rab_0616

@rabbit090

第1話

 ちょっとなんかずれてる。

 良幾りょうきは、目を回しながら騒がしい会場を眺めている。

 人が好きだ、という前向きな思いで介護の仕事に就いた。だけど、現実に打ちのめされている、というか、本来的に俺は人のことが好きじゃなかったんだと、気付いたのだ。

 「ねぇ、なにしてんのよ。」

 「なにってぇ?」

 「あんたじゃなくて、良幾だってば。ねぇ、分かってる?あんたの彼女、あんたを捨てて、勝手に捨てて、勝手に招待状送って、知らないって顔してる。なのに、なんで結婚式なんか来てんのよ。」

 吾郎ごろうは、つい最近まで完全に男だった。要領がよく、女にモテていた。だが今はすっかり、女になっていた。

 初めて見た時、吾郎が女装して俺の前に現れた時、俺は、かわいい、と思った。

 マジで、誰この子、かわいい、って。

 でも、吾郎だってすぐ分かった。小さいころからの幼馴染だし、そもそも吾郎に一緒にご飯でも食べようって言われたんだし。

 何て言っていいか分かんなかったから、

 「似合ってる。」

 と言ったら、照れられた。

 なんか、難しい、そうれだけ考えていた。

 「ねえ、美里みりも良幾もさ、えりかのこと許せるの?」

 「…許す?」

 「はあ、おかしいよ、マジで。」

 おかしいって言われても、でも。

 「吾郎君はさ、えりかちゃんのこと知らないでしょ?」

 「何よ、美里。」

 「私は、えりかちゃんのこと好き、だから来たの。」

 「もうっ。」

 吾郎は、悔しそうにそう言った。

 俺も、でもおおむね美里と同意見だった。本当のことを言うと、えりかがおかしいことは気づいていた。だってそりゃそうだ、勝手に仕事辞めて、笑ってんだから。

 

 「久しぶり、良幾。」

 「うん…。」

 「もう、そういう所だよ。バカ。」

 新婚だ、ここにいるのは結婚したばかりの女であって、俺は二人で車に乗っている。

 「結婚式、来てくれてありがとう。」

 「いや、吾郎も美里も、まあ、良かったって。」

 「そうなんだ。」

 「………。」

 俺は、なにを言っていいのかは分からない。大人になって、したくないことはしないでいいと思ったし、つかできないし、えりかと、こうしていることが悪いことだって知ってるはずなのに。

 「俺は…またえりかに会うよ。」

 「うん、あたしも。」

 そうだ、現実は、こういうものなのだ、その時なぜか痛烈に、そう感じた。

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