第3話「あいさつ」(2024/6/18)
私の家の近所には、小学校、中学校、高校が揃っている。仕事終わりに徒歩で買い物に出かけると、自転車で走っている生徒たちとよくすれ違う。半分くらいは素通りしていくけれど、半分くらいは「こんにちはー」とか「こんばんはー」とか挨拶していってくれる。
あんまり決めつけるようなことは言うものじゃないけど、男の子、特に野球部と思われる子たちが挨拶してくれることが多い気がする。彼らの建前も忖度もない穢れなき挨拶が、現状維持をしながら朽ちていく私の心をきれいに洗ってくれる。
私も大人としてちゃんと挨拶を返したいけれど、すぐに返事をするだけの瞬発力が無い。さらに、リモートワークが中心になり、あまり人と会話することなく仕事を終えた後は自分が思っている以上に声が出ない。
挨拶しない嫌な大人だと思われてしまっているだろうか。ダメな大人の見本になってしまっただろうか。今日は、いっそ自分から声をかけてみようか。
「こんばんは」
小学生の男の子に挨拶してみた。
「こんば……うわあああ!!」
彼は青ざめて走り去っていった。
え、なんで。
昨日まではそっちから挨拶してくれたのに。
私がここで、車で轢かれるまでは。
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