第4話 安全性の確認
ドロップ品である鋼鉄のインゴットと盾を両手に抱えて買取所まで持っていくと、特に問題なく買い取って貰えた。
探索者専業の人たちからすれば物足りないのかもしれないが、大学生の楓からすると、満足できる値段での買い取りであった。
「これなら寝具買うためにバイトしなくても良いかな?」
厳選された寝具たちを買い揃えるため定期的にバイトをしていた楓であるが、寝ているだけでドロップ品が落ちるダンジョン睡眠であれば、趣味に実益が兼ねられてお得であった。
次の日、大学に行くと、頬をぷくっと膨らませて、いかにも怒ってますという風な彩音の姿があった。
「どうしたの彩音。可愛い顔して?」
「可愛くないよ! 怒ってる顔だよ!」
「そう? じゃあ何で彩音は拗ねてるの?」
「拗ねてないよ! もう!」
完全に子供が拗ねてる姿そのままなのだが、これ以上からかうと話が先に進まないと思い黙る楓。
「昨日、『鋼鉄洞窟』行ったでしょ?」
「行ったよ。ダメ?」
「ダメ…じゃないよ。危ないと思うけど探索者は自己責任だから私が止めさせるのは違うし。でもでも、それなら一緒に行っても良かったんじゃないかなって…」
彩音も探索者として、危険な場所の忠告などはしても、強制的に他人の探索を止めさせるのが無粋であるという価値観で生きている。そのため、楓が自分の忠告を無視して『鋼鉄洞窟』に行った事に怒っているわけではなかった。
どちらかと言えば、ダンジョン探索に誘って貰えなくて拗ねているのである。とは言え、普通の探索ならいざ知らず楓にも事情はある。
「うーん、気持ちは嬉しいよ。でも無理かな。私、探索目的でダンジョン行って無いから」
「採取とか採掘目的の探索者さんとか、それこそ観光目的の人とかいるし別にそれは気にしないよ!」
「私、ダンジョンには寝に行ってるから」
「たとて眠りにい――え? 睡眠?」
「うん、そう」
探索者と言えど、ダンジョンに行く目的は様々である。中には生産スキル持ちのため、ダンジョンに行かずにアイテムばかり作っているモノもいるほどである。
しかし探索者としてそこそこの経験がある彩音でも、ダンジョンに睡眠しに行っている者など聞いたことがない。
長期探索でやむを得ずダンジョン内で寝泊まりする事はあっても、好き好んで危険なダンジョン内で寝ようとする者などいないのが常識である。
「ダンジョン内ならすごく気持ちよく寝れるスキルを授かったんだ」
「でもでも、ダンジョンで寝てるとモンスターに襲われたり」
「そこら辺は大丈夫だから、多分」
「多分!? 多分なの? そこ一番重要な所だよ」
結局、心配性な彩音は一度楓のダンジョン睡眠を見ると言って聴かなくなってしまったため、2人で『鋼鉄洞窟』に行くことになった。
その結果、彩音は死にそうな目をしながら、
「安全性は問題ないんじゃないかな……ちょっとモンスターさんが可哀想だけど」
と弟の蓮と同じような事を言い、ダンジョン睡眠を許可してくれるのであった。
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