第9話 アイテムボックス


「でも変よね。アンタ、あんなとこで何してたの? あそこって、いわゆるアレよね。深層の端の端、" " なんて呼ばれるハズレポイントよね?」


「…………」


「だけどおかしいわね。アーシュラの最深層といえば、既に全部がマップ化されていたはず……。最深層まで単独で潜れる冒険者なら、まず間違いなく地図を持ってるはずだけど」


「…………」


「はは~ん。さてはアンタ、マップ代をけちったクチね。さっきも金金言ってたもんね。でもダメよ、冒険者は絶対に情報を甘く見ちゃダメ。ほんの少しの慢心と油断で命を落とすことだってあるんだから!」


「…………」


「それでやられた冒険者を、アタシは何人も見てきたんだから。奴ら最後に必ずこう言うのよ。"あのときお金を払っておけば~"ってね!」


「……食われてたやつが言うセリフか」


「そうなのよね~。あのとき魔力無効化ポーションをもうちょっと買っておかなかったから~、……ってうるさいわね! あれはちょっとした油断なの、そう、ちょっとした油断だったのよ!」


「悪いこと言わんから病院で頭を診てもらえ。ついてくるな、消え失せろ」


「そんなこと言わないで~。もう地上へ戻るために使う予定だった退魔ポーションが無いの~、一緒に連れてって~」


 そんな無駄やりとりを繰り返し、二人はアーシュラダンジョンを出た。しかしダンジョンの入り口でついにイライラの上限に達したカワズは、外へ出た瞬間、両手の中指をし、宣言するのであった。


「金輪際、ついて回るなウジ虫め。次に俺の視界に入ってみろ、消し炭にすんぞ!」


「まぁまぁ、そう言わないの。お互い無事に出られたんだし、オールオッケー♪」


「キサマと一緒にするな。そもそも俺はお前と違ってモンスターに食われるなんてドジはしない!」


「あ、アタシだってたまにはミスくらいするわよ。それに食べられはしたけど、ちゃーんと魔力結界を張ってチャンスを待ってたんだからね!」


「ふーん、で、どうやって腹の中から脱出するつもりだったんだ?」


「それは、あれよ……、モンスターが、その、……アレするときに……」


「アレってなんだよ」


「その…………、ウン……チ……」


「なるほど、う○こと一緒に出るつもりだったと。コバエらしい脱出方法だこと、ハッハー!」


「ぐぬぬぬ、いちいち一言多いのよアンタ。女の子に向かってそんなこと言うなんて、信じらんない!」


「知ったことか。さて、もうバカと話すのは飽き飽きだ。さっさと帰って次の準備しないとな。じゃーな!」


「こっちもアンタの顔なんて金輪際見たくないわよ。それに、アタシにはやらなきゃいけないことがあるの。ようやく手にいれたを、すぐにでも仲間のところへ届けなきゃならないんだから。アンタの相手してる時間なんてないのよ!」


「へぇへぇ。で、やっと手にいれたアイテムってのはなんなのかなぁ?」


 意地悪くカワズが尋ねた。

 リリーはフフンと不敵な笑みを浮かべながら、胸にドンと手を当て言い放つ。


「聞いて驚きなさい。このあたくしリリー様は、アーシュラの最深部で捜索に捜索を重ね、よ~やくコレを手にいれたのよ!」


 腰に装着していたはずの道具入れを手探りしてみるが、どうにも手応えのない指先に首を捻った。

 そして最後に恐る恐る腰元を覗き込み、急激に青褪めるのであった――



「な、な、な、ない……」

「ふ~ん、なにがないんだ?」

「あ、アタシのアイテムボックスが……」




   なーーーーーーい!!!!


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