契り

@sasamaisami

第1話

彼女が小指を落とした。

小指を落とす、というとヤクザな世界を1番に連想しそうだが、そういうことではない。

付き合い始めて、1週間。彼女は意味深な感じで言い出した。

「あのさ、食べて欲しいんだけど」

てっきり、付き合ったらすることの比喩か何かかと思ってどぎまぎとした。

戸惑う僕をみて、「もう覚悟してるの」と言い、鞘のついたナイフを取り出し、いきなり小指に突き立てた。

頭が真っ白になった。訳がわからない。血がダラダラと滴り、昼間に真っ赤な血は眩しくて、鉄の匂いがした。

ほら、食べてよ、と落とされた指を渡してきて思わず拒絶した。

なんで食べてくれないの、一緒にいてくれるんじゃないの私を食べたら体の一部になってずっと一緒にいられるんだよ。

口に指を押し付けられ、血が流れ込んだ。

いつのまにか来ていた警察と救急が、僕らを別々の車に押し込んで、僕は警察、彼女は病院に行った。


口に流れ込んだ血が、ずっと僕の中にいて、いつまでも鉄の味がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る