きょじん と こびと

いしも・ともり

【超短編小説】きょじん と こびと

巨人の村に こびとが暮らしていました。


巨人の村は

建物も大きく

道具も大きく

食べ物も大きく

こびとにとっては

とても暮らしづらい環境でした。


村で一番小さな家を探しましたが

扉の取っ手は届かないし

トイレは大きすぎて落ちてしまう。


村で一番小さなフライパンを買いましたが

重くて持てないから料理はできない。


村で一番小さなパンを買いますが

食べきれなくて腐らせてしまう。


働こうとしましたが

「おまえにできる仕事なんてないよ」

と どこに行っても断られました。


仕方がないので 

巨人のヘルプさんに 

生活の補助をお願いして

暮らしていました。


ヘルプさんはいつも 

こびとを同情的な目で見ていました。


「何もできないなんてかわいそうね」

「私が何でもしてあげるからね」


そう言って 

移動する時も抱っこして

食事の時もスプーンで口に運び

トイレが使えないからとおむつを使いました。


こびとができることも

「やってあげる」と 

ヘルプさんが全てやっていました。


やがて こびとは家にこもって

何もしなくなりました。


こびとは親切にしてくれるヘルプさんに

「すみません すみません」

と言って暮らしていました。


ある日 よその国から

小人こびとの旅人がやってきました。


旅人はこびとの生活を見て言いました。

「きみは 体の具合が悪いのかい?」


こびとは 何も答えられませんでした。


旅人は こびとを連れて 自分の国に帰りました。

その国は 小人こびとの国でした。


小人の国には こびとにとって

ちょうどいいサイズの家と

ちょうどいい重さの道具と

ちょうどいい量の食べ物がありました。


こびとは 国中を見て回りました。

小人たちは みんな 

好きな服を着て 

好きな時間に

好きなことをして

いきいきと働いていました。


こびとは気付きました。


「自分は何もできないんじゃない。

 自分に合う環境さえあれば 

 何だってできるんだ」


こびとは 小人の国で生活を始めました。


自分にしかできない仕事を見つけ

自分に合った家を探し

自分に合った道具を買って

自分の好きなものを作って食べました。


こびとは 何だって自分でできました。


ある日 こびとは 

この国の きょじんと出会いました。


きょじんは うつろな瞳で

何もない部屋に寝かされ

複数の小人のヘルプさんに

すべての世話を任せて生活していました。


こびとは尋ねました。

「きみは 体の具合が悪いのかい?」


きょじんは答えました。

「僕がさわると 傷つけてしまうし

 僕が動くと 壊してしまう。

 僕にできる仕事なんてないし

 何もしない方が 迷惑がかからないんだ」 


こびとは 前の自分と同じだと思いました。


こびとは きょじんと一緒に 

巨人の村に戻りました。


きょじんは 巨人の村に

あっという間になじみ

いきいきと働き始めました。


こびとときょじんは

一緒に暮らし始めました。


お互いに

ちょうどいいサイズの道具をそろえ

なければ作り

自分にしかできない仕事をして


お互いに苦手なことは 補い合い

お互いに得意なことは たたえ合いました。


やがて 

こびとを「かわいそう」と言う 

巨人はいなくなりました。


今では 

巨人が苦手な細かい作業を

こびとは依頼され

もちつもたれつで

共生しているとのことです。


おしまい


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きょじん と こびと いしも・ともり @ishimotomori

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