第10話:ほら、とってこい。

少しでもコンディションを整えるように、数センチほどのジャンプを数回、精神統一のための筒回しを5秒ほど。


目を瞑り瞑想を10秒。幻想少女として戦っていた現役時代から欠かさない戦闘前のルーティーンである。


「うし、いける」


ファントムソードの石突に近い方をこづくと、その部分から接続線が展開される。

躊躇いなくそれを利き腕である左手の付け根、人間で言うところの静脈部分にブッ刺し、エネルギーを接続させる。めちゃくちゃ痛え……


「OYS、モード『あお』」


軽く5メートルほど飛び上がり、文字通り足でくうを蹴る。

物理に反した軌道で、地面と水平に跳ねて敵陣の中央部を目指す。


「スゥ———ふぅ—————……」


プッと煙草の吸い殻を吐き捨て、殲滅するための構えをとる。この間約……コンマ五秒。


「出力最大、『兎月流とげつりゅう拾伍日じゅうごび巴月トモエヅキ』」


重力など感じていないかのように姿勢の上下を反転させ、バク宙に近い体制で限界まで刀身を伸ばしたファントムソードを満月のように振り抜く。

ジジッと、未だ落ち続けていた煙草ごと斬り焦がし、半径10メートル内にいたとてもとても幸運ふうん機械人形オートマトン共を惨殺した。


「……60は殺れたか」


異変に気がついた残党が一斉にかかってくる。

近づいてくるまでに何体かのコアを正確に撃ち抜き、激突するかというタイミングで再び上空へと逃れる。


地上を見ると、対象を見失った機械人形の数体が正面から他の仲間に激突。ビリヤードのように玉突き事故が勃発し、決して小さいとは言い難い被害を出していた。


しかし、それだけで終わる帝国軍ではない。身動きがとりづらい宙に浮かぶ俺に対し、光学光線で対空する。


「モード『くろ』、『黒穴くろあなイン』」


そう呟いた途端、俺が背負っている背景にが出現し、ビー玉ほどの球体になるまで集合。俺に向けられた必中の光線を吸収し相殺、そのまま霧散した。


「あぁ? わかってるって、今返してやるよ。『黒穴くろあなセキ』」


先ほど吸収したエネルギーをフルに使い、全て合わせたものと同出力のレーザーを密集地帯に解放する。


薙ぎ払うように移動する光の塔は5秒ほどかけて数十体を蒸発させた。


「にはは」


再び空を蹴り、跳躍力と重力の足し算から成すスピードで地上に降り立ち、『黒穴』で勢いを殺さずに低空飛行の姿勢まで自分の体を

で直線上にいた奴らを切り刻み、破壊していく。


それに立ち塞がるのは、強固な体が特徴のサイ


「『兎月流・参弐拾漆日さんにじゅうしちび対極幻月ついきょくげんげつ』」


三日月のような形をえがき、対となる下弦の月を、水面みなもを通しているように正確に写しとり攻撃する。


一撃目で頑丈な装甲を一点集中させることで貫き、二撃目で、修復される数秒の間に、下からの刺突で空洞をなぞるようにコアをえぐった。


「おらよ、お仲間からの愛のこもったハグだ! 躱すなんてことはしねぇよな!!」


今にも倒れ伏す寸前のサイの体に鞭を打ち、最大までエネルギーを注ぎ込んだ蹴りをお見舞いする。

先程までサイに守られる形になっていた機械人形は一転、盾に押しつぶされ中にあるオイルを撒き散らした———瞬間、大勢を巻き込む大爆発を起こした。


「あ゛〜悪い悪い、つい我慢できなくなっちまってな?」


引火させた張本人は、歪んだ形の煙草片手にプラスチックライターを放り投げ、いじらしい笑みを浮かべていた。


「残り27体、いけるか?」


イレギュラーに備え、思考回路を二枚に増やした。電子結晶もギリギリ2つ増設できたが、流石に制御が厳しい。


「くそ、冷却コートが間に合わなかったのが痛いなぁ」


一応試作品を持ってきたが、効力は10秒ほどしか続かないため、最後の大技に取っておきたい。


無作為に突撃してくるものたちをいなし斬りながら、相手の出方を見る……


『なんだよ! せっかくここまで隠し通して来たのにさぁ、今までの頑張りが全て水の泡だ!!』


と、明らかに他とは毛色が違う機械人形が残党を押しのけながらやってきた。


「……へぇ、君がここのお山のボスってわけ?」

『いずれそうなるがな、今はバーナテヴィルの野郎の言いなりだ。いつかぶっ殺してやる……………が、その前にお前だ』


バーナテヴィルのような具現人形者アバターか、こいつは少々骨が折れそうだなぁ。


『どんな卑怯な手を使ったのかは知らねぇが、お前に負けるほど弱くはねぇよ』

「正真正銘自分の力で制圧したんだよ。それが分からない頭なら、回れ右して骨っこでも拾ってきな」


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時計弄りの白クロノ・ホワイト』の能力について


遭遇した隊員の証言から、時間操作系の能力だと思われていたが、今回発見されたクロノ・ホワイトのものだと思われる戦闘痕から、もっと特異なものではないかとの説が上がっている。


兎月流


最初期のLicaシリーズにのみ搭載された流派であり、その姿は戦場を飛ぶ兎のよう。撹乱用の自由な戦法が特徴であり、極めたものだと対空している時間の方が多いらしい。

最初期にしか実装されていない理由としては、幻想少女が開発された年から15年ほどで遠距離の時代になり、搭載用のコストを射撃にさいたほうが強力だからである。


具現人形者


情報が少なく、カズト隊員が初めて遭遇した。どうやらAIではなく人間が遠隔操縦しているらしく、出力は機械人形オートマトンの30倍と言われている。

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