第12話 理由
小さな頭を固い天板に擦り付けた妖精は、「お願いします!」と何度も頭を上下させた。参ったなと頭を掻いたランドは、物珍しい妖精の土下座に困惑しながら溜め息をつく。
「どれだけ切羽詰まってるかは知らねぇけど、俺もコレを譲るわけにはいかんのよ」
「そこをなんとか。ほんの切れ端で構わないの!」
「ったくよぉ。アンタもコイツの価値を知らないわけじゃないだろ」
「そ、それは……」
しかし土下座以外に方法がないリリーは額を店のカウンターに打ち付けたまま「お願いします」と頭を下げ続けた。ランドが営む道具屋の隅で様子を眺めていたカワズは、そのあまりの無様さに呆れながら、「はぁ~あ」と小馬鹿にした。
「細切れの、ほんの少しでいいんです。アタシにわけてください、お願いします!」
このままでは永遠に頭を下げたまま帰りそうもないなと、ランドは諦め半分に息を吐く。アダマンタイト製の大バサミを握り、毛束を切り揃え、天板に落ちた毛先の部分を集め、小袋に詰め直した。
「ほんの僅かだが、コイツをわけてやる。しかし忘れるな、こいつは " ツケ " だ。必ずなんらかの形で返してもらう」
百点のビックリ顔をガバッと上げたリリーは、ランドの人指し指を握り「ありがとござます」と、嬉し涙を流しながら、ブンブン振って握手した。
売り物の椅子に腰掛けて、「ケッ」と背伸びしたカワズは、面白くなさそうに嫌味な表情を浮かべ眺めていた。
「この恩は必ず。一生かけてでも、必ず返すわ!」
「あ、ああ。期待せずに待ってるよ」
ランド爪先に鼻水をおっつけながら、リリーは輝きを放つ小袋の中身を覗き込んだ。長さが揃わない穂先の集まりではあるものの、シルクのような柔らかさと、金属の柔軟さを併せ持つような特徴は変わらぬままで、小さな手のひらで押してみると、独特のクッション性を感じさせた。文字通りの、言葉にならないような嗜好の逸品だった。
「アタシの可愛い可愛い尻尾ちゃ~ん♪ 本当にありがとう、これでようやく国へ戻れます!」
「……戻れる、ねぇ。しかしそこまで喜ばれちまうと、逆にちと気になっちまう。俺が言うのもなんだが、旅商人でもないアンタら
「そ、それは……」
喜び一転、途端に口をつぐんだリリーは、視線を外して誤魔化した。
その様子にドンと地面を踏みしめたカワズは、指先に遊ばせていた金貨一枚をピンと弾きながら言った。
「騙されんなジジイ。どーせそいつを売っぱらってトンズラしようって腹だぜ」
「そんなことしないわ、アンタと一緒にしないで」
「口ではいくらでも言えるぜ、コバエさんよぉ。ブンブンブーンってな」
「い、言わせておけば~!」
また揉め始めた二人に呆れつつ、カウンターに肘をついたランドは、「とはいえ」と付けたし珍しくシリアスな表情を浮かべて言った。
「そのバカの言うことも一理ある。これをくれてやる以上、アンタは俺の質問に答える義務がある。違うかい?」
沈んだ顔でしばらく黙っていたリリーは、意を決したように顔を上げた。タイミング悪く喋ろうとしたカワズの頭を押さえたランドは、彼女に頷きかけ、「聞かせてくれ」と促した。
「……救いたい人が、……いるんです」
「ほう。……しかし解せないね、こんなもので誰かの命が助かるなんざ想像もつかんよ。なにより、こいつには装飾目的以外の使い道が
服の裾をグッと掴んだリリーは、何度も口の中で言葉を噛み殺しながら、どうにか言葉を紡ぎ出した。
きん、じゅ ――
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