第13話 手術室のランプ

あれから2日が経った。進吾の返事は変わらず"治療を受ける"と言っていた。その後は治療の手続きと説明を受け、明日に行うのだとのこと。進吾は言葉では治療に期待をしつつも、表情から緊張や不安が見て取れる。私たちも同じ気持ちだ。病室に戻ってからは、テレビを見ながら雑談をしていた。すると、ふと気になる場所が紹介された。


「さー、続いての新橋オススメスポットはこちら!新橋駅から徒歩3分にある、がん封じで有名の神社に参りました!」


映っていたのは石の鳥居に、提灯が飾られている神社だった。どうやらここは数少ないがん封じという御利益があることで有名らしい。


「ここ行ってみたいな」


私が言うよりも先に旦那が呟いた。


「ちょうど私も思った。退院したらここに行ってみよっか?」

「うん。いってみたい」


私はスマホにメモをし、テレビで紹介されていた神社について調べることにした。その間2人はテレビを見て話をしていた。


「御朱印いいなー、俺集めてるからなー」

「いまどれぐらいあるの?」

「車行ったらあるけど、確か6個とかじゃなかったか?」

「へぇー」

「しょーがないなー、車から持ってくるわ」

「いや、ぼくなにもいってないけど…」


そう言って、そそくさと御朱印を取りに、車に行った。私は手持ちのお茶を飲み干したことに気付き、財布を持ち、席を立った。


「ちょっとコンビニに行ってくるけど、何か欲しいものある?」

「なーい」

「大丈夫?とりあえず行ってくるね」

「はーい」


扉をゆっくりと閉め、病院の近くにあるコンビニに向かった。



「はー、ついついスイーツとかお菓子買ってきちゃった。まあ旦那が食べるでしょ」


お菓子が何個か入った袋を持ち、進吾の病室の前に着いた。そして扉を開けた。


「わっ__」


こちらを見ると、大慌てで紙らしきものと鉛筆を隠した。何事もなかったかのようにこちらを向き、微笑んだ。


「なに~?どうしたの~?」

「なんでもない!」

「ふーん……まあなんでも良いけど……」

「おーい、進吾。持ってきたぞー」


意気揚々と旦那ご自慢の御朱印を見せてきた。


「これは友達とゴルフ行ったときに近くにあったから行ったんだよね。それとこれは京都にある神社で、ここには鳥居がめっちゃあって___」

「ふーん」


神社に行った経緯や説明には興味が無さそうだ。話を聞き流してる進吾と熱心に解説する旦那の温度差に、声を抑えて笑ってしまった。手術前日にもかかわらず、穏やかに過ごすことができた。



迎えた手術当日、看護師も医師も私たちも全員が緊張の中、最終的な打ち合わせを行い、手術を開始した。その間私と旦那は手術室の前のベンチで座っていた。お互い何の言葉も発さずにただただ座っていた。手術室のランプが赤く光った。本格的に始まったようだ。


「はぁ……」


手足が冷たくなり、心なしか震えている気もする。旦那は居ても立っても居られないのか、同じ場所をぐるぐると歩いていた。それから数分、数十分、数時間が経過した頃、赤いランプがパチッと消えた。静かに扉が開いた。医師が出てきたが、マスクで表情がよく見えなかった。


「手術は……成功しました」 


緊張が一気に解け、肩の力が一気に抜けた。


「はぁ……良かった……」

「ありがとうございます」


無事に治療を終え、後は安静にするだけとのことだ。ひとまず私たちはホッとした。手術にはリスクがあると聞いていたため、それをなんとか乗り越えられたのだ。だが問題は、その後の生活にある。


「治療の影響で体力は今よりも低下するでしょう。しばらくは激しい運動を控え、安静にお願いします」


そう医者に事前に言われていたのだ。運動会は10月上旬。それまでには運動はある程度できるらしいが、進吾の体力が問題だった。当たり前だが、落ちてしまった体力は簡単には元の通りに戻らない。


「とりあえず治療は終わったけど、運動会とか色々大丈夫かな…」

「俺らが支えてあげればなんとかなるんじゃないか?すぐに運動はできないけど、時間を置けばランニングはできると思うし」


これから先、運動会だけじゃない。友達と遊んだり、水族館に行ったり、神社にお参りしに行ったり、様々な場面で長い間外にいなければならない時がある。それらに備えて、私たちはその困難を乗り越えなければならなかった。


「そっか…頑張ろうね」

「そうだな、頑張るぞ」


旦那と共にその困難に立ち向かう決心をした。

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