木内先生は採点が早い。世界史の田中先生は点数の付け方が甘い。英語の遠藤先生は少々のことなら寛容に見逃してくれる。
では体育教師はどうだろうか。特に採点が早いとか点数の付け方が甘いわけでもなく、召喚フィールドが広いわけでも御しやすい先生というわけでもない。
体育教師の特徴。それは担当教科が体育であるが故の、並外れた身体能力と行動力である。
「……Fクラス、土屋康太」
「き、貴様は……」
「……Bクラス代表根本恭二に保健体育勝負を申し込む」
「
「
Fクラス 土屋康太 保険体育 441点
VS
Bクラス 根本恭二 保健体育 203点
この瞬間、Fクラスの勝利が決定した。
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