第11話 究極の逸品


「大切に……?」と、転がって砂にまみれた顔を払いながらリリーが聞いた。


「バカみたいに騒ぎ散らかした挙げ句、モンスターの臭気をこれでもかと広げられちまったせいで、少なくともこの先一週間、いや、二週間は姿を見せちゃくれない。もはや俺にとって、あそこへ行く意味なんて一つもないんだよ!」


「姿を……? なんのこと?」

「ヌシに決まってるだろ、ヌシだよ!」

「え、ぬ、主?」


 わなわな震える拳をギュッと握ったカワズは、ゴブリンが暴れて荒らされてしまったあの場所には、もはや行く意味が一つもないと言い捨てた。


「ちょっとアナタ、さっきはアイテムがどうの言ってなかった。それに主って、ダンジョンの主はあんなとこにいない――」


「これだからパンピーは嫌いだ。俺にとって、ダンジョンの主などタダの雑魚。俺にとって本物のヌシは、…………に決まってるだろーが!」


 ビシッと指をさし、雷が落ちるほどの声量で宣言し、そのまま彼女の鼻先へ指を突き付けた。「は?」と当然の疑問を口にしたリリーは、目の前の奇人の言葉を噛み砕くことができずに困惑していた。


 この男は何を言っているの?

 ダンジョンの主ではなく、水場の主とは何?

 最も重要なものとはいかに?

 一つも理解できぬまま、ポカンと開きっぱなしな口を何度もパカパカする。


「よって、キサマに手を貸す理由は一つもなし。なによりも俺は、このを売り払った金で、ただちにこの手元にある道具を改造し、"新型のショックウェーブ " を生み出さねばならないのだからな!」


 リュックの中から大袈裟に取り出した雷の魔石が填められた怪しげな魔道具を高々と掲げ、早口で道具の凄さを説明し始めた。男の異常性に気付いたリリーだったが、それより先に、彼の足元に転がっているアイテムに目を奪われた。

 そのアイテムは、彼女がダンジョンの深層を駆けずり回り、死に物狂いでようやく 手にいれることができた、あのアイテムの " 束 " だったのだから――


「アナタ……、それ!?」


「近寄るな、キサマには触らせてやらん。この滑らかすぎる光沢、流線型の美しすぎるボディー、流れるような魔力移動を可能とする精巧すぎる内部構造。どこをどうとっても、そこいらの魔道具では足元にも及ばない。……しかしなぁ、最近は使いすぎて少しばかり威力が落ちてきて、ブツブツブツブツ――」


 釣り上げた魚を気絶させるための魔道具解説を饒舌じょうぜつに続けているカワズのリュックに飛び付いたリリーは、雑に縛られた毛束に触れた。それはまさしく、長らく彼女が探し求めていた『グレーテストテイルキングの尾』で、ただの一本ですら貴重すぎる、究極の逸品そのものだった。


「テイルキングの尾が、この純度でこの量……。たった一本手にいれるために、アタシがどれだけ苦労したと」


 束から飛び出た一本に指を伸ばすリリーの手をパチンと弾く。

 カワズは魔道具解説を無視された不服さと、人のアイテムに手をつけようとした不届き者を見つめる蔑んだ目で、「汚い手で触るなバカちんめ!」と凄んだ。


「キサマは知らんだろうが、この毛は金貨一枚の価値があるんだぞ、一本たりともキサマにはやらーん」


「金貨一枚って、この量ならどれだけ安く見積もっても20枚はくだらな――」


「黙らっしゃい、これ以上の会話は無駄。はい、サヨナラ!」

「ちょ、ちょっと待って、話を、話を聞いて!」


 ささっと荷物を片したカワズが街道を駆けていく。

 輝きを失い、どこかしおれかけていた羽根についていた小石を慌てて払ったリリーは、鼻息粗くフンと息を吐き、死物狂いで彼の後を追いかけるのだった――



 待って

 待ってよ

 待ってったら~~~!!



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――――――

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