異世界学園に入学したが「青春」なんてものはないらしい~特殊スキル・解析と模倣で平穏な生活を過ごしたい!~
詠影えい
一限目 突然の異世界転移
「行ってきます」
そう言ってドアを開ける。俺の名前は佐藤怜人(さとうれいと)今日から新学期が始まる高校生だ。
趣味 特になし
得意なこと 特になし
学力 普通
正に普通という言葉が似合う、平凡な高校生の俺だが新しい日々が始まるとなるとワクワクしないわけがない。
クラス替えに新しい出会い、もしかしたら彼女だって......
そんな妄想に後押しされ期待を込めるかのように強く足を踏み出す、その瞬間足元が強烈な光を放つ。
突然の出来事に体が固まる、そしてそのまま光は強くなっていき動けないでいる俺を飲み込んだ。
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頭が朦朧としている。何があったんだっけ......
「 っと」
まとまらない思考、まるで海の上に浮かんでいるようだ。
「 えてる?」
誰かに話しかけられている。あと5分後くらいに起こして......
「ちょっと!」
肩をつかまれる感覚、それと共に先の出来事が頭にながれこんできて意識が覚醒する。そうだ!足元が急に光って......ってあれ?
慌てて下を見るが何の変哲もない地面があるだけで、足踏みをしたり手を軽く振ったりしても違和感はない。
いったい何だったんだ?そう思っていると後ろから声がかかった。
「道の真ん中でボーっと立ち尽くして急に動き出したと思ったら変な事をしだして、挙句の果てには無視ってわけ?」
そうだった、俺は誰かに話しかけられてたんだった。すいません、そう言おうと後ろを向いた俺は驚いて再度固まる。
そこには鮮やかな赤髪をなびかせ輝くような瞳を持ち、少し冷たいような印象を与える顔立ちをした美少女がいた。
しかし俺が固まった理由は容姿ではない、なんとその少女には......角が生えていたのだ。
「角?」
あまりの衝撃に疑問が小さく口から出る。その疑問が耳に届いたのか彼女の眉がピクリと動き段々と不機嫌そうなオーラをまとい始める。
「大丈夫そうだからもう行くわ」
「え、ちょっ」
彼女は苛立ちを隠さず唐突に話を終わらせ、止める間もなく歩いて行ってしまう。
何か彼女の地雷を踏んでしまったらしい、その足取りは少し速くグングンと距離がはなれていく。
遠くなっていく背中、心配して声をかけてくれたんだからお礼ぐらい言っとけばよかったな。名前も聞き忘れたし......
そんな後悔をしていると自分が学校に行く途中なことを思い出した。
あれからどれだけ時間がたっているのかはわからないが恐らく急いだほうがいいだろう。新学期の初日から遅刻なんてしたら怠け者というレッテルを張られかねない。
気を取り直して学校に向かおうとしたその時、あることに気づいた。
俺の家の前ってこんな感じだっけ?
一度冷静になって周りを見回す、何処かの敷地内なのだろうか? 辺りにはレンガ造りの壁が広がっておりアーチのような形の門が見える。
おそらく出入口なのだろう鉄で出来た大きな扉がそれを物語っているが、俺の家の近くにこんな場所はない。
ここ、どこ......?
少なくともさっきまでいた家の前の道路ではないことは確かだろう。
更に自分と先の彼女以外にも人が多くいることに気づく。彼らを遠巻きに観察してみる。
服装はみな制服のようなものを着ているが容姿は全く違った、いや違いすぎた。
いわゆる獣耳が生えている人、尻尾がある人、もはや見た目が人ではない奴。
???
いったん落ち着いて現状の整理をしよう。家を出たと同時に光に飲み込まれ、気づいたら知らない場所で、そこには角や尻尾がある人たちがいる。
なぜだろうか俺が置かれている状況にピッタリとあてはまる言葉が浮かんでくる。
もしかしてこれって......
異世界に転生してる......?
「はっ!?」
危ない脳がエラーを起こすところだった。
「君、大丈夫かね」
ほらそんなことをしているからまた心配してくれた人が……
「校門前に不審者がいると聞いてな、状況からみて君のことだとは思うのだが」
前言撤回、別の心配だったようだ。
彼は白いひげを生やした老人だった。眼鏡をかけたその目は冷静でこちらを注意深く監視しており、その風貌は聡明な学者を連想させる。
「名前を聞かずに追い出すのもどうかと思ってな、ワシの名前はレノン=ドリス君の名前は何というんじゃ?」
「俺は佐藤怜人です」
偽名を言っても仕方ないので正直に名を明かす。
その名前を聞いたレノンさんは反芻するように俺の名前を口に出す。
何か思い出していた様だが、しばらくして何かに気が付いたようにこちらを向いた。
「気が変わった。この後の予定は何かあるかね」
「え? 特にはないですけど」
「ならばついてきなさい。君の現状について知りたいだろう」
眼鏡がきらりと光りこちらに背を向けて歩き出す。
レノンさんは何かを知っている、そう確信した俺は小走りで彼を追いかけた。
しばらくの無言の時間が過ぎた後目的の場所についたのかレノンが立ち止まる。
「ついたぞ」
そこは大きな扉の前だった。それには様々な紋様や恐らく呪文と思われるものが無数に彫られている。
レノンがその扉に触れる。すると紋様が光を放ち扉が動き始めた。
「驚いたかね?」
そう聞いてくる。この世界に来てから獣耳や角などは見たが、魔法という異世界の代表的なものを見たのは初めてだった。
眼を見開いて驚いている俺をレノンがかすれた声で笑いながら扉をくぐる。そしてそこにある豪華な椅子に座るとこう言った。
「改めて儂の名前はレノン=ドリスこの魔法学園の長であり、君が異世界人であることを知る者だ。何か聞きたいことがあるならどんどん聞いてくれたまえ」
疑問しかない。何処から突っ込めばいいのか分からないが、優先順位が高いところから聞いていこう。
「まず聞きたいことがあります。なぜ俺がこの世界の人間でないと分かったんですか?」
「それはだな......君と同じようにこの世界ではない何処かから迷い込んだ人物が過去
にいたんじゃよ」
「俺以外にも転移した人がいたんですか!?」
その問いに対しレノンは眼鏡をはずし懐かしそうな顔をする。
「もう何処にいるのか分からんがのう、風の噂では元の世界に帰還したとは聞いたが......」
居場所が分からないと言われ落胆したがその後にとんでもない情報を聞かされた。
「......帰還する方法があるんですか?」
「断言は出来ん、もう何十年と前のことじゃからのう。そこで提案なんじゃが......帰還する方法が見つかるまでこの学園の生徒になってみないかね」
そう提案をし、レノンは握手を求めるように手を伸ばした。
見知らぬ世界に突然放り出されて何をすればいいのかすら分かっていない俺には正に渡りの船。
不安な点はいくつかあるがこの話を受ける以外の道はないだろう。
承諾の意を示すため、伸ばされた手を強く握る。
この瞬間、俺は異世界の学生になった。
「そういえば俺のことを不審者と言っていましたが、誰から聞いたんです?」
「ああ、赤髪の生徒に聞いてのう、念のため確認しに行ったらお主がいたというわけじゃよ」
決めつけはよくない、そう分かってはいるのだが......アイツ許さん。
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