第52話「ただのバースデー」(2024/8/6)

 誕生日が楽しみじゃなくなったのは、いつからだろう。

 年輪のように成長を刻む記念日から、ただ機械的に年齢が増えるだけの1日になる。それが、大人になるということだ。


 今日は春奈の35回目の誕生日。もっとも、今の今までそのことを忘れていた。

 仕事終わりにコンビニに寄っている時に、母親から誕生日を祝うLINEが届き、そこでようやく思い出した。


 普段はダイエットのために我慢しているプリンを買った。

 いい歳をして自分で自分を祝おうなんて思ってはいない。ただ食べたいものを我慢せずに食べる口実に使っただけ。


 プリンの蓋を開けると、裏側に何か書いてある。


『今日もおつかれさま。明日もがんばって!』


 ただ機械が印字しただけの、記号にも等しい文字列。

 温度のない文字なのに、春奈の心の中の温度は、少しだけあたたかくなった。


「あーあ、あたしもついにアラフォーかあ」


 ふっと笑って、久しぶりのプリンを味わったのだった。

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