第93話 死亡フラグ

 海神が異界の侵略者を呼び寄せ、俺が死の神によって魔改造されて黄金の概念を取り込んでから約一ヵ月が経過した。ニクスが最初に予想した、異界の侵略者がやってくるまでのタイムリミットな訳だが……今の所、世界に異常は感じられない。

 概念を取り込んで人間の枠組みを超えた時から、あらゆるセンサーが敏感に働いてしまって生活するだけでもかなり苦労してしまったが、一ヵ月もあれば流石に身体の方が慣れてきてしまう。今はそんな神経を使わなくても普通の人間と同じような生活ができるので、死の神が言っていた今からなら力の制御ができるって話も嘘ではなかったってことだな。


「敵は?」

「……確実にこちらに近づいてきている。恐らく明日か、加速すれば今日にはやってくるだろうな」

「ふーん……そう言えば聞いたことなかったけど、異界の侵略者ってどんな姿をしてるんだ?」


 侵略者とは言うが、どんな姿をしているのかなんて全く気にしたこともなかったんだが……人間と全く同じ姿だとしたらやりにくいだろうな。危機を感じて街中に逃げ込まれて擬態されたら全く見つけることもできないだろうし、人間の姿をしているとやっぱり殺すのに多少の抵抗感が生まれるのは仕方がないことだと思うし。


「姿は異界によって違うが……今回は気色悪い見た目をしているな。腕が4本で、目がついていないようだな」

「あ、もういいわ」


 異形型ならどらが敵かすぐに見分けがつくからそれでいい。


「で、本当に降下地点はここなんだろうな?」

「急な進路変更がなければな」


 異界の侵略者を迎え撃とうとする俺たちは、現在ヨハンナからかなり離れた高地にキャンプ中である。ニクスの予測ではこの近辺に侵略者たちが降下してくるらしいので、先にこちらで準備をしておこうと思ってやってきたのだが……これで予測が外れてましたとかなら笑えないな。

 背後にちらりと視線を向けると、一ヵ月の間に雰囲気が変わったアルメリアとマリー、そして張り詰めた雰囲気を醸し出しているメイの3人。リュカオンとリリエルさんはそれぞれ己の部族の為に動いてくれと伝えてあるので、この場所には来ていない。しかし、これだけの戦力で敵を迎え撃って勝てるものなのかどうか……ちょっと心配ではある。


「アルメリアとマリーは?」

「調整は万全のはずだ。疑似的な精霊として世界に定着させているし、力の扱い方を間違えなければ後で人間にも戻れるようにしてある。その分、戦力としては1段劣るかもしれないが、元が優秀だからそれなり以上の戦力にはなるだろう」

「ニクスがそう言うなら信じるが……頼むぞ?」

「わかっている」


 アルメリアとマリーは、この戦いについてくるためにニクスの力を借りて疑似的な精霊の力を身につけている。あまり強く結びつけると精霊として人間から離れすぎてしまうし、逆に弱すぎるとそもそも戦力にならないという面倒くさい調整を強いられたようだが、ニクスなりの妥協点を見つけることはできたらしい。

 そして、ちょっと心配なのはメイに関してだ。ニクスに言われて自らが取り込める概念をこの一ヵ月で探っていたようだが、俺が黄金の概念を取り込んだ時から特になにかが変わっているようには見えない。それがなんとなく嫌な雰囲気で……本当に大丈夫なんだろうかと勝手に心配している。


「っ!? おい、加速したぞ!」

「じゃあ今日中に来るのか?」

「いや、この速度は……すぐに来る!」

「は?」


 ちょっと待てよ……てかなんでそんなに急に加速したんだよ。


「ヤバいな……先頭の奴が明らかにこっちに向かって来ている。多分、気配を察知された」

「それが原因じゃねぇか」


 ニクスに気が付いたからこちらに向かって加速してきた奴がいるってことだな。そうるすと……かなり好戦的な民族ってことでいいのか?


「戦いが不利になったら即座に神々を復活させるからな」

「本当にそれでいいのか?」

「滅びるまでの時間を引き伸ばせるなら最終手段として私は選択する」

「はいはい」


 俺が立ち上がると同時に、空から何かが落ちてきた。

 2本の足に4本の腕を持つ怪物。身体の節々からは棘のような突起が生え、威圧感のある雰囲気を醸し出している。体色は全体的に黒色で、顔面が少し薄い灰色のようになっている。ニクスが言っていた通り目は見当たらず、口は大きな牙があって猛獣のような感じになっている。

 ギョロっと音がしそうなほどの勢いで、顔面の至る所が開いて眼球らしきものが現れる。


「眼、あるじゃん」

「あったな。移動用に閉じていただけだったのかもしれないな」

キケ!聞け! ゼイジャクナルホシノタミヨ!脆弱なる星の民よ! ワレワレハオマエタチノクラスコノホシノ我々はお前たちの暮らすこの星のシハイシャトシテクンリンスルベク、支配者として君臨するべく──」

「聞くと思ったのか?」


 ベチャベチャと聞き取りにくい言葉で喋り出したエイリアン擬きを速攻で殺す。俺の周囲から溢れるように現れた黄金が槍となって頭を刺し貫き、身体はニクスの魔力によって消し飛ばされた。残ったのは首から上だけで……その頭も槍に刺し貫かれた状態になっている。

 まぁ……言語が通じなかったとしても、これは宣戦布告とやってることは変わらないな。ちょっと言語通じてたけど。


「ギィッ! コロシタ!殺した!」

「おいおい……どんどん降ってくるぞ」

「数えきれん。今の所、ここ以外に降ってくる様子はないが、時間の問題だろうな」

「そもそも星単位の敵と戦争しようってのに、たったの5人で何とかするってのが無理な話なんじゃないか?」


 よくよく考えたらこれは星単位の戦争になる訳だから、俺たち5人でなんとかできるレベルじゃないと思うんだ。流星雨のような頻度で星に降り注ぐ侵略者を前に、5人で出来ることなど限られている。

 先兵を殺したことでこちらのことは完全に敵だと認識しているだろうし、ここからは出会えば即殺し合いだ。


「アルメリア、マリー」

「なんですか? 逃げませんよ?」

「今更逃げ場なんてないからそんなことは言わない」

「ならなによ」

「……死ぬなよ」

「それ、死ぬ時の定番セリフじゃない?」

「うるさい!」


 これでも俺は真面目に言ってるんだから、こんな時に死亡フラグとか言うな!

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