目が覚めるとここはどこかの無人島

西中の田中

第1話無人島


 目が覚めるとそこは自分の部屋ではなく、目の前には太陽の光が反射してキラキラと輝く海と雲ひとつない青空が広がっていた。

 

「……ふぅ」


 布団がいつもとは違った触感がする。なにか花のいい匂いもする。

 あぁ、これは夢だな、たまにある夢の中で夢だって気づけるやつだ。この感覚って不思議だよなはっきりしてるのに気持ちが悪い。

 さてと、この場合どうしたもんだろうか。夢の中だから好きなようにできるだろ。

 こんな経験はたまにしかできないからな、どうせだったら目が覚めるまでは楽しんでおいたほうが得だろう!


「まずは眩しいからサングラス! そしてキンキンに冷えたビールとタバコ! ……あとはマッサージと爽やかなBGMをもらおうか!」


 俺は指を鳴らしながら空に向かって叫んだ。


「…………」


 おかしいな、何も出てこないじゃないか。自分の夢なのになんて不親切な夢なんだ。明日も仕事だってのにこれじゃ寝た気にならないぞ。

 晴れ渡った空には大きい鳥が飛んでいて、綺麗な海と砂浜、後ろにはジャングル、そして俺は全裸。

 こんなの夢に決まってる。しかし万が一の可能性がある、俺はお決まりでほっぺたをつねってみる。


「はぁ〜いや……まじ?」


 普通に痛い。やばいぞこれわ、考えたくはないがこれってもしかして夢じゃないんじゃ?

 いや、ありえないだろ! ちょっと待って落ち着いて考えよう。

 昨日仕事から帰る、寝る、起きる、どこ? おかしいだろここどこよ!?

 夢だと信じたい、すごく今天気はいいのに心には雨が降っているよ。あと少しで泣くかもしれない。

 

 落ち込んでてもしょうがない、夢かはまだわからないけど少し辺りを見てまわってみるか。

 起き上がり目の前の海に向かって歩き始めた。海の匂いがするな、いい匂いだ。

 歩き始めたはいいものの、人がいたらどうしようか今の俺は全裸だからな、見られたら警察とか呼ばれて社会的に死ぬな。

 そっと最低限の配慮として股間を手で隠しながら歩いた。

 波打ち際についた。冷たい波が足に当たる。


「おぉっ、すげぇーつめてぇなー」


 海に入るのなんて何年振りなんだろう。少しワクワクした気持ちになった。

 さっきまで自分のいた所を見ると、どうやら俺が寝ていたのは大きい花の中だったようだ。

 花の中で寝ているおじさんか……メルヘンだ。


「さてと、どうしたもんか」


 冷たい波を足で感じながら少し考えた結果、俺はとりあえず。


「だーれーかーたーすーけーてーーーー」 


 何度も叫んだ。


 もう確実に夢じゃないことはわかった。悪夢だったらなんて望みもない悪夢も夢だから。

 落ちていた木の棒を拾って砂浜に一応SOSの文字を書いておいた。万が一の可能性にかけたい。


 その後辺りを散策することにした。


 結果、生きている人はいなかった。白骨化したおそらく人であろう物はちらほらとあった。

 ここにいる生き物や植物はどれも見たことのない物で溢れていた。

 海に行くと大体の場所には漂流物などがあるはずだが、ここの砂浜にはゴミなどがなく、とても綺麗だった。

 ジャングルに入ってすぐ、ブルーシートと木で作られた謎のホームレスのような吹けば飛びそうな、家のようなものがあった。

 その家の住人であっただろう人から、申し訳ないが靴を譲っていただいた。


「サイズもぴったりだ、すみません。大事に使わせてもらいます」


 手を合わせて感謝した。


 他にも色々な拾い物があった、空のペットボトルがなぜか一本と体重計、ナイフや酒の瓶、ボロボロで読めない本や壊れたスマホなど。

 動植物は見たことがないのになぜか落ちている物は見たことのあるものばかり、意味不明だ。

 他にも、ここには何人かの生きていた痕跡が存在していた。中には子供のような小さい骨もあった。


 昔人が住んでいたのだろうか。謎が深まる。


 辺りの散策を終えて、元の場所に戻り一度集めてきた荷物を整理した。

 

「ふぅーどっこらっしょっと」


 俺は近くの岩に座り込んだ。


「……喉乾いたな」


 どこかで聞いたがサバイバルにおいて水があるのとないのではかなりの差があるらしい。


 急いで水を探さないと危ないことになるな。


 危険だがしょうがないか、ジャングルに行こう。

 休憩をした後、ジャングルに向かって歩き出した。

 しばらく体を動かしていて気づいたが、特に体を鍛えていたわけではないはずなのに、なぜかあまり疲れを感じていない。むしろ、体が軽くなった気がしていた。


 そんなことを考えているうちにジャングルに着いた。そこは薄暗く不気味な雰囲気が漂っていた。


「うわぁ、行きたくないなぁ〜」


 少し悩んだあと覚悟を決めてジャングルの中に入った。

 中に入ると至る所に生き物の気配を感じる。不気味な鳴き声や草木の動く音、辺りを注意し俺はナイフを握りしめながら全裸で進む。


 あ、靴は履いているな。


 すると、水滴の落ちるような音が聞こえてきた。

 音のする方に歩いて行くとそこには水たまりができていた。上を見ると、折れた木の枝から水が垂れている。

 試しに枝を折るとそこから水がちょろちょろと出てきた。

 海外に水の出る木があるみたいな話をどこかで聞いたことあるし、きっと大丈夫だろう。

 手を洗ってみた。サラサラとした感じで特に違和感はない。次に少し口に含んでから吐き出してみたが大丈夫そうだった。


「ぷはぁーーーーーいきかえるーーーーー」


 水をたらふく飲んだあと顔を洗った。しばらくすると水は出なくなってしまった。

 ここで水を見つけられるなんてかなり運が良かったな。こんな運がいいなら家に帰らせてくれてもいいと思うんだが。


「よしっと、これで飲み水には困らなくなるだろう」


 もう一本枝を折って、そこから出た水を拾ってきた空のペットボトルに入れた。

 今が何時なのかはわからないが、そろそろ暗くなってきそうな予感がする。これ以上は進まずジャングルを出ることにした。

 帰り道よくわからない黄色いりんごのような形をした果物を見つけた。少しかじってみたが毒っぽくはなかったから持って帰った。


 昔から胃腸が強いから大丈夫だろう…。


 ジャングルを出て元の場所に着く頃には夕方くらいの時間になっていた。自分の寝ていた花を見るとどんどんと、花が閉じていた。

 花びらを触ってみると朝は柔らかかったが、今は少し硬くなっているみたいだ。

 どうやら、夜になるにつれて花が閉じて硬くなる植物なんだろう。


 これなら、夜も安心して寝れそうだ。


 やることもない俺は花が閉じてしまう前に中に入り今日はもう寝ることにした。


「花の中で生活してるおじさんってすげぇファンタジーだなー」


 ゆっくりと閉じていく花の中からの空を見上げて今日のことを振り返る。

 昨日までの生活がまるで嘘みたいだな、仕事から帰ってきてテレビ見ながらビールのんで寝る。

 目を覚ませば夢かと思った夢は現実で、どこかもわからない場所に一人。

 今日寝たらまた昨日の日常に戻るのだろうか。

 だが、明日がどんな1日だろうと俺はこの世界で必ず生きてみせる。


 ぼーっと考えてるうちに花は完全に閉じて、暗闇に包まれた。すると、花の中がまるで星空のように光り始めた。


「綺麗だな」


 緊張の糸が切れたように俺は眠りについた。


 

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目が覚めるとここはどこかの無人島 西中の田中 @nisichunoTanakadesu

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