バカと凶刃と召喚獣
@akatsuji
プロローグ
プロローグ
「ひ、ひぃ!」
「た、助っぎゃあああっ!」
黄昏の光が影を作る路地裏に、人影が踊っていた。いや、踊らされていたと言う方が正しいだろう。一人の少年が拳を、脚を振るう度、それに合わせて踊るかの様に人が宙を舞っていく。
「……もう終わりか?」
少年が先程まで共に踊っていたパートナー達に聞いた、がそれに答える声は上がらなかった。少年と踊っていた者は皆、白目をむいて気絶していた。
「ふん」
少年は鼻を鳴らすと頬を拭った。拭った手の甲は、真紅に染まっていた。
「あ……あ……」
か細い、絞り出すような声。その声の方へ、少年は振り向いた。視線の先には一人の少女が肩を抱いて座り込んでいた。体の彼方此方に見えるかすり傷、破れる程に乱れた衣服、恐怖の染み着いた怯えた表情、少女が何をされそうになっていたのかは一目瞭然だった。
「大丈夫か?」
少年は少女に手を差し伸べた。
「い、イヤッ!」
だが反射的に、少女は少年の手を弾いた。
「……あ」
弾いた瞬間、少女は自分が何をしたかに気づいた。助けてくれたのに。それは分かるのに。少女の頭は恐怖で混乱していた。
「……」
少年は弾かれた掌をジッと見つめると、その手をズボンのポケットに乱暴に入れ、何も言わずに立ち去って行った。
――数年後――
4月。新学期を迎え、新たな希望に満ちた季節。満開の桜の木々が競い合うように咲き誇るなだらかな坂道を一人の少年が歩いていた。
「……にしても長い坂だな。面倒くせぇ」
少年は欠伸を殺しながらぼやいた。彼が通う『文月学園』―科学とオカルトによって偶然発見された『試験召喚システム』を取り入れた新設の学校。システムの話題性から国内外に多くのスポンサーを持ちそれゆえに学費の安くまた「特殊な試験方法」の採用によって余計に世間に注目を浴びているーーは小高い山の頂上にある。
ゆえに学校へ続く坂道は、徒歩での登校ならそれほど苦にもならないが、自転車では乗ったままでの登校は少し辛い、中途半端な九十九折りになっている。
彼が身体を気だるそうに引きずって校門まで行くと、筋肉隆々の浅黒い肌をしたスーツ姿の男性が立っていた。
「神崎、遅いぞ!」
「あっ、おはよっす。西村センセ」
「うむ。おはよう」
少年『神崎秀隆』が挨拶を交わしたのは生活指導の『西村宗一』。その容貌と趣味がトライアスロンということから生徒たちの間では陰で『鉄人』と呼ばれている。彼も仲間内ではそう呼んではいるが、さすがに本人の前では何かと面倒だから一応本名で呼んでいる。
「挨拶もいいがまず言うことがあるだろう?」
「始業の鐘が鳴るまでまだ時間があるので遅刻にはならないと思いますが?」
「屁理屈を言うな。何事も早めの行動が肝心だろう。まぁいい。ほら受け取れ」
「へーい」
秀隆の台詞を軽く諌めると西村教諭が茶封筒を差し出した。秀隆はそれを受け取るとズボンのポケットに無造作に突っ込んだ。
「気持ちは分かるが一応ここで開けて確認してくれ」
「へいへい」
「それとな、神崎。お前のやった事は確かに許されるものではなかった。だが、俺はお前のしたことは人間として立派なことだと思うぞ」
「……そりゃどうも」
秀隆は西村教諭のどこか励ます様な言葉に素っ気なく返事を返すと封筒を破いり、その中に入っていた紙を見ると……。
「神崎秀隆 Fクラス」
そこにはそう書かれていた。
「お前の幼馴染みの弟の方が同じだ。」
「そっすか。まあアイツらも同じだろうから。退屈はしなさそうっすね」
「私は今から胃が痛いがな。 まあいい、急げ」
「へーい」
秀隆は西村教諭の言葉に少しだけ歩みを速めて校舎に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます