ドリームズカムトゥルー
貧乏神の右手
第1話 下校のチャイムが鳴るまでは
新年度が始まったということで、いよいよ新入生の歓迎会が行われる。
体育館にぎっしりと詰まった生徒たちが期待を込めた目で壇上を見上げる。これからまさに、新入生に向けた部活動紹介が始まるのだ。
オープニングを飾るのは吹奏楽部だ。大会に向けて演奏するのはもちろん、野球部の応援ために球場に参戦したり、学校行事の盛り上げ役として一役買ったりする。特別強豪な部活動がないこともあり、この学校では最も活気に溢れた部といっても過言ではなかった。
そんな力強い演奏に合わせながらダンス部が踊りを披露する。これまた新入生にはウケたようで、拍手と歓声が鳴りやまなかった。その波に乗るように、野球部やサッカー部、バスケ部が与えられた5分という短い時間を最大限に使ってパフォーマンスを披露する。その後もいくつか運動部の紹介が続いた。
運動部が終わり文化部へ。だんだんとパフォーマンスより口頭での説明が増えてきたせいか、新入生の集中力は徐々に失われていた。
そんななか、僕は、ステージの脇で他の部長と一緒に自分たちの番の待機をしていた。もう少しで呼ばれる。僕は今紹介中の珠算部の後だった。
珠算部は意外にも盛り上がったようで、「おー」だの「すげー」だの、感嘆の声とさっきよりは威勢のいい拍手が聞こえてきた。その理由は、なんとこの場でフラッシュ暗算を披露したかららしい。確かに、そろばん教室に行ったことがない人からすれば驚く事間違いない。かくいう僕もその一人だった。
ところで、僕の所属する部活はと言えば――小道具は何一つない。説明に使うメモ用紙もない。
「次、お願いします」
生徒会の案内の方に呼ばれ、僕はステージ横の小階段を上がり壇上に立った。全生徒の目が僕の顔に向いていた。普段はこんな大舞台に立つと緊張で汗が止まらないのだけれど、今日は不思議と足が震えることもなかった。
僕は立てられたマイクを掴むこともなく、やや中腰になって始めた。
「文芸創作部部長の立花慶です。部員は三年の僕一人で、主な活動は秋の文化祭に向けた学校誌の制作となっています。創作に興味のある人のみを待っています。以上です」
パラパラと手を叩く音がする。間があって、進行役が気を取り直して進めた。
「文芸創作部の部長さん、ありがとうございました。続いてはコーラス部の皆さんです!」
数名が壇上に上がる。新入生の興味はすぐにそっちに移った。
きっと、あんな挨拶をすれば今年度は誰も入部してこないだろう。もしかすれば僕一人を追いやって部室を乗っ取る輩が出るかもしれないが、そういった常識外れの生徒は、進学校のここにはいないと思われる。
創作なんて部に入らずとも出来るし、そう思う人は一人でやってくれた方が良い。創作をしていることを明かしたくない人だっているだろう。
紹介が終われば、僕は体育館後方のクラスメイトの元に戻ることになっている。
もう新入生の記憶からは消えてしまったに違いない。そう確信して僕はステージを降り、生徒たちの横を通っていたら、なにやら不思議な視線を感じた。明らかにステージ中央ではなくこちらを見ている生徒がいる。それも新入生で、見覚えのない顔だ。
きっと僕ではない何かを見ているのだと思った。横目に見ていただけなので、勘違いだと。ところが、視線を感じた先、何人もの合間を縫ったその先で僕は彼女と目が合った。これだけ多くの人が素晴らしいコーラスに聞き惚れ、壇上に注目する中で、彼女だけがこちらを向いていた。
まずいと思って目を離し、意識して目を向けないようにする。一体何なんだ。
ただ、この疑問が解消されるのは思いの外すぐのことで、この次の日には進展があった。
放課後、彼女はただならぬ雰囲気でうちの部室の前に立っていたのだ。
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