フルンクドゥチ・サガ

田んぼの左上

第1話「戦友」

ーーー創世歴612年8月12日

 俺はようやくこの世界の冒険を終えた。本来であれば、2人で来るはずだったのに…少し名残惜しいが俺もそちらへ行くさ、ヘルマ。



ーーー創世歴522年9月30日

 とある戦場に1つの傭兵団がやってきた。

 「今日からここに配属になった、ドベリオン傭兵団だ、微力ながら協力させてもらう。」

団長のドルベートは一言言うと軽く会釈をした。俺はそんなドベリオン傭兵団で、なんだかんだでもう8年になる。そしてここが俺の最後の戦場でもある。この大陸『パムワン大陸』には8つの国がある。ルンド王国、パルム連合王国、ソレトニシア共和国、トルドン王国、マハーク連邦、マルトニシア王国、シュマ共和国、そして俺らのマティニア帝国、そしてマティニアとトルドンは長年戦争状態だったがトルドン内で革命が起き、俺らの軍勢は王城に迫っていた。

 俺の最後の戦場は王城の前にある。マウツメニア平原。ここで敵軍を破れば王都は陥落、マティニアは領土を広げることになる。そしてこの戦争が終わった暁には隣にいる戦友ヘルマと共にパムワン大陸を旅する予定である。今日はマウツメニアの戦いに備えて俺らはテントの前で焚き火を焚きこの戦争の後のことについて談笑した。焚き火がパチパチとなる音、近くの川の水の音、森から聞こえる虫の鳴き声が心地よかった。

「アスト?」

俺の顔を覗き込みながら聞いてきたのは副団長のリチャードだった。

「すみません、考え事をしてまして」

俺はこの後の旅について考えるうちに周りが見えていなかった。

「アストはこの戦いで終わりだったよな?どこか行くのか?」

副団長の隣に座っていたレオが聞いてきた。

「俺はこの戦争の後大陸の各地を旅する予定です。ヘルマと共に」

それを聞いていたヘルマは静かに頷いている。

「おう!帰ってきたら話を聞かせてくれよ?」

俺は静かに頷いた。そして眠りについた。


ーーー10月1日

 俺たちは最も戦いが激しい中央に配属された。だからと言ってここで死ぬつもりはない。

「全員気ィ引き締めろ」

団員たちは息を揃えて

『応!』

と返事をした。そしてその場で待機すること数分、戦いの開始を知らせる笛がなった。俺らは一直線に走り出す。全員で敵陣目掛けて突っ込んだ。生憎最前列にいたやつらは槍で刺されてしまったがそこから団長が突破口を開き全兵士が雪崩れ込むように敵陣に入り込んだ。あたりは乱戦状態。俺はとにかく生き残ることに専念した。目の前の兵士が少し邪魔だったから斬り殺した。隠れているのを見つけたやつも斬り殺した。追いかけてきてしつこいやつも斬り殺した。俺は疲労のせいで満身創痍、もう戦える状態ではなかった。次敵に見つかれば死ぬ。その危機的状況の時、敵将討伐を知らせる狼煙が上がった。

「勝ったのか…」

俺は近くの木に寄り掛かり、気を失いそうになったが、ヘルマを見ていないことに違和感を感じた。俺は戦場を歩き、ヘルマを探した。

 そしてようやく俺はヘルマが戦っていた場所に着いた。ヘルマは死んでいた。鎧は剥がれ、服は脱がされ、嬲り殺されていた。初めてヘルマが女だったことを知った。俺はその場で泣き崩れた。ただ、ヘルマはまだ微かに息が残っていた。重なった死体をどけて、運び出そうとした時、

「旅の話、あっちで教えてな?…」

最後の力を振り絞ったヘルマから出たその言葉は震えながらも強い意志が感じられた。ヘルマはゆっくりと目を閉じてていった。


ーーー10月8日

 俺はあれから1週間休み、心を入れ替えた。旅の準備を済ませて、傭兵団に顔を出し、最後のお礼を言った。しかし団長がいない。

「団長なら外にいるぞ」

副団長が優しく教えてくれた。俺が外に出ると、扉の横に団長は腕を組んで待っていた。

「別れは済んだか?」

団長は空をみながら聞いてきた。ただその目は少し潤んでいた。

「もちろんだ、明日には王都を発つ予定だ。」

団長はほっとしたように息を吐き、

「この先、いろんな困難があるかもしれない、ただお前にはヘルマが居たから大丈夫だと思ったが…ヘルマはもう居ない。だからお気持ちっていうかなんというか、これをお前に授ける。」

それはドベリオン傭兵団の宝剣だった。団長は鞘を持ち横にした状態で俺に突き出した。

「こんな高価なもの…いや、ありがたく貰うよ。最後まで最高な団長だよ、あんたは」

俺は少し泣きながら言った。いつも笑顔を崩さない団長が笑いながら涙を流していた。

 明日には団員たちから貰った馬で港町『オルフェングル』に向かう予定だ。トルドンとルンドには険しい山脈があり、そこには魔王城もある。だから港から船に乗りルンド最大の港町『ドラフト』に行く必要があるのだ。

 俺は宿に戻り、眠りに入った。



       次回「港町(オルフェングル」

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