生活
カオマンガイ
日曜日、サイゼリア
よく晴れましたね。担当してくれているネイリストの第一声だった。暑いですね、寒いですね、よりもなんだか嬉しかった。
言葉の通りよく晴れた日だった。30℃近いが、風の通るカラッとした夏の始まり。ネイルサロンは高校の最寄駅で、その駅のすぐそばのショッピングモールのテラスから空を見るのが好きだ。
今日は家で夕食をとりたくなかったので、サイゼリアに向かった。日曜18時前のサイゼリアは、いつもの混雑と騒々しさはなく、すぐに席に案内された。
家で夕食を取りたくなかったのは、母に去年古着屋で購入したお気に入りのTシャツを、襟ぐりが黄ばんでみっともないから捨てろと言われ、少し揉めたからである。私も襟ぐりの黄ばみは気になっていたから、今日着たら漂白してみるねと母に言った。すると母はまるで私が母に大迷惑をかけたかのような顔で、「恥ずかしい、みっともない。漂白しても落ちないわよ。大体、デザインって言ってるけどその脇の下の切り込みだって絶対に欠陥よ。新品の洋服ならわかるけど古着だから言ってるのよ。」と続けた。ゆったりしたサイズ感のTシャツには、縦に伸びたような紫色の英語がデザインされており、左袖から脇にスリットが入っている。脇のスリットが珍しくて気に入っていたが、母は去年から洗濯に出す度に文句を言っていた。
私は少し腹が立ち、「まあわかんないよね、若者に伝わればいいんだよこういうのは。」と悪口を言ったので、母は冷静なフリをしながら、確実に怒りを帯びた声色で「そう言う問題じゃない。はしたない。脇が見えるじゃない。ちゃんと脱毛もしてないんだから、気をつけなさいよ。」と言い捨てた。こう言う時に、太ってるんだから、ブスなんだから、ムダ毛が、などと言うのは母の悪い癖で、昔から嫌いだった。はいはい、あなたの言うことは気にしてませんよという態度でリビングを出たが、さすがに脱毛を予約しようか、などと思ってしまった自分も嫌いだった。
サイゼリアの席に着くと隣には、30代くらいに見える髭の生えたハーフパンツの男性と、髪の毛をラフに結んでアディダスの水色のショートパンツを結んだ女性がテーブルにアラカルトを並べていた。
2人は都度追加メニューを頼みながら、食べている料理について褒めたり、もしもこの料理にオプションを選べるならパセリがいいな、そういえばあの時のイタリアンで食べた生パセリは青臭くて最高だったよね、などと話していた。食事をとりながら、その食事が主役の会話を楽しめる2人が素敵で、私は2人のグルメな会話を盗み聞きしながら、小エビのサラダとチーズが増量したらしいマルゲリータをつまんだ。
明日は月曜日。これから一生曜日に感情を支配されるのかと思うと絶望してしまう。金曜日の夜をピークに、月曜日にかけてテンションが下がる下がる。社会人一年目の研修時に、華金!などとインスタグラムのストーリーに載せていた自分は、社会人ごっこに過ぎなかった。
「華の金曜日」は、「最低な月曜日」と表裏一体である。
一瞬で過ぎ去る最低も華も、忘れるのが惜しい気がして、今日からここに残しておこうと思う。
生活 カオマンガイ @kaomangai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。生活の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
須川庚の日記 その3/須川 庚
★15 エッセイ・ノンフィクション 連載中 231話
1日1話雑談集/桜田実里
★12 エッセイ・ノンフィクション 連載中 68話
双極性障害のわたし、日々是日記。/ふゆさん
★90 エッセイ・ノンフィクション 連載中 344話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます