レンタル彼女とデートしたら周りの女子がみんなヤンデレだった話
牛頭三九
ヤンデレだらけのクリスマス前編
12月23日
私は不敬な奴だ。
上皇陛下のお誕生日であるのに色欲にまみれた嘘をついてしまった。時代が時代なら深編傘を被らされて不敬罪で法廷にでていることだろう。
今日大学でのこと、デン坊と知恵伊豆の奴らにクリスマスは今年も一人かとバカにされ私はむきになり、
「はぁ!?クリスマスは彼女とデートだしぃ夜は楽しいことしまくるしぃ......じゃあ彼女に会わせてみろだと?ああいいとも!もし連れてこなかったら渋谷のセンター街を裸で歩いてやるよ!」
と啖呵を切ったのはいいのだが、俺こと大家光輝(おおやみつき)には生涯で一度も彼女ができたことはなく、クリスマスも一部上場企業の研究員である姉と春から俺と同じ東京大学に通う妹と三人で毎年ケンタッキーとケーキという企業のキャンペーンにまんまと嵌められたステロタイプなクリスマスを過ごしている。
知恵伊豆は1年生-教養学部時代に同級生(黒髪眼鏡の大して可愛くない)女と付き合い始め、デン坊も数か月前に彼女(合コンで知り合った早稲田のケバ女)を作った。連中は馬小屋でイエスが生まれたであろう12月24日にベタベタとくっつきホテルで猿のように腰を動かすのだろう。イエスも色欲にまみれた現代に怒り復活するのではないだろうか。別に....俺は羨ましくなんか思ってないし。
「はぁ...どうせ姉さんやサヨちゃんも帰ってこないだろうし、デリヘルでも呼んでみるかな.......
待てよ」
光輝は自室のベッドから飛び上がり、スマートフォンのロックを解除した。
そうだ!レンタル彼女という手があったではないか。光輝はレンタル彼女の検索結果から上に出たサイトにアクセスし、カノジョを見繕った。けばけばしいネオン灯のような女もいれば黒髪ロングの清楚そうな女の子など40人ほどの女の子が在籍していた。
「お!この子はよさそうだな。可愛すぎず、とはいえ遊び慣れていなそうな純烈な感じがカノジョと言いつくろえそうな雰囲気だ」
光輝がピックアップしたのは茶髪で73点くらいの顔の女だった。大学生とあり好条件だった。光輝は直ぐにサイトに掲示されていた電話番号に電話をして予約をした。知恵伊豆達と待ち合わせをする11時より30分早い時間に渋谷駅で待ち合わせとなった。
「弟君、ご飯が出来たよ」
一階から姉の声がした。光輝は返事をして階段をおり、リビングへと入る。姉と妹は既に食卓に入っていた。
「お兄ちゃんが遅いから先に食べてたよ」
「すまない」
光輝はお椀を持ちあげ味噌汁をすする
「弟君がご飯の時間に遅れるなんて珍しいね。どうして...もしかして私の料理が嫌で...」
「姉さん違うよ。彼女と電話をしていたんだ。」
「「え.....」」
俺は言った途端に口をつぐんだ。この2人に話すと面倒なことになるのは自明の理だったが、もう遅い。
「お兄ちゃんいつの間に彼女なんてできたの!」
「弟君、どうしてそんな重要なことお姉ちゃんに話さなかったの?」
案の定、二人に質問責めにあった。流石にレンタル彼女などと言えるはずもなかった。
「最近、できたんだ。二人に話す機会がなかっただけで黙っていたわけではないよ。」
俺はなんとかその場しのぎの言葉を紡いでいった。焼き魚を頬張りながら
「そういえば、明日デートに行くから今年は一緒にクリスマスは過ごせないよ」
というと二人は顔を見合わせて少しの間黙っていると
「そういえばお姉ちゃんも明日はお仕事お休みだから彼氏とデートなの。心配には及ばないよ」
「うん!私も彼氏とデートだから!うん」
「ああ、そう」
光輝は少し安堵した。二人とも今年はデートということは夜は独りで過ごすことになっていたからだ。まぁ、レンタル彼女は夕方に帰して、夜は居酒屋で酒でも浴びようと思っていたのだが。姉のゆかりや妹のさよりも明日の夜には男を知ることになると考えると寂寥感を覚えた。
「明日が楽しみね......弟君とのデート(ボソッ)」
「うん!私も楽しみ.......彼女は邪魔だけど(ボソッ)」
「えっ。ごめん聞いてなかったや。」
「「ううん。いいんだよ(のよ)」」
光輝は食事を終え、課題のレポートを片付けて早々に床についた。こどもの頃、サンタクロースが来ないかとワクワクしていたのと同じくらい明日の事を楽しみにしており、しばらくの間眠れなかった。
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12月24日 クリスマスイブ
渋谷駅
渋谷のハチ公前には多くのアベックが集まっていた。光輝は茶色の丸首セーターにリーヴァイスのジーンズを履き、ユニクロのダウンを羽織っていた。高校の頃祖母に買ってもらったジーショックを見ると10時21分だった。
「少し早かったかな。」
俺は渋谷駅前のオーロラビジョンや書店、遠くに見えるマルキュウをぼんやりと眺めていた。
「大家光輝さんですよね?」
背後からアニメ声の可愛らしい女の子の声が聞こえ、振り向くと昨日見た73点の顔つきとは違い、100点満点の美少女がそこには立っていた。白色のニットセーターに花柄のスカート、ダッフルコートを羽織っており、黒髪ロングの清楚な雰囲気な少女だった。
そんな100点少女がパッと花が咲いたような笑顔を見せてきた。
「ワンラブから派遣されました。大久保理香です♪リカって呼んでねお兄さん」
「よろしくねリカちゃん。でも、昨日予約した子は違う子だった気が....」
リカちゃんは「あっ..」と手で口を隠して俺に説明してくれた。
「その子がね急に予定が付かなくなっちゃってリカになったの。リカじゃダメ.....かな?」
リカは上目遣いのウルウル目線で光輝を見た。光輝は可愛さに負け「そんなことないよ。リカちゃんでうれしい」と返した。
「えへ~嬉しい。リカ、お兄さんの彼女だね」
「うん。あ、そうだ。もうすぐ俺の友達が来るんだ。その時はレンタル彼女っていうことは黙っててね」
光輝が釘をさすとリカは「レンタルじゃないでしょ?彼女、だよ?」と媚びるように微笑んだ。ビジネスライクだとしても惚れてしまいそうだ。
知恵伊豆を待っている間リカちゃんと話をした。大学は東京の私立大学で3年生だという。つまり俺と同い年だ。東京生まれの東京育ちで趣味は映画観賞だという。じゃあ、デートは映画にすると言うと「お兄さんがリカをデートに連れていきたいとこに連れてって」と拗ねられてしまった。拗ねる姿も頬を膨らませて実に可愛かった。
話をしているうちに改札口から知恵伊豆と彼女たちがやってきた。俺はさも彼女のようにリカちゃんを紹介する。リカちゃんも慣れているだけあって彼女を装っていた。
「ほらどうだ。嘘じゃなかっただろう。これからリカとデートに行くからな。それじゃあ」
知恵伊豆が訝しげにリカを見る。そして僕に「ちょっと待て」と止めた。
「なんだ」
「それ、レンタル彼女だろ。お前にそんな可愛い彼女がつくはずがない」
光輝は一瞬ドキッとしたが、おくびにも出さず反発した。
「嫉妬か?俺がかわいい彼女がいるから。」
「いいや。おかしいんだよ。そんな彼女がいるなら早くから教えていただろう?光輝のことだレンタル彼女を昨日の夜にでも呼んだんだろう。本当のことを言ってみ?今なら許してやるから」
知恵伊豆はニタニタと嫌な笑みを浮かべていた。隣の黒髪の彼女もクスクスと口元を押さえて笑っていた。それに伝導してデン坊の彼女も声を出して笑っていた。嫌な連中だ。
光輝はスッと答えを出すことが出来ず下を見つめていた。すると、リカが急に前を出て知恵伊豆達の前に立った。そして満開の笑顔を見せ、
「彼女さんかわいくないですね」
リカの一言で場が凍りついた。デン坊の彼女が「はぁっ」と無駄に大声をあげ、リカに迫った。
「ちょっと可愛いくらいで調子にのんなよ」
「ちょっとは可愛いんだーありがとー。あなたはちっとも可愛くないけど」
「なんですって」
即発寸前のところでデン坊と俺は二人を止めた。リカは光輝の腕にしがみつき頭を肩にもたれかかった。接触面が大きく、腕には胸のふくらみが当たっていた。
「リカはお兄さんの彼氏ですよ。ほら」
リカは光輝の頬にそっとキスをした。光輝の顔の体温がみるみる上がっていくのが分かった。知恵伊豆やデン坊もハチ公前で白昼堂々キスを見せられたのでは疑いようもなく、「ごめん。失礼なことを言ったよ」と謝ってきた。俺も「いや、いいんだよ分かってくれたら」と顔の熱さを未だ覚えながら答えた。なんとか明日以降の友情は壊れることはなさそうだ。
「それじゃあ、俺はリカとデートに行ってくるよ。楽しいクリスマスを。」
「あ、ああ」
二人は茫然としたまま立ち尽くしていた。俺は内心ざまあみろと思った。これまで散々バカにされてきたので優越感に浸れて気持ちがいい。それにしてもリカちゃんは見た目によらず凄いことを言うと舌を巻いた。リカちゃんは今のことを忘れたようにあはーと腕を組んで歩いている。しかし、これからのデートプランを何も考えていない。どこへ連れていこうか....
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一方その頃
渋谷駅 モヤイ像前
30分以上雑踏の中、女が立っていた。茶髪で顔立ちは73点くらいで、待たされているのかだいぶイライラしている様子だった。
「今日の客全然来ないじゃないの....ドタキャンなら早く帰りたいわ。クリスマスにレンタルってどうせ童貞でしょ」
女は諦めて踵を返した。
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