第7話:コロッケ食べるかい?

「ここが……中央都市ガイアピットか」


人が雑多となって徘徊するメインストリート。その中央にポツンと佇む、くるぶしまで隠れるくたびれたローブを羽織った浮浪人が一人。


それが俺のことなんだけどな。

傍から見たらものすごい不審者なんだが、誰も注意を向ける以前に、認識されておらずいないものとされている。

この国を包みこんでいる暗雲の一角、それがこの光景の正体として、もやとなって広がって満ちているような……


「まぁ、今の俺にゃ関係ないか」


にはは、と笑い流しながら、目的の路地裏を探すために、人が波となって入り交ざる濁流を遡る。


「メインストリート6番街脇の商店街、オルターが常連のコロッケ屋さんのとなりの路地をまっすぐ……」


例によって正確な地図などは何一つ無いが、前世の記憶と言う名の蜘蛛の糸を、ちぎれぬように繊細に手繰り寄せる。


「……………くそ、ここまでか?」


2,3回曲がったところで、流石に手がかりが無くなってしまい路頭に迷う。こうなったらぼっち人海戦術しかないか?


―――にゃーん


「……猫?」


イベントにもあったな。主人公たちは猫を追いかけて路地の更に深くへと誘われる……


「……」


反射的に、その声の主が進んだであろう方向に歩を進める。


何度も曲がってはそのたびに見失うが、自分の身体のスペックをフルに使って追跡する。


奥へ、奥へと導かれ、この場を満たす湿度が幾分上がったと思った頃。


「なーん」


無造作に配置された段ボール。その中に、怯えている様子の子猫が三匹と、俺をこの場に導いてくれた声の主が一匹。


「俺はね、正当な労働にはしっかり対価を払う主義なんだ」


手に下げたカバンからコロッケを取り出すと、丁寧に油衣を取り外し、猫舌でも大丈夫な温度に息を吹きかけて冷ます。


「ほれ、おあがり」


母猫が恐る恐るパクリ。大丈夫と判断したのか、そのまま子猫に与えるところを確認した後、この路地にいるもう一人に声を掛ける。

ホームレスにしか見えない格好で壁にもたれている姿は、なんとも言えない哀愁を関しるが、そんなことは気にせずに話しかける。


「やあ」

「……」

「コロッケ、食べるかい?」

「……(首を横にふる)」

「……そういえば、

「……そいつは良かった、?」


いくつか会話を交わした後、男が、自分がもたれていた壁を手元にある杖で決められたリズムで叩く。


「ありがとう、コロッケ食べるかい?」

「いただこうか」


壁から生まれた通路を通って、闇市場ブラックマーケットへと向かう。ここで暇を潰したのち、いよいよ主人公くんに会いに行こうかね。






◇◇◇◇◇






Reader-主人公


「お疲れ様です、指揮官」

「お疲れ様。怪我はもう大丈夫なのか?」

「何度同じことを聞くのですか、3日前にとっくに完治いたしました」

「そうよ、何しみったれた顔してんの、幻想少女なんてただの捨て駒、いいところ兵器でしょ」

「イエルロ!」

「だってそうじゃない! 体をスペアに変える? 部品パーツを変えたらすぐに治る? 軽症はたちまち傷が塞がる? こんなの人間じゃない、化け物よ!」

「イエルロちゃん、ちょっとお痛たが過ぎますよ」


普段温厚なブルースの怒気にたしなめられ、納得いかないという表情のまま、すごすごと口を尖らせる。


「……指揮官、お休みになられてはどうでしょうか」

「……あぁ、そうするよ」


そのまま指揮官室の扉を開ける。

気まずそうな静寂を背にして……


「……今日も書いてから眠るか」


最近、再び日記を書き始めた。電子化が主流となった今では、製造している元が貴重となった紙製の日記帳。


カリカリ……と万年筆のペン先を動かす音だけが聞こえる。


「……窓なんて開けてたか?」


この部屋に風の流れを感じ、窓に視線を向ける。

案の定、開け放たれたガラス戸を締め切り、鍵を上げる。






―――中に侵入者を招いているとは知らずに。


「こんな夜分遅くに窓を開けたままとは、いささか不用心じゃないかい?」

「!!??」


声に驚き、とっさに振り返ると、


「クロノ……ホワイト……」

「やあ、いい天気だね」

「……この地下の世界に、天候があると思うか?」

「俺は地上のことをいいたかったんだ。満点をあげたくなるくらいの土砂降りだったよ」


にはは、と掴みどころのない笑い方を上げるクロノ。


冷や汗を流しながら、どうこの場を切り抜けるべきか思考を加速させるのだった。


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幻想少女のなり方について


1つ目

①半年に一度、有志を集めるアンケートが配布される。


②適合者と準適合者に分ける。


③適合者はオリジナルとして、準適合者は量産型としてそれぞれの企業に配られる。


2つ目

孤児院などの身寄りのない子供や、医療機関から脳死と判断された子供をそれぞれの企業が買い、育成したのち1つ目の②にかけられる。


3つ目

身体的に障害があり、親か自身が希望して幻想少女になる。この場合、非戦闘用に制作されることが多いため、適合者が多くなる。一定の権力者が希望することが多い。

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