夏
舞寺文樹
夏
狭いカゴに入れられて、昆虫ゼリーを食べて、透明なプラスチックの中から広い世界を見つめる。
目の前に広がる世界の果てしなさが、このカゴの狭さを強調する。
カリカリと引っ掻いても何も変わらぬ、黄ばんだプラスチックはくっきりと、はたまたゆらゆらとわたしの未来を描く。
勇ましいツノ、たくましい外骨格、それでも見窄らしいわたし。
泣いているのだ、泣いているのだ。スイカ割りの棒の振り抜いた先の石ころが飛んでいく。
泣いているのだ、泣いているのだ。割られぬスイカも、当たらぬ棒も。
泣いているのだ。わたし。
風鈴のチリンチリンとなる音に乗せて、わたしは久しぶりに外に出る。猛暑日の外の風はこんなにも気持ちいのだ。心地よいのだ。
久しぶりの外だから思いっきり伸びをしようか。しかし、私の手足は動かない。
久しぶりの外だから、近所のクワガタと一戦交えようか。しかし、私のツノは動かない。
久しぶりに空を飛ぶ。地上わずか100センチ。
しかしなぜだろう、羽も広がらない。わたしは茶色い地面に落下した。
仲間たちだ、わたしの仲間たち。ちっちゃい黒いのが、わたしのことを持ち上げ運ぶ。
すごい力だ。わたしは久しぶりに大冒険をする。
すごい力だ。わたしの手足は次第に引きちぎられる。
すごい力だ。わたしの外骨格が食い破られる。
バラバラになったわたしは、その目隠し少年がスイカに棒を振り下ろすのをカゲロウの先に見た。
夏 舞寺文樹 @maidera
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