第32話 シナジーが有りそうで無さそう
彩音が連れてきた人物と一緒にダンジョンに来ていた楓。
『絶対睡眠』は外部からの睡眠妨害を完全に遮断する関係上、何か外で発生したとしてもスキルを使用中の楓とまくらはまったく気が付かず寝ててしまうという仕様がある。
流石に初対面の人物、しかも彩音の反応的に何やら訳ありな人物を思いっきり放って熟睡というのもどうかなと珍しく気を遣った楓。そのため彼女は、前々からやってみようと考えていた、ダンジョンで『絶対睡眠』を使わずに睡眠を実践してみたのだが、その結果は散々であった。
「地面はふかふかで、枕がまくらだったからまだ寝れたけど、普通のダンジョンでまくら無しって考えるとかなりキツいな」
「わんわん!」
「頼むよ」
睡眠特化型ダンジョンである『黒の夢』のふかふか地面とまくらのもふもふ毛並みのコラボレーションによりどうにか眠ることは出来たが、楓の睡眠にしては眠りが浅かったのか本当に昼寝程度しか出来ずに起きてきてしまった。
折角ダンジョンに来たのに、不十分な眠りで帰るのは勿体ないため、楓は再度眠りの準備を始める。
「ふぁ~寝たりないな。『絶対睡眠』でお口直しならぬ眠り直しするか」
「わんわん!」
「やっぱりもう一回寝るんだね楓ちゃん。…それなら私も寝ようかなぁー」
楓がそういう行動をする事は予想していた彩音は、夢香の方を見ながらそう呟く。
彩音が『絶対睡眠』の魔力に堕ちている事を知らない夢香はその言葉を聞き思わず彩音を2度見してしまう。
「あ、彩音? 貴女も寝るの?」
「うーんと、はい。…折角なので夢香さんも一緒にどうですか?」
「えっ! そんなこと」
予想外すぎる言葉が飛んでくる。話に聞く限り『絶対睡眠』であれば
しかし、そう頭では理解していたとしても身体がついていかない。それほどまでに夢香が負った傷は深いのだ。
それは彩音も理解していた。理解すると同時に、楓の存在を知って葛藤の末彩音に連絡してきた夢香の気持ちも理解しているつもりであった。
「夢香さんは今でも探索者なんです。探索者なら自分の
「それは…」
「探索者として羽ばたけるかもしれない力があるのに、あんな人たちのせいで挑戦もしないで終わってもいいんですか」
「…良くない、良くないよ!」
そんな熱いやり取りが隣で繰り広げられているが、その横では、そんなやり取りに目も暮れず黙々と寝る準備を整えている楓がいた。
ようやく準備を終えたタイミングで、彩音の熱い説得が終わったので、楓は、微妙そうな顔を浮かべてしまう。
「あ、夢香さんもかぁ。まぁ、まくらが大きくなれば三人で寝れるかな?」
「わん!」
「……もう少し楓ちゃんは空気を読んでくれてもいいと思うの」
「そうか?」
「ふふふ。ごめんなさないね。お邪魔するわ」
そんなやり取りをしつつ、楓の『絶対睡眠』によって3人と1匹は眠りに堕ちるのであった。
『絶対睡眠』から目を覚ました夢香。
完璧で究極な睡眠を絶対的な安心感を誇るまくらの上でした経験は、完全にトラウマが上書きされた気分であった。
「夢香さん、大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう彩音。これを知っちゃったらダンジョンで寝るのが怖いなんて気持ちにはなれないわ」
「そ、そうですか! そ、それで『予知夢』の方は…」
「あ、ああー。それは大変言いにくいんだけどさ」
期待するような目で夢香を見てくる彩音。『予知夢』というスキルがもたらす恩恵は、1探索者として純粋に気になる様子であった。
そんな目で見てくる彩音に対して何か言い辛そうにしている夢香だったが、意を決して口を開く。
「まったく夢、見なかったわ」
「ふぇ?」
「『予知夢』の予の字も夢として出てこなかった」
「スキルの、ふはつ?」
スキルが不発に終わることは稀にあるが、発動条件が明確な『予知夢』でそれが起こることに驚いてしまう彩音。
そんな会話をまたも横から聞いていた楓は何を当たり前の事を言っているんだ、という表情で彩音たちに話し掛けるのであった。
「『絶対睡眠』は完璧で究極な睡眠ですから、とっても深い睡眠の筈だから、夢なんて見ないんじゃない?」
「た、確かに」
「いや…それは盲点だったの」
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