第21話 良い展開
外を走るようになってから、気づけば1週間が経った。1日というのはとても短く、あっという間に過ぎ去ってしまう。今夜は中秋の名月。窓から見てみると、満月というわけではなかったが、大部分が照らされている。虫も鳴いており、昔の人がよく言う、いわゆる風情があるって感じだ。
「なにそれ?」
「あーこれ?これはススキっていうの」
進吾に説明しながら部屋に飾ってみた。飾るだけで、一気に秋らしさを感じる。
「月見団子じゃないけど、お団子買ってきたから、みんなで食べよ」
そう言って、テーブルの真ん中に置いておいた。ふと飾ったススキを見ると、そこにはなにもなかった。
「あれススキどこいったの?」
落ちたと思い、下を見てもどこにもない。
「えー、消えちゃったのかな…」
少し気に入っていたため、ショックに感じていた。
「おらおらー」
なんだか楽しげな声が聞こえたため、そちらに目をやると、進吾が旦那にススキで攻撃?をしていた。
「くすぐったいなー」
「なーんだあるじゃん。なにしてんのー?2人で」
私は団子を食べながらその微笑ましい光景を眺めていた。とても楽しそうだった。
運動会まで残り2週間、1週間、6日、5日となる頃には、これまで走り続けた成果が出ていた。進吾は前よりもずっと体力と速度が上がっていた。長い時間、長い距離走ることができるようになっていた。私と私よりもノリ気の旦那には、良い運動になり、健康的になった気がする。最初の時と比べて、最低でも200メートルは伸びただろう。
「1ヶ月でも意外と走れるようになるもんだね」
「俺も正直そんな伸びないと思ってたわ」
私は予想よりも良い展開に胸を躍らせていた。後は本番の進吾次第だ。
「進吾は体調大丈夫?」
「だいじょーぶ」
「かけっこで1位取れるかなー?」
「たぶん」
進吾は元気良く答えなかった。言葉も"たぶん"と曖昧な表現。不安は多少なりともあるようだった。だが、普段の様子を見ていると、自信はありそうだった。
「ママは?」
「どうだろうね。進吾に追いつけるとは思うけど……」
そう言ったが、考えてみればただ走るだけ。順位は気にしなくて良いということに今更ながら気づいた。走るだけならなんとかなるはずだ。
「一応聞くけど本当にママでいいの?私は正直見てるだけで充分だよ?」
「いいの」
「あんなにパパ好きそうだったのにいいんだ……」
ムスッとした表情をした。やはり子供の考えていることはいまいちよく理解できない。親は大変というのは身をもって実感する。そしてそろそろ始まる運動会。"1位を取る"という今までとは違って、達成するのが難しいものである。無事進吾に勝ってほしいと願うばかりだ。
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