イケメンが女を寝取ってくると思ったら、俺にヤバいくらい執着していた女だった話

やまなみ

1.イケメンが女を寝取ってくると思ったら、俺にヤバいくらい執着していた女だった話





「おい、霧崎。


てめえ、ふざけてんのか!」



とある高校、とある日の昼休み。


俺は他クラスの教室に、怒鳴りこみをかけていた。


このクラスのクソ野郎に、用があったからだ。




「やあやあ、7組の坂本くんじゃあないか。


そんなに声を荒げて、どうしたんだい?」



細身の美男子が、薄っすらと笑みを浮かべて俺を見る。


その周りには、学校でも上位に入るほどに可愛いと評判の女子が何人も侍っている。




こいつの周りには、いつも女がいる。



それを見て、俺はさらにカチンと来た。




「とぼけるなよ。


どうしたもこうしたも、お前は分かってんだろう?」



俺は眼の前の美男子───霧崎ユーリに問い詰める。


こいつはフフッ、と余裕の笑みで俺に答える。




「いやあ、分からないな。



ボクに分かるのは、別のクラスに通うキミが、こんな穏やかな昼休みにとても怒っている、ということくらいだ。




そんなに怒って、何か不満でもあるのかな?


学校での生活が、うまくいっていないのかな?




だとしたら、心から同情するよ。



学校生活が満たされていないのは辛いだろうからね。



昼間から怒鳴り散らすくらい、思い詰めていることがあるのなら、ボクが話を聞いてあげてもいいんだけど」



霧崎はペラペラと、俺を小馬鹿にするかのように饒舌に話す。


形だけでも同情してくるこいつの態度に、俺は歯を噛みしめる。



「いらねえよ、そんなもん。


そもそも俺がムカついてるのは、てめえが原因だよ」



俺がそう言ったとき、霧崎は僅かに口の端を上げた気がした。




「ほう?


ボクが原因だというのかい。




キミがボクの事を考えていたと。




キミはボクの事を考えるがあまり、ボクのことで感情を昂らせて、ボクのいるこの教室までわざわざ駆け込んできたというわけだ。




ずいぶんな執着じゃないか。


ふふ、もしかしてキミ、ボクのことが好きなのかい?」




霧崎がそう言うと、取り巻きの女どもがクスクスと笑う。


こいつらは霧崎の周りを賑やかしているだけの、薄っぺらいクソ女共だ。


どれだけ見た目が良くても、こんな嫌味ったらしい男に媚びへつらっている奴らは、クソだ。



俺はさらにイラつきそうになる気持ちを、なんとか抑える。



「バカを言うな。


男を好きになるわけねえだろうが。


しかも、俺の彼女に手を出したクソ野郎なんかに」




俺は言葉にしながら、自分の中で怒りが湧いてくるのを感じていた。


頭に血が上っているのが、自分でもわかる。




「あはは、ごめんよ。



キミがあんまりにも顔を赤くしてボクを見ているんだから、そういう趣味があるんじゃないかと思ってね。


もちろん、今は多様性の時代だからね。


別にキミが男を好きだったとしても、馬鹿にするつもりはないから安心してほしいな。





それで…キミの彼女の話だよね?


申し訳ないんだけど、ボクが手を出したってのはどういうことかな?」



「とぼけるなよ。



お前、昨日俺の彼女とデートしてたんだろ。


手をつないで、楽しそうにカフェで話をしてたり…ほ、ホテルに一緒に入っていったり…。




この学校だけでも、お前らが一緒にいた所を見かけた奴が、結構な数いるんだ。



ここまでして、お前が手を出していないと言えるのか?」



俺は言いながら、あまりの悔しさに怒りがさらに湧き上がってくるのを感じる。





好きだと思っていた彼女。


俺はなぜか、知らないうちに女子に嫌われることが多いのだが、そんな俺にも変わらず優しく接してくれた彼女。




俺もそんな彼女の優しさに応えようとして、あの手この手で喜ばせるデートとか、サプライズとか、普段の会話とかを頑張ってきた。



それだけ好きな彼女だった。





そんな恋人が、知らない間に眼の前の男に奪われたという事実。



しかもこいつは、女を取っ替え引っ替え侍らして、やりたい放題していると噂だ。


そんなろくでもない奴に、俺の彼女を奪われた。




それを考えるだけで、やるせなさと怒りが湧いてくる。




「ああ、そのことか。



たしかにボクは、キミの彼女を名乗る女の子と、カフェでお話したね」



「じゃあ、やっぱり…!」



「とはいえ、ボクと彼女はまだそんな関係じゃないよ」



「はあ?


んなわけねぇだろ?


お、お前、俺の彼女とホテルに行ったんだろ?」



「行ったねえ」


霧崎は余裕の表情で答える。



「じゃ、じゃあ。


そういう関係で合ってるじゃねえか。


男女二人っきりでホテルまで入って、何もしていないなんてことはあり得ないだろう」



俺の追求に、霧崎は首を振る。



「いやいや、そんなことはあるんだよ。


カフェでお話したあと、彼女が体調を崩してね。



そのまま家に返すのも時間がかかって大変そうだったから、ホテルで休憩することにしたんだよ」



「ごまかすなよ。


男と女がホテルに入ったら、やることは決まってるだろ。



だいたい、俺の彼女とカフェに二人きりで入った段階で、だいぶおかしいだろうが」



「いやあ、それがボクにとっての当たり前だからね。


キミの常識と、ボクの常識は違うみたいだね。



ボクにとっては、ホテルに女性と入ったからと言って、そういうことをするとは限らない。


それに意中の女性でなくても、素敵な女性をカフェの会話で楽しませるのは、必ずしも邪な考えがあるわけではなくて、男としての当たり前のマナーなんだよ」


霧崎は飄々とした様子で答える。


周りの薄っぺらい女どもが、黄色い歓声を上げてそれに反応する。




そんな連中の態度に、俺はさらにイライラする。



こいつのこういうところが、本当に嫌いだった。




霧崎は世間の常識というものをある程度分かったうえで、自分だけは例外と考えている。


自分のルールや価値観を当然のものと考えて、世間の常識やルールを平気で踏みにじるフシがあるのだ。



そういう、ある種の自信や、独特の世界観に惹かれる女がいるのは分かる。



だが、こいつには他の人間がやらないようなラインを、平気で越えてきそうな倫理観の欠如が見え隠れする。



飄々と柔和な振る舞いをしているが、心の底では、周りの誰も人間だと思っていない感じ。



俺には、霧崎のそういうところが、気味悪く思えた。



「クソ野郎が……。


よくもまあ、そんな嘘をべらべらと…。



どうせ、お前にとっての女はみんな都合の良い遊び相手なんだろうが。



自分の彼女でもない女と、ホテルまで行っておいて何もないってのは無いだろ。


そうでなきゃ、彼女が俺にあんな態度を…」



霧崎は俺に言われて、一瞬歪んだ笑みを浮かべたが、すぐに余裕の表情に戻る。



「おやおや、これは驚きだね。


キミは思いの外、ボクのことをよく分かったような口をきくじゃないか。


そんなにボクのことを見てくれるなんて、なんだか光栄だねえ」



俺は霧崎の反応を無視して、話を続ける。



「…噂を聞いて、さっき彼女に訊いてみたんだよ。


昨日、霧崎とデートしたのかって。


そうしたら…」



「そうしたら?」



「フラレたよ。


急に彼女が怒り出して、


『そんな人だとは思わなかった!


あなたとは別れる。


やっぱり、あなたなんかじゃあ、霧崎くんとは比べ物にならないわ』って…」



俺は彼女の言葉を思い出して、自分の声が震えているのに気がついた。


俺は自分が泣きそうになっているのを、なんとかこらえる。



わけがわからない。



俺は別に、彼女に強く問い詰めたわけではない。


なるべくなら、周りの人間の噂だと笑い飛ばして、彼女を信じてやりたかったくらいだ。


だから俺は念の為の確認として、冷静に訊いてみたら、いきなり彼女が怒りだして、一方的に別れを宣告してきたのだ。



「フラレた?


そうか…。


それはずいぶんと、辛かったね。


薄情な元彼女さんの代わりに、ボクが慰めてあげよう。



よしよし、可哀想に」



霧崎が俺の頭に手を伸ばす。


「やめろ!


触るんじゃねえ!」



俺は霧崎の手を振り払う。


俺がこいつのせいで最悪な目に遭っているのに、当の本人のこいつが慰めのフリをしてくるのは、バカにしているとしか思えない。



「おっと、フラれて傷心のキミに失礼だったかな。


ごめんね。



お詫びと言ってはなんだけど、キミのために、もう少し詳しく昨日のことを話そうか。


さっきはキミが傷つくかなって思って、すこし話を変えて話していたんだけど。


キミには知る権利があるし、知る必要もあるみたいだから教えよう。




真実はこうだ。


ボクはね、キミの彼女を名乗る女の子と、カフェで会話をした。


特に下心があったわけではなく、ボクがちょっと彼女に訊いてみたいことがあって、時間をとってもらったんだ。





ボクからすれば、ただ、それだけのことなんだけど。


彼女にとっては、違ったみたいだ。




彼女は、途中で体調が悪くなったと嘘をついたんだ」


「嘘?」



「ああ。


彼女は体調を崩していなかったんだけど、ボクを誘うために、嘘をついたんだよ」



「ええっと…。


それはつまり、ホテルに誘導したのは…」



「そうだ。


ホテルに誘ったのは、彼女の方だ。



ボクは彼女をできる限り、帰してあげたかったんだけど、彼女がどうしてもと言うから、仕方なくホテルに入ったんだよ。


正直、彼女が嘘を言っているんじゃないかと薄々気づいていたんだけど、体調を崩したと言っているレディを放っておく事も出来なくてね。


やむを得なかったんだ。



ホテルの部屋で、彼女はボクへの想いを熱心に語ってきた。



彼女はこう言った。



『目が覚めた。


私の運命の人は、霧崎くんだけ。


坂本くんとは別れます。


だから、私を抱いてください』


…ってね」



「な……!」


俺はあまりの衝撃に、言葉が出ない。


いや、彼女と霧崎の反応から、薄々は勘づいていた。


霧崎の方にはそんな気はなく、彼女のほうが一方的に霧崎のことを好きになったのだと。



でも、そんなことがあったなんて、信じたくなかった。 


彼女が俺を捨てて、霧崎に迫ったなんて。



「まあ、キミのせいじゃないさ。


カフェでお話している時、彼女とキミのお付き合いの様子を訊いてみたんだ。


彼女はキミと一緒にいる時間について、不満を漏らしてはいなかった。


むしろ、楽しそうにキミとの思い出を、ボクに話してくれたよ。


あの時の彼女の顔には、たしかにキミへの想いに溢れていた。




ただ…カフェで話すうちに、彼女の様子がおかしくなってね。


ボクを見る目が、だんだんと、恋する乙女のそれになってきて。



彼女はキミのことをちゃんと好きだったんだろうけど、ボクの魅力に当てられて、我慢できなくなったんだろう。



わざわざ嘘をついて、ホテルに二人っきりになる状況を作り出すほどに、ね」



霧崎は、やれやれと首を振る。


「そ……んな……」


俺はその場に膝をついてしまった。


立っている気力が、湧いてこない。




彼女は、そんな軽薄に男を乗り換えるような女ではなかった。


俺のことをちゃんと見て、俺の個性も受け入れて、良いところも悪いところも、優しく愛してくれるような子だった。


俺が何もしていないのに、異常に周囲の女の子に嫌われてしまうことを知ってなお、俺と付き合ってくれたほどだ。



決して「良い男が見つかったから、次の男に乗り換えよう」なんてことをする人じゃない。



そのはず…だったのに。


俺は自分が人間不信になりそうなのを、感じていた。



「流石にボクも、彼女に迫られたからといって、その場ですぐに抱く気にはなれなくてね。



女の子からの誘いを断るのは、男として非常に心苦しいものではあったけど、なんとか彼女に納得してもらえたよ。



キミがフラレたのは、その八つ当たりってところかな。


気の毒に。




…ま、正直なところ、彼女の言い分も分からなくはないんだ。


ボクのような男に出会ってしまったら、その魅力に心を奪われて、他の男を忘れてしまうのも無理は無い。



キミも彼女も、悪くない。


悪いところがあるとしたら、会う人に尽く好かれてしまう、ボクの魅力かな」



霧崎は大げさに肩をすくめた。



「なんだよそれ。


他人事みてえに言いやがって。



お前は、自分が何をしたか分かってるのか。


お前のせいで、彼女と別れる羽目になったんだぞ!」



俺は怒りの矛先を霧崎に向けて言う。


もちろん、霧崎に悪気はないのだろうが、それでもこいつの舐め腐った態度にはムカついた。




霧崎は、俺に怒りを向けられて怯えるどころか、むしろ妙に嬉しそうな顔をする。


その顔には、どこか俺に対する、ジメッとした感情があるように思えた。



「難しい問題だね。


ボクはただ、彼女とお話をしただけ。



もちろん結果的に、キミから彼女を横取りする形になったのは、非常に心苦しく思っているよ。



でもね。


ボクはとても魅力的な存在だから、ただその場にいるだけで、どうしても周りがボクを放っておかないんだよ。


これはもう、ボクにもどうしようもないことなんだ」



霧崎は悪びれる様子もなく言った。


そうだ。


霧崎はこういう奴だ。



「くそっ……お前みたいなやつに、話が通じると思ったのが間違いだった」



「そう言わないでくれたまえよ。


ボクだって、彼女とキミに悪いことをしたと思っているんだよ。



そうだ。


罪滅ぼしと言ってはなんだけど、ボクが手ずから、キミを良い男に育ててあげようか」


「は?」


霧崎が、急に俺の顎を掴みながら言う。


女どもが「羨ましい」とかなんとか湧いているが、俺はそれを跳ね除けた。



「お前…マジで何言ってんの?


気でも狂ったか?」



「はっはっはっ。


驚いているキミもおいしそ…いや、可愛くて良いね。




ボクはね、真面目に言ってるんだよ。


今はボクのように、会う人を魅了してしまうほどの美しさはないが、キミの魅力を磨き上げれば、ボクを越えるほどの良い男になる素養があると思うんだ。




その可能性を眠らせたままなのはもったいない。



だからね、ボクがキミの魅力を磨き上げて、より良い男に仕立ててあげたいんだよ。


休み時間と放課後、そして休日も、ボクがキミに付きっきりで、手取り足取りキミをさらに良い男に磨き上げる手助けをしたい。


もちろん、放課後と休日は、ボクの部屋でみっちり付きっきりでキミを鍛えてあげるから、キミの方で用意するものはなにもないよ。


どうだい?

なかなか魅力的だとは思わないかい?



ボクとキミで、ずっと二人っきりでいっしょに過ごして、二人三脚で息を合わせてお互いを高めて行くんだ。


坂本くんと、二人っきり…ふふ、素晴らしいことじゃないか」


「ひ……」


俺はやけに早口でまくし立ててくる霧崎から距離を取る。



なんだこいつ、本当に気が狂ってるのか。


なんで俺の彼女と別れる原因になった奴に、付きっきりで魅力を上げてもらわなくちゃならないんだ?


意味が分からない。



おまけにさっきから俺を見る目が、どこかジメッとしていて、気味が悪い。


まるで……獲物に狙いを定めた獣のような感じというか。



「冗談じゃない!


なんで俺がお前みたいな奴から……」



「理由はあるよ。


キミの元彼女はね、ボクの魅力に当てられて、ボクと付き合うことを自ら望んだんだよ。


こう言うと失礼かもしれないが、この件はボクの魅力に対して、キミの魅力が彼女を繋ぎ止めておくほどのものじゃなかったからとも言える。


ボクのような男に、キミが勝つにはどうすればいいか?


分かるだろう?」



霧崎は顔を近づけながら、俺の耳元で囁くように言う。


その目から、妙な執着心が垣間見えた。




俺は霧崎の言動に、軽く恐怖を感じ、同時に呆れた。


霧崎から距離を取って、俺は話を終わらせようとする。



「いや、まじでムリ。


お前本当に頭おかしいよ…。



彼女にフラレてムカついてたけど、思ったよりお前がヤバすぎてアホらしくなったわ。



俺、もう帰るから。




…みんな、騒ぎを起こして悪かった。


ごめんな」



最後の謝罪は、霧崎に対してというよりも、教室にいた、他の生徒に向けて言った。


こんな気狂いとクラスメイトなんて、さぞ大変だろうに、という同情も込めながら。




俺は霧崎に背を向けて、教室の外へ向かった。


もうこいつと話すことはない。


俺が霧崎から離れようとしたその時。




「おっと」


俺の手首を、霧崎が掴む。


俺はすぐに振り払おうとするが、ピクリとも動かない。


まるで万力で締め付けられているように、異常な力で掴まれていた。



「離してくれ」


「まあ待ちたまえよ、坂本くん。


まだ話は終わっていない」


「いや、もう終わっただろ。


お前と話すことなんかねえよ」


「そうはいかないよ。


ボクの協力の申し出を、キミが受け入れてくれるまで、この手を離す気はないから。



キミは、ボクの部屋で、ボクと共にお互いを高め合うんだよ」



霧崎は俺に顔を近づけて言う。



瞳孔が完全に開ききっていて、俺の目をじっと覗き込んでくる。



完全に、正気じゃない。



「ひえっ…」


俺は得体のしれない化け物に捕まってしまったような気がして、思わず小さな悲鳴をあげる。



俺は身の危険を感じ、咄嗟に教室の生徒に助けを求める。



「みんな! 助けてくれ!


霧崎がおかしいんだ!」



俺がそう叫んだが、教室の生徒たちは、俺と霧崎から距離を取り、近づこうとも、助けようともしない。



それどころか、俺がかなり大きな声で助けを呼んでいるのに、全員が同じように、全くの無反応だった。


まるで、俺の言葉には反応しないように、あらかじめ命令されているかのような…。



俺はその光景に、ゾッと背筋が凍る気持ちになった。



「な……なんでだよ!


なんで誰も反応しないんだよ!」


だが、俺の叫びは空しく響くだけだった。



「ふふ。


無駄だよ、坂本くん。


この教室のみんなはね、ボクの意のままなんだから」


霧崎がニヤリと笑う。


「は?


お前何言って……」


その時、クラスの男子の一人と女子の一人が、俺の両腕を掴んだ。



「なにすんだ!離せ!」


俺は抵抗するも、全く振りほどけない。


霧崎と同じく、まるで鉄の塊に掴まれているみたいだ。



「………」


こんなに力を込めて俺を拘束しているのに、俺を掴んでいる二人は全く平然とした顔をしている。


そこには、人間としての意思が見えない。


「どうしちまったんだ…」


「ふふ。


みんな、ボクのことを応援してくれているみたいだね。


坂本くん。


キミがボクと一緒に過ごすのに同意してくれるまで、この教室から出られると思わないことだ」


「な……っ!」



俺はさらなる恐怖に襲われる。


こいつは、本気だ。



俺は、頭のネジが外れきった異常者に接触してしまったことを後悔した。



逃げられない。




「さあ、坂本くん。


キミは、どうするのかな?




まさかもう一度ボクを拒絶するなんてことは、ないよね?」



霧崎は、恐ろしい笑みで、俺に語りかける。


断ったら、殺される。



そう思わせるだけの、異常な状況だった。




俺は恐怖に震えながらも、なんとか言葉を絞り出した。



「わ……分かったよ……」



俺は霧崎の異常な力と狂気を目の当たりにして、抵抗することを諦めた。


一刻も早く、ここから逃げたい。




そんな様子の俺を見下ろしながら、霧崎は満面の笑みで頷いた。



「よし、よし。


よく言ってくれたね。



それじゃあ早速、今日の放課後はボクの部屋でレッスンだ。


ボクが手取り足取り腰とり、キミに密着して、キミを最高の男にしてみせるよ。


放課後になったらキミの教室に向かうから、一緒にボクの部屋に行こうね♡」



「…は…は…い」


俺は、目の前の狂気に、ただ頷くしかできなかった。





こうして、俺は霧崎に囚われることになったのだ。






======

あとがき・解説


いったんお試しで軽めに作ったので、4話で終わる短い話です。

これから毎日18:15に1話ずつ更新していきます。



反応をよかったら全体的に設定や構成を整理して、だいぶ話をマイルドにして連載形式に作り直す予定です。


なので続きが気になったら、いいねとか、コメントくださいm(__)m



表紙はAI生成。

ヒロインのユーリの姿。



・霧崎ユーリ

ヒロイン。

表向き男として振る舞っているが、実際は女。


主人公である、坂本くんのことが病的に大好き。




ものすごい美形で、男装するだけで、簡単に校内に女子のファンクラブが数十人できるくらいにはイケメン。


ちなみにこの非公式ファンクラブには、他校の生徒も続々と入会していて、もうすぐ100人を越えるほどの人気ぶり。





その魔性の顔以外にも、実際に人を洗脳することができる目を持っている。


ユーリは人と目を合わせることで、相手の感情を操作できる異能を使うことができるのだ。




この洗脳能力を使って、他人から自分への感情を操ったりして、今まで要領よく生きてきた。




しかし愛しの坂本くんには、「素の自分を愛してほしい」と思っているので、洗脳能力を使っていない。


というより、そもそも坂本君にはなぜかユーリの洗脳能力が効かない。




そのため、坂本くんには直接洗脳をかけず、坂本くんの周囲の女を洗脳して、坂本くんの彼女とかを寝取ったりしている。


坂本くんの周囲の女に洗脳をかけて、坂本くんのことを嫌わせたりして、坂本くんから悪い女どもを遠ざける作戦だ。




ユーリは、坂本くん以外にあまり興味がない。


なので、坂本くんをモノにするために、仕方なく女を侍らせているという経緯がある。


洗脳能力を使いすぎて、能力を使わない時の人とのやりとりが下手。


好きな相手への距離の詰め方がおかしい。


愛しの坂本くんのことになると、暴走しがち。





普段は余裕たっぷりな顔で女を侍らせたり、謀略を行っているが、恋愛自体には非常に奥手。




というより、重度のヘタレ。


坂本くんを手に入れるためなら平気で自分の命すらも捨てるくらいに覚悟が決まっているのだが、坂本くんに自分の正体を明かすこととと、坂本くんに想いを伝えることだけは、どうしてもできない。




ユーリは人間関係の構築方法を、ほとんど洗脳能力に依存しているからだ。



能力で相手に好かれることに依存しすぎていて、本命の坂本くんに素の自分をさらけ出した時に、拒絶されるんじゃないかという不安が常にある。


だから、どれだけ坂本くんへの想いが募っても、ユーリは胸の内に留めておくしかない。





むしろ想いは押し止められて燻り、坂本くんへの異常な愛となって行動に現れる。




ユーリは想いを伝えて愛されることから逃げ、代わりに坂本くんから憎しみを受けることを選んだ。


愛されてはいなくても、坂本くんに強い感情を抱かれている限りは、まだ忘れられていないと安心できるからだ。





今回は坂本くんに彼女ができてしまって、かなり焦っていた。


以前から坂本くんの彼女には洗脳を試みていたが、効きが悪く、坂本くんと付き合うのを止めることができなかった。


そこで強硬手段として、念入りに能力を使って、彼女さんの人格を変えるくらいに強力な洗脳をかけた。


普段は洗脳をかけられた相手へのダメージが大きいから、強めに洗脳するのは避けていたのだが、このままでは坂本くんを奪われてしまうという危機感で、強行に踏み切った経緯がある。





そして無事、坂本くんと彼女さんの仲を裂くことに成功。


その勢いのまま、坂本くんを密着個別指導に同意させることに成功した。


ここまでやられたら、坂本くんはもう逃げられないですね。






ちなみに性自認は男寄り。


男装をしているのは、坂本くんから正体を隠すためという理由もあるが、一番の理由は、単に自分のことを男性だと思っているから。


社会的には男性として生きていくことを望んでいるのだが、恋愛対象は男の坂本くんになっている。



そのためユーリの性生活の理想は、男性の身体で生まれ変わって、男性として坂本くんに犯されるというものになっている。




そういう癖も相まって、自宅には坂本くんを盗撮した画像の他に、BL系やゲイ系の本や動画、音声作品などがたくさんある。


そういう本や動画を見ながら、坂本くんに男性として犯される自分を想像して、日々自分を慰めている。


最近はこっそりと漫画を書いて、坂本くんXユーリ(男体)の本を自分で作ってみたりしている。




とはいえ女性としての身体にものすごい不満があるかと言うとそうではなく、坂本くんの子供を妊娠したい欲求もかなり強いので、ある程度は女の身体に納得して生活している。




もし、ユーリの理想を完全に叶えるとしたら、男性の身体で坂本くんと愛し合って、男性の身体のまま坂本くんの子供を妊娠すること、という感じになる。



現状不可能なので、医療技術の進歩を待ってもらうしかないですね。




一応作品の方向性としては、BLではなく、男女の物語として書いているつもりです。


男女の話ではあるものの、ユーリも坂本くんも、たまたま好きな人が異性だった、という感じの設定です。






・坂本くん

今回の主人公(被害者)。

名前はまだ決まっていない。



フツーの高校生だが、とある理由があってユーリの洗脳能力が全く効かない。


ユーリの洗脳能力には、効き目が強い人物と弱い人物がいるのだが、全く効かないのは、現状では坂本くんだけ。




女の子が好き。


このご時世に珍しく、気になった女の子にはとりあえずアプローチしてみるプレイボーイ。


しかし坂本くんの周りの女の子は、ユーリが念入りに洗脳して坂本くんを嫌うように誘導されているので、大抵の場合、告白する段階になると嫌われている。



告白した瞬間に女の子から平手打ちをくらい、股間を蹴り上げられ、悶絶して倒れているところに唾を吐きかけられるような毎日を送っている。




普通の学生であれば、このような状況に追い込まれたら一生のトラウマになることもあるだろうし、女性恐怖症になってもおかしくない。




それなのに平然と生活して、女の子にアプローチできているのは、彼が幼い時に逢った一人の女の子を、心の支えにしているから。


幼い頃に逢った初恋の女の子のことが今も好きで、そんな女の子に再会した時に立派な男になって再会したい、という思いがある。


だから、坂本くんは勉学や部活、恋愛に対して常に努力しようと頑張っている。


初恋の女の子が惚れてくれるような、良い男を目指して日々を過ごしているのだ。




坂本くんはまだ知らないが、その初恋の少女は坂本くんの予想以上にずっと近くにいるし、ずっと坂本くんのことを見ているし、ずっと坂本くんのことを好きなままだ。

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